ジュゼッペがそう叫びながら杖を差し出し、一匹の巨大な魚の化け物に向かって魔術を放った。
見れば、それは氷の矢である。
巨大な槍ほどの大きさのそれは、ジュゼッペの近くに出現し、そして回転しながら巨大な魚の化け物に突き刺さる。
ヒャッハー!!! 我が魔術をとくと味わうがいい! グラキエスサーゴ!!
ジュゼッペがそう叫びながら杖を差し出し、一匹の巨大な魚の化け物に向かって魔術を放った。
見れば、それは氷の矢である。
巨大な槍ほどの大きさのそれは、ジュゼッペの近くに出現し、そして回転しながら巨大な魚の化け物に突き刺さる。
グルアァァァァア!!
飛び上がった勢いのままジュゼッペを一飲みしようとしていたらしい化け物であったが、急所を一撃で貫かれたらしく、ジュゼッペに一矢報いることすらできず、断末魔の悲鳴をあげて湖に大きな音を立てて叩きつけられた。
そしてしばらくののち、沈んだ巨体はぷかり、と湖の水面に浮かんできた。
それを見たジュゼッペは木で作られ魔術で補強された即席のいかだの上で満足そうな笑顔で頷き、ヴォルフラムとフランクにドヤ顔で言った。
どうじゃ! ガキども! これがわしの実力じゃ!
それはまるで、新しいおもちゃを手に入れた子供が自慢するかのような、ある意味でほほえましく、ある意味でくだらない光景だったが、ヴォルフラムとフランクはこの爺さんより少しだけ、大人だったらしい。
パーティ最年長の冒険者の呆れた自慢に、
……そりゃあ、良かったな、爺さん。立派だよ、その年で。
全くだな……ふつう、その年でここまではしゃぐのは難しいだろう。尊敬するぞ。
と、言って褒める。
しかしジュゼッペは二人の言葉に含まれたからかいに微妙に気づいたらしく、
お主ら……わしのこと、馬鹿にしとるじゃろ? 絶対そうじゃろ! この! わしがいなければこのいかだも作れんかった癖に!
そう言って、湖の上に浮かぶ小さないかだに地団太を踏んで、揺らした。
おっ、おい! じいさん! やめろよ! 沈む!
ただでさえ重い俺たちが乗ってるんだぞ! いくら魔術で補強したからと言って、あんまり乱暴に扱っては……!!
レンズ湖についたはいいが、水辺で水遊びもない、ということで湖に出るためにいかだを作ったのだが、これは三人の共作だった。
ヴォルフラムが木をいくつか切り倒し、フランクが細かい枝を取り除いたりするなどしてある程度加工した上、ジュゼッペが魔術的な補強を行い、即席でもなんとか湖の上に出れるだけのものを作ったのだ。
それで、しばらくは湖の上で狩りをしていたわけだが、ジュゼッペが今までほとんど戦ってこなかった憂さを晴らそうと、比較的派手な魔術を使い、また巨大な魔物ばかり狙っていた。
いかに大きい、とはいっても、この辺りの魔物の強さは大したものではなく、それ自体は別にいいのだが、問題はそう言った魔物を倒すたびに、小さないかだが沈みそうなほど大きな波が起こることだ。
そしてそれに加えて、ジュゼッペが暴れるため、いかだの強度は限界に近づいていた。
結果として……。
誰がやめるかっ! この! このこのっ!!
じ、じいさんっ!! ま、まじでやべぇって! 冗談じゃねぇよ!
た、たのむっ! ジュゼッペ! やめてくれっ!
二人にしては珍しく懇願するが、それでもジュゼッペはやめなかった。
そして……
今の音……
聞いたぜ……まぁ、なんだ、お互い、岸に上がれるといいな……
んっ? 主ら、何を言って……!!
流石に様子がおかしいことにジュゼッペもようやく気づいたらしい。
ふと、足元を見ると、いかだのつるで止めていた部分がほどけ、それぞれの木が独立して流され始めていた。
あっ……
じいさん、何か言うことはあるか?
……ごめんちゃい。
このくそじじいっ!!
……いつものことだな……
そして、いかだは完全に分解し、三人とも湖に沈んだ。
ばしゃばしゃと泳ぎ、何とか岸に向かおうとする。
なんだかんだ言って、三人とも泳ぐことは出来る。
普通に考えれば、このまま問題なく岸にたどり着けるはずだった。
けれど。
岸までもうひと泳ぎ、というときに至って、
……
フランクの目に、岸辺を歩く一人の少女の姿が目に入った。
しかし、尋常な様子ではない。
そもそも、体がおかしかった。
向こう側が透けている。
足も少し浮いていて……。
あれは、まさか噂の少女では、とフランクは思い、声をあげる。
お、おい、ヴォル、ジュゼッペじいさん!
緊迫したフランクの声が響いた。
不思議に思って、二人も反応した。
しかしその反応は芳しくない。
それも当然だろう。
長い距離を泳いで、精神的にも肉体的にも披露しているのだから。
なんだよ……もう泳ぎ疲れてきたぜ……
若いもんがなに情けないこと……言っておるんじゃ……はぁはぁ。
あんたも疲れてるじゃねぇか……
二人とも、そんなことを言っている場合では……っ!?
……見つけ……た……
唐突に少女が何かをつぶやき、そしてその手が挙げられた。
それはフランクたちに向けられていて、
ま、まずいっ! おい、二人とも!
危機を感じて叫んだが、二人には届かなかった。
そして直後、少女の手から光が発せられ、フランクの意識は飛んだのだった。
テンポが良くって読みやすく、あっという間に読み終わりました。続き楽しみにしています!