クリスくんの挑発するような言葉に、
ミューリエは眉をひそめた。

睨み合う2人の視線の間には
火花が散っているかのようだ。
 
 

ミューリエ

なんだとっ?

クリス

魔王の力が完全に
失われるということは、
今まで以上に魔族の力が
落ちるだろう。
そうなった時、
我々人間が魔界の侵略を
始めるかもしれないのだぞ?

デリン

ふふ、ありえるな。
人間は欲望の塊だからな。

クリス

そうなった時、
魔族を束ねる存在が必要だ。
デリンやクレア殿に
それが務まるか?
あるいはノーサスに任せられるか?

ミューリエ

…………。

ビセット

魔族内のゴタゴタで
自滅する可能性も
否定できませんね。

クリス

そうした未来の道筋も示さずに
命を捨てるなど、
無責任だとボクは思うが。

レイン

さすが、
伊達に国王はしてないわね。
親戚である私も誇らしいわ。

クリス

それにあなたの命を絶つ
という重責を、
よりによってアレス様に
任せようというのか!
どれだけアレス様の心が痛むか、
考えたことはなかったのかっ!

ミューリエ

っ!

アレス

クリスくん……。

クリス

あなたが死のうが
ボクには関係がない。
魔界も人間に侵略されようが
知ったことか!
だが、これ以上アレス様に
重荷を背負わせ苦しめるのだけは
絶対に許せないッ!

ミューリエ

だったらっ、
どうしろというのだッ?
このままでは同じことの
繰り返しだ!
魔王の力は邪悪で強大だ!
糧として恐怖や滅び、絶望を好む!
それを求める!

ミューリエ

その衝動には誰も逆らえんのだっ!

ミューリエ

貴様に分かるかっ?
自らの意思と関係なく
負の感情を求めてしまう苦悩をっ!

クリス

うぐっ……。

ミューリエ

アレクの温かな心に触れた瞬間から
私は負の感情を抑えようとした。
だが、ダメだったのだ。
むしろ心の中で
正と負の感情が衝突し、
苦しくてたまらなかった。

ミューリエ

アレクは全ての力と
人間の短い寿命のほとんどを
私のために捧げて
その苦しみから救ってくれた。

タック

……でもそれは
アレクの意思でもあったんだ。
ミューリエだけの責任じゃねぇよ。

ミューリエ

だが、それは争いの火種を
後世に残す結果と
なってしまったのだ。
ノーサスが魔王の力の封印を解いて
ようやくそれに気がついた。

ミューリエ

もはや私の命をもって
償うしかないだろう……。

シーラ

ミューリエ様、
ほかの解決法がないか、
なぜ私たちに相談しないのです?

ミューリエ

シーラ……。

シーラ

あなたは1人で抱え込みすぎです。
世の中に万能な人なんていません。
だから私たちは
助け合うんじゃないですか。

シーラ

今までそうして旅を
してきたでしょう?
勇者も魔王も
助け合っていいんですよ。
誰か1人が頂点に立つなんて、
時代遅れですよ。

アレス

シーラの言う通りだよっ!
僕も同じことを考えてた。
みんなの助けがあったから
今の僕があるって!
だから今回も力を合わせて
乗り越えようよ!

ミューリエ

アレス……。

ミューリエ

う……あぁああああああぁーっ!

 
ミューリエは膝から崩れ落ち、
人目もはばからずに大泣きした。

それからしばらくして彼女の感情が
落ち着いてから、
僕たちは解決策を考える。
さすがにすぐに名案が出るわけはないと
思うけど、
みんなそれぞれ真剣に
考えてくれているみたいだ。

――そうだよね、
だってミューリエは僕たちにとって
大切な仲間だもん。


その後、
いくつかのアイデアが出ては消えてから
不意にシーラが大きな声を上げる。
 
 

シーラ

アレス様、
『あれ』を使ってみるのは
どうですか?

アレス

『あれ』って?

シーラ

竜水晶です。
想いの強さに応じて
様々な奇跡を起こせるんですよね?

アレス

あっ、そっか!

 
 
僕は懐から竜水晶を取り出した。

確かにこれに想いをぶつければ、
奇跡が起こせるかもしれない。
きっと魔王の力を消すことだって……。
 
 

ミューリエ

それだけはダメだ!

アレス

ミューリエ?

ミューリエ

お前までアレクと同じ運命を
辿ることになってしまう……。

アレス

えっ?

タック

アレクも竜水晶に願ったんだよ。
魔王の力を消してくれってな。
でもあいつでさえ、
肉体と魔王の力を分離させるので
精一杯だったんだ。

アレス

でもすでに分離している今なら、
今度こそ消せるんじゃないの?

ミューリエ

例えそうだとしても
代償が大きすぎる!
アレクに続き、アレスの命まで
縮めるわけにはいかない!

アレス

……いいんだよ。
僕はミューリエに
助けられ続けてきた。
今度は僕が助ける番だ。

ミューリエ

しかしっ!

アレス

それにね、
魔王の力を消せれば
世界を平和に
近付けることができる。
みんなに恩返しができるんだよ。

シーラ

アレス様……。

レイン

アレス、あんたバッカじゃないの?
自惚れないでよ!

アレス

レインさん?

レイン

あたしは自分の意思で
ここにいるの。
だからアレスに恩を売ってるとか、
そういう意識だってない。
つまり返してもらうものもないの!

レイン

……あたしにも手伝わせなさいよ。
2人で願えば成功する確率も
助かる確率も
高くなるかもしれない。

ミューリエ

レイン……。

ビセット

そうですよっ!
私も協力させていただきます。

アレス

ビセットさん?

ビセット

お忘れですか、私の試練を。
お互いを信じる心があれば、
想いを合わせることだって
できます。
今回は私も協力させて
いただきますよ!

エレノア

そういうことなら、
みんなで願ってみましょう!

タック

そうだなっ!
もしかしたら
うまくいくかもしれねぇっ!

デリン

……俺は抜けさせてもらう。

アレス

デリン……。

デリン

俺はお前たちと旅をして日が浅い。
足手まといには
なりたくないからな。

ミリー

そういうことでしたら
私も同じですね。
しかも私は一度、
アレスを裏切っていますし。

アレス

デリン、ミリーさん。
僕は2人にも協力してほしい。
だって大切な仲間なんだもん。

アレス

もし2人が協力してくれないなら、
僕は1人で竜水晶に願うよ。

デリン

なんだとっ!?

ミリー

それは私たちに対する脅しですか?

アレス

そうかもね……。

アレス

でもね、僕はこの場にいる全員が
協力してくれないと
失敗しそうな気がするんだ。

アレス

2人を仲間はずれに
するような心じゃ、
想いを1つにすることなんて
出来ないもの。

デリン

アレス……。

クレア

意地を張っている場合じゃ
ないんじゃない?
デリン、
あんたも素直になりなさいよ。

デリン

……ふっ、適わんな。
分かった。俺も協力しよう。
ほかの連中の恨みは
買いたくないしな。

ミリー

私も協力しますっ!

タック

よしっ!
みんな、アレスに触れるんだ。
アレスは竜水晶を手に持って
想いをぶつけろ。

クリス

分かった。

 
みんなが僕の肩や背中に手を触れた。
次第に温かな力みたいなものが
流れ込んでくるのを感じるようになる。
僕は目を瞑り、
意識を集中させてその力を感じ取るようにする。




一番熱くて勢いのあるのはシーラかな?



弾むように動くのはタックだ。



静と動のリズムがハッキリしているのは
ビセットさん。
 
 
 
温かくて頼りがいがあるのはレインさん。

 

凛としているのはエレノアさんだ。



威風堂々としているのはクリスくんだろうな。



大きくて力強いのはデリン。



キレが良くて涼しげな感じのミリーさん。



掴み所がないけど心地よいのはクレアさん。





――そして澄みきって爽やかなのはミューリエ。

全員の想いをハッキリと感じる!
 
 

アレス

竜水晶よ、僕は願う!
魔王の力を消してほしい!
想いが足りないなら、
僕の命や力を奪ってもいい。

 
 

アレス

だからどうか、
魔王の力を消してくれ!

 
  
僕は手に持っている竜水晶に願った。

すると僕の体からみんなの想いが
竜水晶に流れ込んでいくのを感じた。

僕の体からも力がどんどん抜けていく感覚。
魂までもが吸い出されてしまうような、
そんな気さえする。



だんだん頭の中が真っ白になってきて……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アレス

ん……あ……。

タック

アレスっ!

 
目を開けると、僕はみんなに囲まれていた。
一様に心配そうな顔をしている。
 
 

アレス

みんな……
僕はどうなっちゃったの?

ミューリエ

意識を失って
倒れてしまったのだ。

シーラ

アレス様っ!
意識が戻って良かった……。

アレス

それで結果は?

レイン

ふふっ♪

 
みんなは満面に笑みを浮かべ、
僕に視線を向けている。
 
 

ミューリエ

あぁ、それはな――

 
 
 
 
 
 
 
 
~Fin~
 
 
 
 
 

  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
長い間ご覧いただき、
ありがとうございました。
 
アレスの旅はこれで一旦おしまいです。
でもそれはあくまでも
『このお話では』という意味です。

――だって彼らの過去や未来には、
描かれていない冒険が
たくさんあるんですから。


 
またいつかお会いできる日が
来ますように……。
 
 

みすたぁ・ゆー

第90幕 そして少年は伝説となる!

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