僕は切っ先を前に向け、
一心不乱に突進していく。
眼前にはノーサスの姿が迫ってくる。
もう僕は何があってもこの足を止めないっ!
僕は切っ先を前に向け、
一心不乱に突進していく。
眼前にはノーサスの姿が迫ってくる。
もう僕は何があってもこの足を止めないっ!
ぐぁあああああぁっ!
僕の剣がノーサスの体を貫いた。
その瞬間、
刀身の光は彼の体の中に注ぎ込まれる。
すると空中に浮かんでいた炎の塊は
全て消滅し、
ノーサス自身の動きも止まった。
大きく目を見開き、
体をピクピクと痙攣させている。
僕の力によって、
戦意を完全に失わせることに
成功したようだった。
ば……かな……。
はぁっ、はぁっ……。
見事だ、アレス!
は……ははは……。
ミューリエとクレアさん、
シーラが僕に駆け寄ってくる。
レインさんはタックに
回復魔法をかけに行ってから、
一緒に歩いてやってきた。
緊張の糸が切れたのか、
全身から力が抜けて
その場にへたり込んでしまった。
これで勝負ありだね……。
そうだな~♪
……では、ノーサスよ。
お前を封じさせてもらうぞ。
くっ……。
ミューリエは結界を作り、
ノーサスをその中に封じ込めた。
以前、第2の試練の洞窟で
デリンに対して使ったのと同じ魔法だ。
ただ、今回はその周りから
クレアさんとレインさんがそれぞれ
別の結界を作り出す。
これで結界は
そう簡単には破れない状態となる。
おめでとう、アレス!
あなたは魔王を倒したのよ!
みんなのおかけだよ。
力を合わせたから倒せたんだ!
それよりもビセットさんたちを
助けに行かなきゃ。
まだ戦ってると思うし。
ふふ、その必要はなさそうだぞ。
ミューリエは廊下の方を指差した。
するとビセットさんたちが走ってやってくる。
さすがに小さな怪我はしているみたいだけど、
誰ひとりとして欠けずに生きているみたいだ。
無事で良かった……。
程なく僕たちのところへ到着し、
ノーサスの状況を見て
戦いが終わったことを悟る。
どうやら勝負は
ついていたようですね。
みんなも生きていてくれて
良かったよ。
急に魔族たちの力が落ちたのです。
それでほとんどが逃げていきました。
えっ、魔族たちが?
デリンは平気なの?
戦う力は落ちたが、
命に別状はない。
力が落ちた原因は
魔王が無力化されたからだ。
全ての魔族は
魔王の邪気の影響を受けて
力が高まっていたわけだからな。
魔法剣士の女っ!?
貴様はクロイスの自爆に
巻き込まれたはずでは
なかったのかっ?
た、確かにそうだったわよね……。
そういえば、
そちらにいるのはレイン殿っ!
私は夢でも
見ているのでしょうかっ?
デリンとエレノアさんは、
ミューリエがいることに気付いて
目を丸くしていた。
ビセットさんもレインさんを見て
狼狽えている。
状況を知らないミリーさんとクリスくんは
キョトンとしているけど。
ん?
まさかあなたがレイン殿なのか?
もしかしてあなたはクリス?
大きくなったわね~!
えぇ、私は分家のレインよ!
あなた、お母さんにそっくりね~♪
ボクはあなたと
会ったことはないが?
母のことも知っているのか?
あなたが生まれたばかりの頃に
私たちは会っているのよ。
そうだったのか。
それならボクが覚えていないのも
無理はない。
そんなことよりも、
あなたは亡くなったと
聞いていたが?
えぇ、そのはずだったんだけどね。
溺れ死ぬ寸前に
クレアに助けられたのよ。
クレアさんに?
クレアさんに視線を向けると、
彼女はフッと息をつきながら
クールな笑みを零す。
転移魔法で助けてあげたの。
私も爆発の瞬間、
クレアの転移魔法で
助けられたのだ。
クレアさんは何者なの?
私の使い魔だ。魔王だった頃のな。
今も私を慕って動いてくれている。
ま、ご主人様は
私の創造主だからね。
私が旅を始めた頃から、
クレアには色々と
探ってもらっていた。
バラッタの船に乗っていたのも、
シャインの動きを
探っていたためだ。
じゃ、やっぱりシャポリで
ミューリエとクレアさんは
会っていたんだね?
まぁな。あの時は
まだ事情を話せる段階では
なかったからな。
知らないなどと嘘をついて
悪かった。
助けてもらったあとは、
一緒に魔族たちの動きを
封じていたのよ。
魔王たちに動きを悟られないよう
隠密行動でね。
魔王城の警備が手薄だったでしょ?
いつもなら
あの数倍の兵士がいるわ。
そうだったのか……。
僕の知らないところでレインさんたちが
動いてくれていたんだね。
――いや、レインさんたちだけじゃない。
世界には間接的に
僕たちの助けになっていてくれた人も
たくさんいたはずだ。
その小さな力が集まって、今があるんだ!
僕だってその小さな力のひとつに過ぎない。
この結果はみんなで勝ち取ったものだ!
アレスよ、本当によくがんばった。
でもまだこれで終わりではないぞ。
えっ?
こうしたことが二度と起きないよう、
完全に魔王の力を
消滅させる必要がある。
ミューリエ……お前……。
タックは悲しげな瞳でミューリエを見た。
するとミューリエは自嘲するように
頬を軽く緩める。
でもすでにノーサスは
封じ込めたじゃない。
封じたということは、
いつか破られる可能性も
あるということだ。
今回の一件だって、
封じられていた
私の魔王としての力を
利用されたことが原因だ。
じゃ、ノーサスに
トドメを刺せっていうの?
そんなのダメだよっ!
っ……。
ノーサスはもう何もできないんだ。
命まで取る必要はないよっ!
勇者様……。
勘違いするな。
ノーサスの命は取らん。
ノーサスは魔王の力がなければ、
人間でもなんとか対処できる程度の
実力だ。
能力を鍛え上げればの話だがな。
つまり根本にある、
その魔王の力さえ消せばいい。
じゃ、どうするっていうの?
……私を殺せ。
なっ!?
ミューリエを殺す……だって……?
僕は心臓が止まりそうになった。
思わず目まいがした。
耳がおかしくなって、
聞き間違えたと思いたかった。
でも全員の視線がミューリエに集まり、
一様に驚愕の表情を浮かべている。
だからきっと……
その言葉は
聞き間違いなんかじゃないんだ……。
私の命が尽きれば
魔王の力も消える。
魔王の力は
私の命と連動しているのだ。
――なぁ、アレス。
ジフテルが禁呪を使った時のことを
覚えているか?
えっ?
っ!?
あの時、
ミューリエが苦しんだのは
それが原因だ。
ジフテルの禁呪は魔王の力を
拠り所にしたものだ。
その影響を受けて苦しんだんだよ。
だからミューリエ様に
防御結界を使えと
私におっしゃったのですね?
そういうことだ。
私はご主人様が命を捨てること、
反対したのよ。
でも意志は固いみたいでね……。
その場には重苦しい空気が漂っていた。
みんな俯いたまま口を閉ざしている。
でもそんな中、
唯一クリスくんだけは違っていた。
眉をつり上げ、ムスッとした表情をしながら
ミューリエの前へ歩み出る。
ミューリエ殿、ひとついいかな?
なんだ?
あなたの命が尽きれば
魔王の力は消えるのだろう。
だが、いずれまた強大な力を持った
別の何者かが
現れないとも限らない。
……そうだな。
だが、
私に端を発する悲劇は断ち切れる。
…………。
あなたはもう少し聡明な方かと
思っていたが、
ボクの買いかぶりだったようだ。
思慮の浅い馬鹿者だ!
挑発するような口調で言い捨てたクリスくん。
さすがにそれには
ミューリエもカチンときたのか、
鋭い目つきになってクリスくんを睨み付ける。
次回へ続く……。