暴走彼女
暴走彼女
安置所を後にした勇者たちが向かったのは、この村最大の宿屋だった。
4人は、久しぶりのまともな料理にありついてると、部屋に荷を下ろすとすぐに、一階の食堂に足を運んだ。
料理が運ばれてくるとすこしして、隣から大声が聞こえた。
仕切りで隔てられた隣が騒がしい。
なぜ分かってくれないんだ
もう決まったことなの
君のことを思って
心配してるのに
私はこの刺激がない
村がいやなの
そんなこと言うから
ほかの奴らに目を
あなたまで
私が悪いって言うの?
そうじゃないけどさぁ
もうすこし、女らしく
おしとやかに行動すれば
こんなことには
ならなかったと思うよ
そうね
ほんの少しの静寂の後。
突然、バッチーンと大きな音がして隣の席から、仕切りを飛び越えて男が飛びこんできた。
魚のようにテーブルに打ちあげられた男の頬には、手の跡がくっきりとついていた。
男は痛みで痙攣していた。
にいちゃん
大丈夫かい
くっ、くびが
あいたたたた
心なし、なぜか
うれしそうですね
カスミ、彼に悪いわよ
にいちゃん
だいじゃぶっかやぁ
言い直さないでも
そのうえ、噛んでますし
わかってますから
ふられるにも
もう少しスマートが
いいんじゃね
なかなかストレートな
方ですね
失恋されたばかりですが
料理のお代は
払っていただけますよね
さらっと、おめえも十分
傷口に塩を塗ってるよ
うわああああん
お金なんてないですよ
ウィステリアは、小さくため息をついた。
それで、あなたは
あきらめるのですか?
えっぐ、えっぐ
なにをです?
彼女をですか?
内容にもよりますが
私たちが手助けして
さしあげてもいいですよ
ウィステリア
何言ってるんだよ
ほ、ほんとうですか?
ええ、でも
ただでは無理です
宝石とかはありませんか?
僕にはもう必要ない物なので
男は懐から小さな箱を取り出した。
ウィステリアが中身を確認すると、それは質素な指輪であった。
そっと箱を閉じ指輪を男に返した。
気乗りしませんが
お話だけでも聞きましょう
どうして
けんかされたのです?
ひよりは
生け贄に選ばれたんです
それで二人で
どこかへ行こうって
いったら
いやだって
一緒ににげるより
死んだ方がいいって
相当嫌われてるな
そんな未開な
ここの地域の神様へ会うため
お供えみたいな物です
たまに、帰ってくる人もいます
それでひよりさんを
助けてほしいと
いえ、ひよりの暴走を
止めてほしいんです
何か企んでるのは確かです
もしかして、自分から
生け贄になったのですか?
最初選ばれてたのは
彼女じゃないんです
その人が怪我をしたので
次点のひよりが選ばれたんです
彼女がそれを?
考えると胃が痛くなるので
そこら辺の詳しい話は
僕は知りません
でも、あんなのでも
いいやつなんです
おまえ
見た目によらず
いいやつだな
そりゃ、どうも
長いつきあいでしたから
それで儀式は
いつ行われるのですか?
明後日の夜
樽の中にひよりが入ります
その樽を神様へ
持って行くらしいです
そのとき
ひよりさんが入った樽を
盗めばいいのか?
それでひよりさんは
納得するかしら
当日、樽をもう一つ
用意しておきます
何を企んでるか分かりませんが
隣から危ないことはするなと
説得してみてください
彼女と会えるのは
さっきので最後ですから
わかりました。
ウィステリアがそう返事をすると、彼は力なく宿屋をでていった。
樽ねぇ
カスミは出て行く彼の姿を見ながら、腑に落ちないのか渋い顔をしていた。