暴走彼女

安置所を後にした勇者たちが向かったのは、この村最大の宿屋だった。

4人は、久しぶりのまともな料理にありついてると、部屋に荷を下ろすとすぐに、一階の食堂に足を運んだ。

料理が運ばれてくるとすこしして、隣から大声が聞こえた。

仕切りで隔てられた隣が騒がしい。

たぶん彼氏

なぜ分かってくれないんだ

ひより

もう決まったことなの

たぶん彼氏

君のことを思って
心配してるのに

ひより

私はこの刺激がない
村がいやなの

たぶん彼氏

そんなこと言うから
ほかの奴らに目を

ひより

あなたまで
私が悪いって言うの?

たぶん彼氏

そうじゃないけどさぁ

もうすこし、女らしく
おしとやかに行動すれば

こんなことには
ならなかったと思うよ

ひより

そうね

ほんの少しの静寂の後。

突然、バッチーンと大きな音がして隣の席から、仕切りを飛び越えて男が飛びこんできた。

魚のようにテーブルに打ちあげられた男の頬には、手の跡がくっきりとついていた。

男は痛みで痙攣していた。

カスミ

にいちゃん
大丈夫かい

たぶん彼氏

くっ、くびが
あいたたたた

心なし、なぜか
うれしそうですね

ウィステリア

カスミ、彼に悪いわよ

カスミ

にいちゃん
だいじゃぶっかやぁ

たぶん彼氏

言い直さないでも
そのうえ、噛んでますし

わかってますから

カスミ

ふられるにも
もう少しスマートが
いいんじゃね

たぶん彼氏

なかなかストレートな
方ですね

ウィステリア

失恋されたばかりですが

料理のお代は
払っていただけますよね

カスミ

さらっと、おめえも十分
傷口に塩を塗ってるよ

たぶん彼氏

うわああああん

お金なんてないですよ

ウィステリアは、小さくため息をついた。

ウィステリア

それで、あなたは
あきらめるのですか?

たぶん彼氏

えっぐ、えっぐ

なにをです?
彼女をですか?

ウィステリア

内容にもよりますが

私たちが手助けして
さしあげてもいいですよ

カスミ

ウィステリア
何言ってるんだよ

たぶん彼氏

ほ、ほんとうですか?

ウィステリア

ええ、でも
ただでは無理です

宝石とかはありませんか?

たぶん彼氏

僕にはもう必要ない物なので

男は懐から小さな箱を取り出した。

ウィステリアが中身を確認すると、それは質素な指輪であった。

そっと箱を閉じ指輪を男に返した。

ウィステリア

気乗りしませんが
お話だけでも聞きましょう

どうして
けんかされたのです?

たぶん彼氏

ひよりは
生け贄に選ばれたんです

それで二人で
どこかへ行こうって
いったら

いやだって

カスミ

一緒ににげるより
死んだ方がいいって
相当嫌われてるな

たぶん彼氏

そんな未開な

ここの地域の神様へ会うため
お供えみたいな物です

たまに、帰ってくる人もいます

ウィステリア

それでひよりさんを
助けてほしいと

たぶん彼氏

いえ、ひよりの暴走を
止めてほしいんです

何か企んでるのは確かです

ウィステリア

もしかして、自分から
生け贄になったのですか?

たぶん彼氏

最初選ばれてたのは
彼女じゃないんです

その人が怪我をしたので
次点のひよりが選ばれたんです

ウィステリア

彼女がそれを?

たぶん彼氏

考えると胃が痛くなるので
そこら辺の詳しい話は
僕は知りません

でも、あんなのでも
いいやつなんです

カスミ

おまえ
見た目によらず
いいやつだな

たぶん彼氏

そりゃ、どうも

長いつきあいでしたから

ウィステリア

それで儀式は
いつ行われるのですか?

たぶん彼氏

明後日の夜
樽の中にひよりが入ります
その樽を神様へ
持って行くらしいです

カスミ

そのとき
ひよりさんが入った樽を
盗めばいいのか?

ウィステリア

それでひよりさんは
納得するかしら

たぶん彼氏

当日、樽をもう一つ
用意しておきます

何を企んでるか分かりませんが
隣から危ないことはするなと
説得してみてください

彼女と会えるのは
さっきので最後ですから

ウィステリア

わかりました。

ウィステリアがそう返事をすると、彼は力なく宿屋をでていった。

カスミ

樽ねぇ

カスミは出て行く彼の姿を見ながら、腑に落ちないのか渋い顔をしていた。

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