ライバル
ライバル
机の裏に貼り付けられていたヤツメ銀貨は、正方形の4隅を正しく45度でカットし、中央には文字とも読み取れる精巧な模様が施してあった。
裏面は鏡のように磨かれ、光の加減によって偽造防止の立体の竜が浮かび上がる透かしが入っている。
それがどのような技術による物かは謎だ。
ヤツメの商人は、知人や友人の魂でさえ売るといわれる。
何の目的のために、そこまでの行為をするのかは不明だが、彼らにもはじめはあったはずなのだ。
踏み外す前の姿を思うとカスミは胸が痛くなった。
カスミは見つけた銀貨をとり外すと、机に上に置いた。
ここにも
来ていたのですね
何かを思い出したのか、シャーロットの顔が曇った。
商人の噂同様に、その影響力は大陸の広範囲に及んでいるのだ。
彼女が被害を受けていても不思議はなかった。
そこに、入り口からちいさな人影がちらりとした。
もう逃げた後だったか
すこし、遅かったかな
おや
そっちにいるのは
ウィステリアじゃないの
5年ぶりね
正しくは
7年ぶりでしょうか
あいかわらず
細かいやつですね
料理ができない人が
言う言葉ですか?
なっ!
音痴なあなたに
言われなくないんだけど
あれは
二年の時でしたよね
調合でもないのに
調理実習で爆発とか
どんな分量にしたら
爆発するのです?
こまけぇ~
苦手なのは苦手なんだよ
あなたこそ
まだ、吹き矢持ってるんだろ?
持ってるから何なんです?
持ち歩いちゃだめだとか
法で決まってるのですか?
詠唱が苦手で
吹き矢で攻撃とか
本当に魔法使いかよ
調合だって立派な
魔法の分野です
まあまあ
ゆうしゃが見かねて止めに入った。
あら、ゆうしゃさま
いつもウィステリアが
世話になってます。
保護者みたいな
口をきかないでちょうだい
魔法使いがいない
パーティなんて
つらくありません?
ここにいます
あなたには
聞いてないわよ
二人とも
仲がいいね
ついでた、ゆうしゃの一言に悪意はない。
二人は、
「いくないです」
と声をそろえて否定した。
ハモった声で我に返ったのか、ポーロウニアは、すこし長めに息を吐いた
これは、いただいて
いくわね
ポーロウニアは、銀貨を手に取り、それをポケットに放り込んだ。
どうして、あんたが
それを持ってくんだよ
いいじゃない
どうせ同じ犯人を
追いかけてるんだし
調べたら返すし
ということは、
不審死の犯人は
ヤツメの商人なのか?
あら、気がついていなかったの?
それで依頼を受けるとか
よく今まで命があったわね
大丈夫。
なんとかなるものです
そうだったわね
あなたたちには
ゆうしゃさまが
いるのよね
ポーロウニアは、向こう岸にいる幸せな家族を遠目から見るような、寂しそうな表情をしたが、その表情を隠すように勇者たちに背を向けた。
短い詠唱をしたかと思うと、ポーロウニアの姿は塵のように細かい銀色の粉となり、その場から消えていた。
銀貨もって
いかれましたね
人ごとだな
ええ、お金に名前は
書いてないですから
調べても無意味です
証拠につかうのでしょう
そりゃな
ゆうしゃじゃ
あるまいし
大丈夫です
たまにチェック
してますから