野次馬
野次馬
もし、ヤツメの商人が裏で糸を引いているならば、村長の耳に入れて探りを入れておいた方が良いだろうとカスミが言うので、ゆうしゃたちは村へ戻ることにした。
短期間とはいえ、一緒に過ごしたこともあり、表面上のひよりは打ち解けていたが、会話の途切れた時などは、どこか遠くのところに気があるようで、それは見えない昼の流れ星を見るかのようであった。
はぁ
ひよりがカスミの横でわざとらしく、短いため息をついた。
いったい
どおした?
ああ、戻りたくない
どこか行く当てでも?
そんなところがあれば
そちらへ
ご厄介になってます
それは
いけないな
村で何があったのか
しらないけど
戻るしかないな
帰りたくないでござる
とひよりが聞き分けないことをいうので
カスミはため息まじりに
わかったでござる
と面倒そうに腕組みをした。
そうだな
冒険者にでもなるか?
冒険者ですか?
目を輝かせて聞き返したひよりの頭の中には、何色の光景が描かれているのだろうか。
カスミは、そんなひよりに駆け出しのあの頃の自分を重ねて見ていた。
ひよりさん
本当に冒険者で
いいのですか?
それって
何か問題が
あるのですか?
もう戻られないかも
しれないって事ですよ
そうなのか?
あたしは
盆と正月には
帰ってるぞ?
そういう話じゃないわよ
危険な仕事だって
言ってるのよ
わかってるって
でも、これくらい
お約束だろ?
真剣な話にまぶす
スパイスみたいなもんだ
そうね
今度、あなたの料理へ
勝手に胡椒かけて
あげるから
なんだ
ウェステリアは
まだ唐揚げを
根に持ってるのか
あれは、添え物のレモンを
食べるからでしょ
かけるかけないで
もめるなら分かるけど
食べる食べないで
もめるとか
もぅ
ゆうしゃさまも
言ってます
好きなモノは
はじめに食べろって
だよなー
それとこれとは
ちがいます
とウィステリアは少しふくれた表情を見せ、そして思い出したように、ひよりの方を再び向いて
ひよりさん
いまならなんと
三食昼寝付きです
とめずらしい営業スマイルで勧誘した。
その話、どうつながるんです?
まあ、でもそれって
好待遇じゃないですか
とひよりは乗り気だ。
カスミは、そんなひよりから静かに離れるように、一人先に歩き始めた。
ウィステリアもカスミの変化を見逃さず、そこで話を切り上げカスミを小走りで追いかけて隣に並んで歩き始めた。
もう
何怒ってるのよ
何を企んでるんだ?
何って?
なにも
おかしいだろ
心配したあとに
勧誘とか
戻りたくないんでしょ?
そうじゃないだろ?
ウィステリアはそれには答えない。
が、二人の間に無言の時間が流れ、重くの彼女にしかかってきた。
その沈黙に割って入ったのは、さらに後ろから追いかけてきたひよりだった。
ひよりは二人の袖をつかんで、引き留めた。
もめないでください
私のことで
お二人って
どういう関係なんですか?
腐れ縁だよ
腐れ縁
彼女、どうでもいい
微妙なボケをするから
これはもう
ツッコミ担当としての
使命感だな
なんの使命感ですか
それに突っ込んで
ほしいなんて
一言も言ってませんよ
どうするんだ?
反応ないと寂しいだろ
独り言でも言うのか?
さあ、言ってみな
そうね
さびしいわね
じゃあ、壁打ちでも
壁打ち?
ボケとツッコミ
の壁打ち?
いやいやいやいや
無理だから
あなたが
日々練習してるのを
わたし知っていますよ
そんなの
してねえよ
いつしたって言うんだ?
朝晩
鏡の前で
?
カスミはウィステリアに言われて、考えてみたが思い当たる節はなかった。
変顔の
ありゃ
表情筋の体操じゃ
そうだったの?
でも本当に
笑ってる時あるでしょ
正直、笑ってしまう時はあった。
そして、それがカスミには密かな楽しみでもあった。
そりゃ
おもしろけりゃ
わらうわ
しあわせねぇ
わるいかよ
ふたりは仲が良いんですね
悪くはないわね
とウィステリアが肯定的に言うので、カスミもまんざらじゃなく
まあな
だから
腐れ縁なんだよ
と締めくくった。
お二人は
楽しんでるんですね
カスミは即答だった。
ああ
楽しんでるさ
これが、ひよりがしばらくこのパーティにお世話になることを決めた瞬間だった。
それからしばらくしてのこと、ゆうしゃたちが異変に気がついたのは、村近くの丘の上にさしかかったときであった。
日が暮れているにもかかわらず、村の空が赤く染まっていた。
村が燃えていた。火事だった。
村が燃えてる!
明らかに村で何かが起こっていた。
こんな時まで帰りたくないと言うひよりが言うので、ウィステリアとカスミの二人がとりあえず確認に向かうことにした。
向かう途中、雨がぱらぱらと降り始め、到着したときには、雨は本降りになっていた。
騒ぎの中心へ向かい二人が歩いて行くと、すでに集まっていた人だかりごしに、黒く燃え落ちた村長宅が見えた。
少しの間遠目から見ていると、消火活動をしていた男たちが、野次馬を撥ねのけ何かを運んでいくのが見えた。
その姿を見ていた村人たちがざわめき、村長が死んだという声が二人の耳にも入ってきた。
いやねぇ、野次馬とか
多くて見えないわ
あたしらも
野次馬みたいなもんだろ
それで、どうおもう?
タイミングといいし
あまりにも
できすぎね
ああ、異議なし
忘れ物でもしたかのように二人は今来た道を戻ることにした。
火事は彼らの行動が影響したのは、まず間違いなかった。
その彼らが村にいるのは、あまりにも危険だった。
ん?表情が浮かないな
ゆうしゃさまに頼めば
良かったかなって
たしかに、あの二人は
気にせず野次馬して
帰ってくるだろうな
ほんと、繊細な私には
考えられないです
おいおい、
表情ほとんど変わらない
おまえが言うか
どうかしたの?
おっ、おこったおこった