生き別れ

カスミとウィステリアの二人が、待ち合わせ場所に戻っると、暗くなった雑木林の中をたき火が小さく照らしていた。

囲むようにして、ゆうしゃとシャーロット、それとひよりが手頃な石に腰を下ろしていた。

ひより

おかえりなさい

シャーロット

村はどうでした?

カスミ

それなんだが

カスミの口から出た言葉は、ひよりを思ってか喉で詰まった。

それを見たウィステリアが続けた。

ウィステリア

村長が死んだわ

ひより

そうなんだ


ひよりに驚きはなく、どこか人形のような表情であった。

カスミには、それは薄情のようにも思えた。

そういう感情を読み取ったのか、ひよりは

ひより

残念だと思います
でも、その

私たちとは別の世界に
生きる人ですから

と隙間へ吹き込む冷たい風のような口調で言うと

ひより

それに長老派とは、
上手くいって
いないようでしたから

と話題を変えた。

この世界には、主に二種類の人が居る。生き返ることができる人と、それが叶わぬ人だ。

もちろん、あえてその道を選ばない人もいるが、それは少数だと、ひよりは思っていた。

それが村長に約束された未来かは、そのチャンスさえない彼女には興味のない話であった。

カスミ

長老派?

ひより

長老派は儀式を取り持っていて
あの人は、そういう儀式には
反対でしたから

大きな声でいうことは
ないようでしたが

ひよりがその言葉を言い終わるか終わらないかのタイミングで、近くで鳥たちが羽ばたいて声をかき消した。

夜の森を何かが、こちらに近づいてきているようだ。

明かりも点けずに近寄ってくることから、歓迎すべき客人というわけでもないようだ。

もしくは夜目が利くのだろうか。その雰囲気は、華麗に獲物を捕まえる猫のようでもあった。

カスミはその雰囲気の中に人ではない何かを感じていた。

やがて暗闇から姿を現したのは、異国風の服装を纏う細身の男性だった。男は礼儀正しく一礼した。

商人

お久しぶりですね

カスミ

以前どこかで?

ひより

私は知りませんね

シャーロット

わたくしも知りません

だれもその男のことは見覚えはなかった。いや、思い出せないだけ何かもしれない。

商人

えっ
いえ、あの

露店の前でハンカチ配ってたの
見てませんでした?

カスミ

ああ

商人

でしょ?

カスミ

んー、やっぱり知らん

とカスミは、にっこりした笑顔を返した。

ひより

私、知ってます
あなた、エロ星人よね

商人

なっ、なんだね突然に

男は、若干動揺した。

唐突で不意をつかれたのだ。

シャーロット

あやしいぃ

ひより

この人
やっぱり怪しいです

カスミ師匠
ここは私に

カスミ

おいおい
いつから師匠に?

それに
なんの師匠だ??

ひよりは、腕組みをしながら商人の前に立ち、厳しい口調で質問を始めた。

ひより

朝、あなたが、
どこにいたのかは
調べはついているのよ

たぶん、
私たちのあとを
つけていたわね

商人

そりゃ、

君たちが洞窟から
出てくるところを
見ていたさ

ひより

じゃあ、
夕方のアリバイは?

そこの二人のあとを
つけて村から出てきわよね

商人

あたりまえだろ

ひより

やっぱり、
一日中つけ回すとは

村を騒がしてる
ストーカーとは

あなたのことね

商人

いやぁ、だから、
理由があって
つけてきただけだが

ヤツメ商人って
聞いたことがないかな?

泣く子も黙る

ひより

そりゃ
一日中人の跡をつけ回し
挙げ句のはてに
パンツを盗むとは

泣いた子も黙ります

商人

ぐぬぬっ

ひより

盗んだパンツ返しなさい。

それまで、ひよりの話をおとなしく聞いていた商人だったが、これにはつきあいきれないと反撃に出た。

商人

はぁ?

ノーパンの
おまえが言うか

カスミ

まじか

ひより

ばっ、ばっかじゃないの?

今度はひよりが動揺していた。

商人

違うなら見せてみろ

ひより

ないものを
見せられるわけ
ないでしょ

商人

さぁ

ひより

いやぁ、だから
理由があって
つけてたわけだし

商人

どんな理由だ

ひより

ぐぬぬ

カスミ

どっちもどっちだな

あんたら
兄弟じゃないのか?

商人はカスミの言葉に反応して、わざとらしく目を大きく開いた。

その目はひよりをじっと見据えていた。

ひより

え?

なっ
なに?

どうかした?

商人

こっ、こんなところに

生き別れの姉さん

ひより

んなわけ
あるか

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