ロハ
ロハ
遙か西には、太陽に近い半島があるといわれている。
偏見かもしれないが、日差しが強く作物に恵まれながらも、そこから旅をしてくる商人は、血の色を感じない色白だ。
いつ来るとも分からぬ
行商人がハンカチを配るとか
おかしいと思わないのかね
宣伝に配るなら消耗品だろうが、ハンカチでもおかしいことはない。
何がおかしいと言っているのだろうか。
だが、このおかしいことはないという線が、あり得るかもしれないという心の油断を許し、精巧に施された呪術模様をきれいだと錯覚させるのに十分なのだった。
紙では目立ち、高価すぎては警戒される。絶妙な線だった。
私は只は大好きなのです。
あなた方も好きですよね。
話を続けながらも商人は、ゆうしゃたちの前を素通りしていく、ゆうしゃが行く先に目を向けるとシャーロットの姿があった。
そのときになって、一人座ったままの状態でうつむいているの不自然さに彼らは気がついたのだった。
ちょっとぉ
シャーロット
どうしたの?
なぜ
うごかないの?
声は届いているはずなのに、シャーロットに反応はなかった。
すぐに商人はシャーロットの前に到着した。
うつむいたままのシャーロットのポケットからハンカチが抜き取られると、ちからなくシャーロットは前のめりに崩れた。
ただより高い物は
ないってね
ごちそうさま
にやりと笑い邪悪に染まる顔は何を意味するのか、心底不気味だ。
何がごちそうさまだ
シャ、シャ、シャぁああああー
おい
カスミが勇者を軽く小突いた。
シャーロットな
慌てすぎだ
ゆうしゃ
よう、そこの兄ちゃん
ここらじゃ
見ねえツラだな。
うちの者を
かわいがってくれるとは、
良い度胸だ。
おまえ、
じつの兄貴にも、
そうやって脅してるだろ。
なんかすごく板に
ついてるぞ。
商人の適切な返しに、カスミは後ろを向いて苦笑いした。
ひよりの家族のことは知らないが、日頃していることは、なんとなく想像がつく
まぁまぁ、
それでひよりは
さっきから何のしてるんだ?
先ほどは探偵、
今度は不良か?
私の立ち位置が
決まらないから
ちょっと
仕込みを
なにが仕込みだ
そんなの決めなくても
良いから
地で行きなさい
地で
まっすぐが一番よ
そうね。わかったわ
そう言ったひよりは、短いため気を吐くと、唐突に、商人に向かっててまっすぐに走り始めた。
そう文字通りまっすぐに。
そうじゃないって
それを止めるのは、タイミング的に間に合いそうもなかった。
ひとまず逃げるしかない。
そう判断したカスミは、急いでゆうしゃの手を握った。
普段は触れることなどないゆうしゃだ。その手は想像していたより小さく、そして丸く、冷たかった。
手の冷たい人は、心が優しい人だと聞いたことがある。
ゆうしゃとはこういうことがなければ、手を握ることさえなかっただろう。ゆうしゃは優しい人だと思う。
断じて好きなわけではない、と思う。でも・・・
強く握ると、木のように堅いゴツっとした感触が返ってきた。
へっ?
これって
何つかませてるんだ!!
こけし
どこから出した!
お店の店主が、
喜びますよって
喜ばねえよぉ
いいからこっち来い
カスミは、ゆうしゃの首をひっ捕まえて、ウィステリアに目で合図を送った。
そのゆうしゃの視界の端に、ひよりがゆっくりと倒れていくのが写っていた。
あなたの体を
張ったリアクション
無駄にはしないわ
ウィステリアが言うやいなや、地面には複数の魔方陣が描かれていた。
暗闇の中、青白く輝く魔方陣はいかにも罠だ。
自分が戻る場所に
もしものための
罠がないなんて
ありえるとおもう?
さて、話して
もらいましょうか
ウィステリアの意見は、もっともだった。
仮とはいえ、自分が戻る場所に、襲われた場合の対策を施さないのは、襲ってくださいといっているようなものだった。
なぜこの商人は、その場所に踏み込んだのだろうか。
彼の自信がそうさせたと言えば、あまりにもお粗末な結果だ。
ぐぐぐっ
商人は抵抗を見せたが、魔法の効果により、口を除いて指一つさえも動かすことができないようだ。
抵抗しても無駄よ
ウィステリアに言われ、無駄だとあきらめたのか、商人はゆっくりと目を閉じた。
周りを薄い静けさが包んだ。
どれくらいたっただろう、再び目を開けた商人の目に炎がともっていた。
何かを話す、覚悟を決めたのだ。
しかときけ!
85 75 88
!!
だれが
あんたのスリーサイズなんて
聞きたいなんて言ったの
おまえだろ
言ってないです
もー、いやだ
こっちがいやだわ!