二度目の別れ

静香

呼び出しておきながら
待たせるのよね……。

春休みが終わって3日くらい過ぎて、時間割り通りに授業が行われるようになっていた。

3年になったし、大学受験に向けて、勉強をしないといけないのかな? という雰囲気の中。

授業が終わって家に帰ろうとしていたら、彼氏の聡士(そうし)に、倉庫裏に呼ばれた。

静香

なんでわざわざ
ここなわけ?

同じクラスなんだから、教室でもいいのに、聡士は私を先に行かせて、自分はどこかに行ってしまった。

聡士

静香、
待った?

静香

待った。

聡士

ゴメン……。

ヤツが遅れるのは、今に始まったことではない。

静香

?!

柚葉

……。

けれど、聡士の後ろからひょこっと女が現れた。
最近、なにかと見かけていた子だ。

静香

…………。

柚葉

ごめんなさい、
聡士先輩♡

聡士を見て、これ以上ないニコニコ顔で、そう言った。

男は、こういう声をかわいいと思うんだろう。

静香

声質は悪くないと思うけど、
最悪な使い方してるよね。

男に気に入られようとしている感じが、小賢しいっていうか……。

静香

聡士はこういうの、
引っかからないし

って、思ってたら……。

聡士

あ、うん。
大丈夫だよ。

と、その女にヘラヘラした笑顔を向けた。

静香

あれ?

十分がっつり
引っかかってる?

聡士

えっと、その……
言いにくいんだけど……。

静香

……。

だいたい
わかったわよ

聡士

好きな子ができちゃったんだ。
別れてくれないかな?

静香

……。

やっぱりね……。

柚葉

あの、すみません。
私……、ずっと
静香先輩に……
憧れてたんですけど。

さっきの笑顔、ドコいった?

静香

ものっすごく
いい笑顔してたはず
なんだけど……。

その笑顔は一瞬で消え、申し訳なさそうに私を見ていた。

女の申し訳なさそうな態度は、嘘っぽく見えた。

柚葉

その……、聡士先輩、
私のこと……、
好きって言ってくれて……。

静香

……。

柚葉

静香先輩は、頭も良いし、歌も踊りもできて、巷にゴロっゴロいるアイドルなんか足元にも及ばない超美人で……、

静香

アイドル?

柚葉

私なんかより、ずっとずっとずーっと素敵な人なのに……

静香

……。

柚葉

なんでこんな私なんかって思っちゃうんですけど……。

静香

……。

なぜ、私がこんな茶番を聞かされなきゃならない?

しかもアイドルって何?

聡士

ほんっと~に、
ゴメン。

静香

ほんとにそう思ってる?

異様なまでに軽かった。

柚葉

ごめんなさい。
本当にごめんなさぁい。

女はそう言って泣き崩れた。

聡士

悪いのは柚葉じゃないよ。

そうね、あんたが悪いわね。

柚葉

でも……
私……。

小声でボソボソ言っている二人を見ていたら、怒りを通り越して、なんかどうでもよくなった。

静香

わかったわ。

それでも、きゅっと、喉の奥に、何かが詰まったような感じがした。

静香

さようなら。
お幸せにね。

気が付くと、そう言っていた。

もしかして、もうずっと前から、用意していた言葉だったのかもしれない。

聡士

え?
静香?

柚葉

あの、先輩……。
私のこと、怒ってます?

ハンカチで目を押さえてたけど、涙は出ていなかった。

静香

怒る?
なんで?

柚葉

だって、私……。
先輩の彼氏、取っちゃったわけだし♡

勝利宣言かよ!

静香

そうね。
この男はあなたを選んだのね。

静香

良かったわね。

こんな男に選ばれて嬉しいなんて、どうかしてるんじゃない?

静香

話は終わったわね。
それじゃ。

二人を置いて、その場を去った。

聡士

……。

柚葉

先輩がご当地アイドルになったら、私、絶対に応援しますねっ!

ご当地?

静香

……。

立ち止って、ちょっとだけ振り向く。

柚葉

あ、でも、
18だと、少し遅い感じですよね。

静香

まだ17よ!

そう思ったけど、言わなかった。

柚葉

先輩なら、きっと
素敵なアイドルになれますよ!

静香

誰がアイドルに
なるって言った?

なんだろう?
もうどうでも、よかった。

彼がどうなろうと、誰と付き合おうと……。

私は……、

千年近く思っていた人に

別れを告げられた……。

pagetop