今どきの子供は
その1’

オートロックのマンションで2

別にクレームを付けたわけではないのですが、やっぱりマンションの出入り口で気になったことがありました。

わんちゃんを連れたおじさんとおしゃべりをしていた時のことです。

私はわんちゃんを撫でくりまわしていました。
かわゆいかわゆいわんちゃんなのです。

すると、その後ろをジャリが三輪車で通りました。

私はわんちゃんに夢中で気にならなかったのですが、わんちゃんの飼い主のおじさんは気になったようで、ジャリが向かっている正面玄関の観音開きの扉を見ていました。
(この扉の向こうに鍵を使うか部屋の人に開けてもらうかしないと開かない自動ドアがあります。)

すると、慌てたようにおじさんはそっちに行きました。
おじさんはリードを持っていたので、わんちゃんも一緒です。

私は場所を動かず、そちらを見ていました。

すると、ジャリが三輪車に乗ったまま、扉に突進しています……。

佳純

無理だろ?

親切なそのおじさんはそのジャリが入れるように、扉の片方を開けてあげました。
でも、反対側の扉に車輪が引っかかって入れません。

でも、そのジャリは突進をやめません。

佳純

え?

と、私も慌ててそっちに行きました。
おじさんひとりの手に負えそうにありません。


近くまで行くと、ジャリは小さな声で何かを言っていました。

自転車来い~。
自転車来い~。

佳純

そんな呪文、唱えたところで来るはずがないだろう?

でも、ジャリは何を考えているのか、三輪車に乗ったまま、前にずりずりと進もうとしています。
が、引っかかった車輪はびくともしません。

扉ごと進める体力があればいいのでしょうが、ちまい三輪車に乗って、全然違和感のないジャリです。

佳純

降りろ。降りてその三輪車を扉の内側に入れる術を考えろ。

しかし、そのジャリは前に進むことしか考えていません。

末恐ろしいと思いました。
力技しか考えていないからです。

力がなくても知恵を使えばたとえお前のようなジャリでも通ることは可能なのだ…………たぶん。

おじさんもどうしていいのか分からずに一方のドアを押さえています。
仕方がなく、私は反対側のドアを押しました。

引っかかっていた車輪が外れ、三輪車のジャリは何ごともなかったかのように進みました。

そして、何ごともなかったかのように部屋番号を押し、自動ドアが開いて中に入って行く……。

佳純

通れた……。

ほっとしたのもつかの間……。

あ……。

わんちゃんを連れたおじさんは、驚いたように私を見ました。
私はなんとなくお辞儀しました。

何か、何をどうしたらよいのか分からない感じになっていたからです。
おじさんも何と言っていいのかわからなかったみたいでした。


そして、私は気づいてしまいました。

ここでおじさんが私にお礼を言うのはおかしい。

そもそもおじさんは困っていた子供を助けてあげて、私はそれを手助けしただけです。

本来、真っ先に礼を言わねばならないジャリは、何ごともなかったかのように通り過ぎて行きました。

私とおじさんは、ただ茫然とそれを見ていただけなんです……。

佳純

礼くらい言えよ!
このクソジャリ!!

もちろんこの場では言いません。
まだ、おじさんもいて、外面ヨシコさんの仮面が付いています。

佳純

何なんですかね、今どきの子供は……。

さぁ……。

そう言うことしかできませんでした。

そのジャリは、

自転車、来い!

と言うだけで進めると思っていました。


きっと、親がそうしてしまったのではないでしょうか?

子供が気付かないところで手助けをして、本当の大変さ、困難さを学ぶことなく成長させてしまっているのではないでしょうか。


そして何より恐ろしかったのが、そのジャリがこちらをまったく見ていなかったことです。

周囲に人などいないかのように振舞っていました。
周りが見えない子供……。

そう思うとぞっとしました。



私は笑顔で

佳純

ありがとう

は、こう言ったら何だけど、最高の報酬だと思っています。

笑顔の魔法とでも言うのでしょうか。
それを見ると、大抵の人は良いことをした気持ちになり、テンションもアップします。

時にはお金でお礼されるより嬉しかったりもします。

お金はトラブルの元にもなりかねませんが、笑顔で「ありがとう」は後腐れもなく、気持ちよくその場を和ませることもできるのです。

佳純

こういう子が増えたら、笑顔が無意味になってしまうのかもしれない……。

いろいろな意味で、恐怖を感じた出来事でした……。

今時の子供は その1’

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