クレアさんはミューリエに身体能力強化の
魔法をかけた。
それが終わると
すかさず攻撃魔法の詠唱に入る。
一方、ミューリエは剣の柄に手を添えたまま
ノーサスに向かっていく。
あれは確か居合いという技を出す時の構え――
でもノーサスもダメージを受けたとはいえ、
依然として強大な力を持っているのに
変わりはないようだった。
だってミューリエの攻撃を
軽々と受け止めているから。
クレアさんはミューリエに身体能力強化の
魔法をかけた。
それが終わると
すかさず攻撃魔法の詠唱に入る。
一方、ミューリエは剣の柄に手を添えたまま
ノーサスに向かっていく。
あれは確か居合いという技を出す時の構え――
でもノーサスもダメージを受けたとはいえ、
依然として強大な力を持っているのに
変わりはないようだった。
だってミューリエの攻撃を
軽々と受け止めているから。
やるな、ノーサス。
強くなったではないか。
当然です。
もはやかつての私ではありません。
今やあなたの力をも超えています!
くっ!
ノーサスも隙を見てミューリエに反撃した。
直接のダメージは受けていないものの、
受け止めるだけで精一杯のようだ。
あのミューリエが
こんなに苦戦するなんて……。
アレス、オイラは結界を作る!
それが完成次第、
ミューリエたちを
援護してやってくれ!
このままだとマズイ。
うんっ!
…………。
タックは何かを呟き、
周りに結界を作り出した。
光の壁が僕たちを柔らかく包み込み、
魔法や物理攻撃から
ある程度は防いでくれるようになる。
レインさん、
ミューリエたちを
助けてあげてください。
僕なら大丈夫ですから。
分かったわ。
私も魔王へ攻撃を
加えることにする。
アレスたちのことは
タックに任せるかんねっ!
おぅっ! お前も無理はすんなよ!
――魔法剣!
レインさんは魔法力で創り出した剣を握り、
ノーサスへ向かっていった。
ミューリエの剣とレインさんの魔法剣。
それにクレアさんの
攻撃魔法が見事にシンクロして、
ノーサスを追い詰めんばかりに攻撃が
繰り出される。
でもノーサスはそれらを全て受け止め、
決定的なダメージは負っていない様子だ。
――さすがは魔王といったところか。
シーラ、僕たちも援護しよう。
はいっ!
限界まで力を引き出してみます。
僕とシーラは手を繋ぎ、
ノーサスに対して力を行使する。
程なく僕たちは光に包まれ、
効果が現れ始めた。
手応えを感じるから、確実に効いているはず。
それなのにノーサスの動きは
あまり変わらない。
どれだけ強大な力を持っているんだろう?
ノーサス、もう戦いはやめようっ!
ぐぐぐ、勇者様の仕業ですか……。
私の力がどんどん下がっていくッ!
ならばっ! これでどうだぁっ!
はぁああああああぁっ!
ノーサスは咆哮しつつ衝撃波を放った。
さっき僕を追い詰めたのも
これと似たような技だろう。
でも今は結界があるおかげで
ほとんどダメージを受けることはない。
ちなみにミューリエたちは
クレアさんがかけた身体強化魔法のおかげで
致命傷にはなっていないみたいだった。
ただ、完全に攻撃を
防ぎきれているわけでもないので
それなりにダメージは
受けてしまったみたいだ。
それは辛そうな表情を見れば
なんとなく分かる。
くっ!
なんのこれしきっ!
この程度でやられる
私たちじゃないわよ。
で、でも、この威力は想定以上よ。
こんなにダメージを
食らうなんて……。
次はこれだっ!
間髪を入れず、
ノーサスは浮かび上がって
自分の周りに無数の火球を作り出した。
それを一気に解放し、
炎の塊が雨のように降ってくる。
ちぃっ!
ミューリエは神速で剣を振り、
炎から身を守っていた。
クレアさんは有効範囲が自分だけに限られた
結界魔法で耐え、
レインさんは魔法剣から魔法力を放出して
炎を相殺している。
ノーサスの魔法力は僕とシーラの力で
かなり落ちているはずなのに、
炎の雨は一向にやまない。
つまり元々それだけ強大な魔法容量が
あったということになる。
やはり四天王たちとは桁違いの強さのようだ。
はーっはっは!
みんなこのまま燃えてしまえ!
こりゃマズイぞ。
結界がいつまで持つか分からない!
おそらく時間の問題だ!
きゃっ!
シーラ、もっと結界の中心へ。
僕はシーラを結界の内側へ引き寄せ、
抱きしめて彼女のか細い体を庇うようにする。
これなら万が一の時にも
シーラへのダメージは
最小限にすることができるはずだ。
女の子だもん、
特に顔や髪は傷付けさせたくない。
タック、
何かこの状況を打破する
方法はないの?
ないことはないんだが……
かなり危険な賭けになるぞ……。
教えて、タック。
このままじゃ
みんなやられちゃうよ。
…………。
アレスの力をノーサスに
直接流し込むんだ。
どうやって?
勇者の剣に力を送り込み、
その状態で攻撃を加える。
例えかすり傷でも付けられれば、
そこから力が
ノーサスの体に入り込む。
今までのような間接的な方法と比べて
絶大な効果が期待できる。
ただし、
リスクは高いのは理解できるよな?
確かにそうだ。
接近すれば攻撃を受ける可能性が高まるし、
だからといって
こちらの一撃が当たる保障はない。
――まさに一か八かの賭け。
……でもそれしかないんだよね?
だったら僕はやるよ。
このまま何もせずに
やられちゃうのは嫌だもん。
へへっ、
それならオイラが
ノーサスの注意をひく。
アレスはその隙に攻撃を頼むぞ。
分かった。
ただし、オイラと約束してくれ。
何があっても
攻撃をためらわないって。
必ず攻撃を成功させるって。
そうじゃないと、
オイラは
思い切った動きができないからな。
うんっ、約束する!
僕が返事をすると、
タックは穏やかに微笑んだ。
じゃ、剣に力を込めるよ。
シーラも協力してくれる?
……私、本当はアレス様に
行ってほしくありません。
危険すぎますから。
でもアレス様は勇者。
みんなの想いを背負って、
ここまで来たんですものね。
だから止めません。
まずは世界を平和にしてください。
そして……そのあとは……。
そこまで言ったところで、
シーラは俯いて黙ってしまった。
そして唇を噛み、
眉を曇らせながら胸を押さえている。
シーラ?
――いえ、なんでもありませんっ!
さぁ、力を合わせましょう!!
シーラは晴れやかに微笑みながら
僕の腕に両手を添えた。
何か言いたそうだったような
気がしたんだけど、
思い過ごしかな……?
まぁ、いいや。
今はノーサスとの決着を付けるのが先だ。
そのあとで聞き直せばいい。
…………。
僕は剣を抜き、
シーラと2人で力を込めていった。
次第に僕たちの体から放たれた光は
刀身に吸収され、
神々しく輝き始める。
タック、準備はできたよ。
よしっ!
オイラがヤツに攻撃を仕掛ける。
隙ができたら切っ先を向けたまま
迷わず突っ込むんだ!
多少は炎の魔法で
ダメージを受けるが、
根性で耐えろ。
うんっ!
おりゃああああああぁっ!
タックは結界を飛び出し、
驚異の跳躍力でノーサスに向かっていった。
炎の塊が当たっているけど、
気にせず突き進む。
食らえぇええええええぇっ!
何っ!?
タックによる捨て身の体当たりが
ノーサスにヒットした。
浮遊状態を維持できず、
ノーサスは床へと落ちてくる。
――今だ!
うぉおおおおおおおぉっ!
僕は切っ先を前に向け、
ノーサスに向かって突進した。
次回へ続く!