ノーサスに勝つ方法――
それは僕の力を使って
戦意を失わせるしかない。
シーラの助けが借りられない今、
どこまで通用するかは分からないけれど……。
それでも僕にはこれしかないんだ!
ノーサスに勝つ方法――
それは僕の力を使って
戦意を失わせるしかない。
シーラの助けが借りられない今、
どこまで通用するかは分からないけれど……。
それでも僕にはこれしかないんだ!
ノーサス、もう戦うのはやめよう。
お願いだよ……。
ん? 私の魔法力が下がり始めた?
体の動きも
鈍くなったようですね……。
…………。
そうか、これが噂に聞いていた
勇者様の力ですか。
まさか魔王の力を手に入れた
私に対して
これだけの効果が出るとは、
腐っても勇者アレクの末裔ですね。
楽しげにノーサスは笑っている。
やはりこの程度だと、
まだ余裕があるってことだろう。
だったら僕の力が尽きるまで、
やるだけのことだ。
僕が勝つか、ノーサスが勝つか……。
戦うのをやめて、
僕と友達になろうよ。
あるいは勇者様の仲間が
揃っていたなら、
私も負けていたかもしれませんね。
力を封じられたところに
攻撃を受けたら、
ひとたまりもないですから。
――でも今の勇者様は
たったひとり!
残念でしたねっ!!
かはぁっ!
次の瞬間、僕の全身に激痛が走った。
目の前は真っ白になり、呼吸が困難になる。
――いつの間にか
僕は壁に吹き飛ばされていた。
全身が痛くて、指1本動かない。
口の中が切れたのか、
舌には血の味が広がっている。
さらに床の埃臭さが鼻の奥まで漂ってくる。
僕の身に何が起きたのか、
全く分からない……。
……っ……ぁ……。
ほぉ、私の衝撃波を食らって
まだ生きているとは。
普通の人間なら内臓が破裂して
絶命しているところですよ。
これも勇者の鎧の
おかげでしょうか。
……っ……。
だんだん視界が暗くなってきた。
必死に目を開こうとするけど、
その意思に反して
目蓋はどんどん下がってくる。
あぁ……、
なんだか体の痛みも感じなくなってきた。
痛覚が麻痺してきたのかな?
このまま目を閉じてしまった方が
楽になれるかも……。
ダメだ、そんな弱気じゃ!
最後の最後まで
諦めちゃダメなんだっ!
目を閉じたら闇に呑まれて、
二度と起き上がれないような気がする。
だからここで心が折れちゃいけないんだっ!
まだシーラが生きてる。
みんなのうちの誰かが
助けに来てくれるかもしれない。
希望を捨てたら、その時点で負け。
――命ある限り、絶対に希望はある!
あなたは弱いクセに
よく戦いました。
その姿勢に敬意を表し、一瞬で
あの世へ送って差し上げます。
ふ……ふふ……ふはははははっ!
もはや私に刃向かう者はいない!
完全なる勝利だ!
すぐそばからノーサスの声がした。
ぼやけている視界の隅には
彼の足も見えている。
――あれ?
なんで視界がぼやけているんだ?
あぁ、そうか。
いつの間にか涙が出ていたのか……。
でも拭いたくても体に力が入らない。
戦い続ける意思はあるのに、
動けないなんて悔しい。
あの世へ逝ったら、
『こっちに来るのが早すぎるだろ』
って、ミューリエやレインさんに
叱られるかもなぁ……。
さらばだ、勇者様っ!
僕は『その瞬間』を覚悟した。
ぐぁあああああぁっ!
すぐそばから響いてくる、ノーサスの叫び声。
何が起きたんだろう?
もしかして誰かが助けに来てくれたのかな?
今、回復魔法をかけるわ。
えっ?
あなたは確かクレアさんっ!?
ちょっと待ってて。
クレアさんの回復魔法は
ひんやりとした感触だった。
ミントをかじった時のような清涼感を覚え、
それと共に傷口から痛みが消えていく。
そのあとは温さを感じて、
全身の疲れが取れていった。
程なく元気を取り戻した僕は、
上半身を起こしてノーサスの方を見る。
えぇっ!
そこに広がっていた光景に僕は目を疑った。
だってそこには――
…………。
剣を構えたミューリエが
ノーサスと対峙していた。
ノーサスは腹に刺し傷を受け、
苦悶の表情を浮かべながら
傷口を手で押さえている。
ただ、
致命傷に至るような深手ではない感じだ。
僕は夢でも見ているのだろうか?
もしかして、ここはあの世?
――いや、でも僕の意識は途切れていないし、
クレアさんに回復魔法をかけてもらっている。
だからあの世ってことはないはずだ。
ミューリエ……?
半信半疑のまま僕が声をかけると、
ミューリエは僅かにこちらへ
視線を向けて微笑む。
間に合って良かった。
アレス、遅れてすまなかったな。
あ……あぁ……っ!
今の声と仕草、紛れもなくミューリエだ!
忘れるわけがないもん!
クロイスの自爆に巻き込まれて
死んじゃったと思ってた。
……でも……生きててくれたんだっ!
う……うぐっ……ひくっ……。
嬉しい! 嬉しくて涙が止まらないっ!!
僕が助かったことよりも、
ミューリエが生きていてくれたことの方が
何百倍も嬉しい。
良かった……本当に良かったッ!!!
事情はあとで話す。
今はノーサスを倒すのが先だ。
うんっ!
クレア、
タックとシーラにも回復魔法をっ!
はいはい。
分かっていますよ、ご主人様。
クレアさんは苦笑いをしながら肩をすくめた。
そして倒れているタックに近寄ろうとする。
させるかっ!
ノーサスは黒い炎を
瞬時に手のひらの上に作り出し、
それをタックの方へ向かって放った。
炎はどんどん彼に迫る。
このままだと直撃を食らってしまうだろう。
でも次の瞬間、
明後日の方向から飛んできた炎が
それを相殺した。
その魔法が放たれた方を見てみると――
身動きが取れないタックを
攻撃するなんて、
エレガントじゃないわ。
クレア、
タックには私が回復魔法を
かけるわ。
あなたはシーラをお願い。
えぇ、分かったわ。
あ……あぁ……
レインさんも生きてたんだっ!
そこにいたのはレインさんだった。
水中都市メーリンの崩壊に巻き込まれて、
亡くなったと思っていた。
でも彼女も生きていてくれたっ!
う……うぅ……良かったッ!
アーレスっ!
相変わらず泣き虫なのねっ♪
レインさんっ!
レインさーんっ!!
う……うぅ……ぐすっ……。
……ふふ。
またあなたに会えて嬉しいわ。
僕もだよっ!
再会を喜び合いたいけど、
まずはタックの治療をしないとね。
…………。
レインさんはタックに回復魔法をかけた。
一方、クレアさんもシーラに駆け寄り、
同じように回復魔法をかける。
こうしてタックとシーラは全快するに至った。
もっとも、ミューリエたちの姿を見て
目を丸くしてはいたけどね……。
ぐぐぐぐ……。
ミューリエ、生きていたとは……。
アレス、シーラ。
お前たちは力を使って
ノーサスの動きを封じろ。
私とクレアが
ノーサスを食い止める。
うんっ!
はいっ!
レインはアレスたちを守ってくれ。
分かったわ。
何度だってアレスを守ってみせる!
……オイラは?
戦力外は黙って見てろ。
なっ!?
ミューリエ!
またオイラをバカにしやがって~!
でもさっきは
アレスを守れてなかったわよね?
戦力外と言われても
反論できないと思うけどぉ?
う……うぅ……。
うふふっ!
あ……。
このやり取りが、なんか懐かしい。
ミューリエたちが戻ってきたって、
すごく実感する。
やっぱり誰ひとり欠けてもダメだ。
だって僕は弱いから。
――だからみんなが必要なんだ!
そしてちっぽけな力しかない僕だけど、
みんなのために
その全てを出し尽くして立ち向かう!
タックは結界を作って
僕たちを守って。
結界が完成するまでは、
僕がタックの前に立って
盾になるから。
ミューリエは冗談で『戦力外』って
言ったんだと思う。
それはタックも分かってるよね?
でも僕は冗談でも
そんなことは言わないよ。
いつも助けてもらってるもん。
アレス……。
オイラ、
ますますアレスが
好きになったぞっ!
結界のことは任せておけっ!
ミューリエとクレアさんも
無理はしないでね。
あぁ、分かっている!
大丈夫よ。
私が付いているんだから。
シーラ、僕たちもがんばろうっ!
はいっ! アレス様っ!!
僕たちはそれぞれの役割を持って
再びノーサスと対決する。
――いよいよ決着を付ける時だ!
次回へ続く!