まわりが白くなって、あの部屋にもどるのだろうと思っていたら、そんなことはなかった。
見覚えのあるパソコン室。近未来の、カラフルな日本。
あ……
まわりが白くなって、あの部屋にもどるのだろうと思っていたら、そんなことはなかった。
見覚えのあるパソコン室。近未来の、カラフルな日本。
あ……
見慣れたピンク色の髪。目の前で、姫様が大きく目を開けていた。
そうだ、そういえば、この世界にまた来るかもしれないと、セイさんは言っていた。
ケンちゃん……先生から預かってるものがあるんだ
俺の後ろに立っているセイさんに気がついたのだろう。姫様は立ち上がり、他の男子が突然どうしたと目を丸くするのをよそに、はやく、と俺を呼んだ。
前に来たときに俺が憑依していた縁君と目が合う。なんだか不思議な気分だった。
廊下に出て、前と同じように空教室に入り、ドアを閉めたとたんに頭を深々と下げる姫様。
この前は、本当に本当にありがとうございました
そんな、いいんですよ。――お久しぶりです
ええ……とうとう、この時が来てしまったのですね
姫様が目をつむる。なにかを覚悟したような表情に、俺は首をかしげた。
なんのことですか……?
言いながら、振り替える。おそらく、セイさんが知っているのだろうと思いながら。
俺の視線に、セイさんは楽しそうにうなずくと、そうだよと答えた。
そうさ、もうこの時が来てしまった。君は
セイさんが、微笑む。
罪を償うんだ
俺は目を丸くした。
いったい、なんの話だというのか。
屋上にいきましょう
姫様が、悲しそうに微笑む。
最後に、もう一度この世界の夕焼けをみたいのです
俺は、何がなんだかわからなくなった。
訊きたいことが山ほどある。それなのになにも言えなかったのは、姫様があまりに悲しそうな表情をするからだった。
突拍子もない話、好きですか?
嫌いではないですね
廊下を歩きながら、姫様はくすりと笑った。
そもそも、あなた方の登場も、突拍子がないものでしたもんね。あの、小さな女の子は
サンザシは、今少し休養中で
そうですか、またお会いできたらと思っていましたが
階段を登り始める。かん、かん、と、その足音はやけに響く。
突拍子もない話って?
そうでした……そう、私はね、未来から来たんです
ひえー。
それは確かに突拍子もない……
ふふ、そうでしょう。あのディスクはね、鍵なんです
鍵?
そう。未来に戻るための、鍵です。
あれがないと、帰れなくなる。
そうしたら、私は戻れなくなって、もしかしたらですけれど、罪を償いきれなくなる
罪、ですか
そうです。罪です
姫様は、うつむいて寂しそうに笑った。
サンザシ、というんでしたね、あの女の子。あの子が見えたのは、私の目がいいからです
目がいい?
ええ。未来の世界において、人間の目は進化し、中には幽霊や精霊のような類いの生き物が見える人も出てきたのです。
といっても、おそらくずっと昔には見えている人もたくさんいましたし……なんでしょう、いる、という風にしっかり認識されたと言いますか
そうなんですか、だから……
そう、だからあなたのこともすんなりと信じることができた。あの女の子のことも
屋上についた。
姫様は、屋上の扉をゆっくりと開けた。