ミューリエが前魔王ってどういうことっ!?
それじゃ、
復活した魔王っていうのは何者なのっ?
僕は頭が混乱して、
胸のざわめきが止まらない……。
ミューリエが前魔王ってどういうことっ!?
それじゃ、
復活した魔王っていうのは何者なのっ?
僕は頭が混乱して、
胸のざわめきが止まらない……。
……っ。
アレス様……。
そんな話、ボクは初めて聞いたぞ。
私もです。
先代には何も
聞いていませんが……。
私も初耳ね。
タックさん以外の審判者は
代が変わっているから
その情報が伝わらなかったのかも。
可能性はゼロではないですね。
300年という時間は
私たち人間や翼人族には
長すぎますから。
でもそんな重要な情報を
途絶えさせるだろうか?
ボクの一族なら
何らかの記録に残すはずだが。
我が一族には古代魔法も
伝わっているくらいだからな。
デリンは何か知っていますか?
俺も初めて聞いたことだ。
おい、エルフの小僧。
今の魔王は
かつての魔王と別なのか?
別であるとも言えるし、
同じとも言える。
ただ、
少なくともミューリエの意識は
かつての魔王と同一だ。
タックの言葉はなぞなぞみたいに聞こえる。
でもミューリエが魔王をしていたことは
間違いなさそうだ。
それならあれだけの強さがあっても
納得がいくしね。
意味が分からん。
もっと分かりやすく説明しろ。
アレクは魔王ミューラーを
打ち負かした。
完膚無きまでにな。
アイツはそれほど強かった。
魔王ミューラー?
それが元々の名前だ。
魔王ミューラーはアレクに破れ、
死を覚悟していた。
でもアレクはトドメを刺さず、
共存の道を提案したんだ。
…………。
アレス様みたいですね。
そうなんだ、
性格面はアレスとよく似てる。
さすが血筋といった感じだな。
そう言うと、
タックは温かな瞳を僕に向けてきた。
みんなも納得するように頷いている。
僕の性格はご先祖様譲りだったのか……。
もちろん仲間たちは反対して、
魔王を倒そうとした。
でもアレクは
全力で魔王を守ったんだ。
その姿に魔王も心を開いた。
そしてアレクの提案を受け入れ、
魔界と平界の争いに
終止符を打つことに同意したんだ。
ただ、魔王は自らの中にある
邪悪な部分が
いつか災いの元になると
自覚していた。
それを打ち明けられたアレクは、
魔王の邪悪な力だけを
分離させようとした。
そんなことが可能なのか?
古代魔法でもそこまで高度なものは
聞いたことがないぞ?
その時に使われたのが竜水晶だ。
ブラックドラゴンとアレクが
知り合ったのはそれがきっかけさ。
結果的にその試みは成功した。
ただし、
アレクは自分の持つ力の全てと
寿命のほとんどを削るという
代償を払ったけどな。
人間にできる範囲を
大きく超える願いだ。
即座に消えなかっただけマシだと
ブラックドラゴンは言ってたよ。
だからブラックドラゴンは
僕に警告をしたのか。
でもご先祖様がそこまでして
ミューリエを助けようとした気持ち、
なんとなく分かる気がする。
だって僕も同じような状況に直面したら、
そうすると思うもん。
どんな代償を払ったとしても、
自分にできるなら
なんとしてでも友達を助けたい。
邪悪な力は魔界の
侵さざるべき土地の片隅に
封印された。
そして生まれ変わった姿が
ミューリエなんだ。
それで俺よりも
遥かに強かったわけか……。
あれでも元々の実力の
数分の一程度まで落ちてるんだぜ?
なっ?
あの強さで数分の一とは、
末恐ろしいですね。
四天王のシャインと
互角だったわけですから。
そしてそんな相手を倒してしまった
アレク様の実力も
想像が付きません。
ミューリエのそうした事情を
知っているのは、
アレクとその場にいた
仲間たちだけ。
当時の魔王の四天王でさえ
知らないことさ。
だからデリンは
何も知らなかったのか。
俺が四天王になったのは最近だ。
四天王に空席ができたとかで、
エミットの推薦で
新たに加わったのだ。
知らなくて当然だ。
だが、思い返してみれば、
当時は魔界でも魔王が倒された
という事実だけが
伝わっていた気がする。
魔王の力が失われたことで、
魔族全体の力も落ちた。
それでこの300年間は
大きな争いもなく
お互い平和に暮らして
こられたんだ。
だが、
魔王の力が封じられていると、
嗅ぎつけた奴がいる。
それが四天王筆頭だった
ノーサスだ。
今は解放した
ミューラーの力を吸収し、
魔王として君臨している。
その話を聞くと、
トーヤくんは『あっ!』と小さく声を上げた。
何か思い当たる節があるのかな?
そういえば、
少し前に僕の住む隠れ里の近くに
たくさんの人がやってきてました。
その数日後です。
僕たちの力が上がったのは。
もっとも、
元々の力の弱い僕や里人たちは
生活が変わりはしませんでしたが。
なるほど、
その時に封印が解かれたのだな。
そしてノーサスが
魔王になったことで、
四天王に1つ空席ができたわけか。
ノーサスはエミットと同程度の力、
そこに魔王の力が加わっている。
ここにいる全員が
力を合わせなきゃ勝てないだろう。
しかもヤツはエミットのように
非情な性格だ。
話して分かる相手じゃない。
アレス、
それだけは覚えておいてくれ。
タックは僕に釘を刺した。
つまり説得するのは不可能だから、
倒す前提で臨めということなのだろう。
魔界と平界、
2つの世界を平和にするためには
それしか方法がないのか?
でももしそうなら、僕には戦う覚悟がある。
だって僕は勇者なんだから。
解せんな……。
なにがだ?
エルフの小僧は
なぜそうした事実を知っている?
お前はバカか?
タック殿は審判者として
アレク様と旅をしていたのだ。
知っていて当然だろう。
バカはお前だ。まだ気付かんのか?
え?
以前、自分で話していただろう。
勇者の試練は勇者アレクが
自分の末裔を成長させるために
用意したものだと。
っ!? ――そうかっ!
デリンが言いたかったのは
そういう意味か!
やっと理解したか。
クリスくんが感嘆の声を上げると、
デリンは肩をすくめながら
小さなため息をついた。
ほかのみんなも
合点がいったような顔をしているけど、
僕には未だにわけが分からない。
どういうこと?
つまり勇者アレク様の時代に
勇者の試練は
存在しなかったということです。
つまり審判者も勇者の証も
なかったということ。
デリン殿の話を聞いて、
私もようやく理解できました。
そしてタック殿の正体も
なんとなくね……。
シーラは分かった?
……はい。
確信に満ちた瞳と力強い声。
やっぱり何かに気がついているんだ。
――うーん、僕にはまだ分からない。
考え込んでいると、
おもむろにタックが口を開く。
タックっていうのは
アレクがオイラに付けたあだ名だ。
本当の名前はデタックル。
デタックル?
どこかで聞いたことが
あるような……。
――えっ!?
それって、ご先祖様と一緒に戦った
賢者デタックルのことっ?
あぁ、そうだ。
ちなみにウェンディのばっちゃんが
大神官フェンの妹。
そしてビセットの一族の始祖が
拳聖ユース、
エレノアの一族の始祖が
聖騎士ランスだ。
そうだったのですか。
皆さん、伝説の勇者様に
縁があったのですね。
今まで隠していて悪かったな。
でもこれでオイラは
全てをアレスに伝えた。
戦いの中で
いつ死んでも悔いはない。
つまり全力を賭して、
命を捨てる覚悟で戦える。
タック、
そういうことは言わないでよっ!
ふふ、
オイラだって簡単には死なない。
でも魔王城に
攻め込むということは、
そうなる可能性も
ありえるってことさ。
アレス、お前は勇者だ。
世界を平和にするためには、
時に仲間の犠牲を乗り越えて
進む勇気が必要になることもある。
タック……。
タックは僕の肩をポンと叩いた。
力強いような優しいような厳しいような……。
そんな肩に触れる手の感触が相まって、
心の奥底に彼の言葉が強く響いてくる。
ノーサスを倒すには、
アレスの持つ
勇者の剣による一撃が必要だ。
あの剣には
アレクの力が残っている。
取り込んだミューラーの力を
削ぐことができるはずだ。
勝機を見出すには
それが必要不可欠という
わけですか。
つまりアレス様を
ノーサスのところへ
辿り着かせなければならない
ということですね?
そうだ。みんなもそのつもりで
アレスを死守してほしい。
もちろんだ!
はい、私がアレスの剣となり、
盾となってみせます!
任せておいてっ!
承知した。
魔王の間まで送り届けてやる。
私もアレス様を
お守りしてみせます。
怪我をしても
回復は任せてください。
みんな……。
みんなの決意が
表情や言葉からひしひしと伝わってくる。
だからここで僕が弱気になっちゃいけない。
僕は勇者として、その想いに応えないと!
全てを乗り越えて前へ進んでみせる!
僕たちの世界はもちろん、
トーヤくんのように
虐げられている魔族のために、
魔界も平和にするんだ!
よしっ、行こう! 魔王城へ!
みんなで世界を平和にするんだっ!
目指すは魔王の間。
倒すべきはノーサスただ1人だ!
次回へ続く!