デリンは一気に間合いを詰め、
斬りかかった!
僕ではなく、エミットへ向かって!
デリンは一気に間合いを詰め、
斬りかかった!
僕ではなく、エミットへ向かって!
でやぁああああぁっ!
ふっ……。
――カキィイイイイィーン!
エミットは全く動じず、
攻撃を軽々と受け流した。
まるでデリンが攻撃を仕掛けてくるのが
分かっていたかのようにも感じられる。
チッ!
残念です、デリン。
昔のあなたなら
この機会に確実に
勇者を葬っていたはずなのに。
俺はアレスの仲間だ!
あいつのために
死ぬ覚悟はできている。
デリン……。
僕は嬉しくて思わず瞳が潤んだ。
あんなに非情だったデリンが、
弱い人間の僕に
ここまで心を開いてくれたなんて。
拭っても拭っても涙が溢れてくる……。
うぅ……ぐすっ……。
ダメだ、今は涙を我慢しないと。
まだ戦いは終わってないんだから。
貴様らは用が済めば
簡単に切り捨てる。
誰よりも分かっているさ。
そういう光景を
何度も見てきているからな。
俺自身もそういう男だった。
でもアレスは違う!
最後まで仲間を信じる
バカ正直なヤツだ!
だからこそ俺も
あいつを信じられる!
どうせアレスを始末させたあと、
俺を殺すつもりだったのだろう?
そうやって俺に絶望を与えてな。
さすがデリン、その通りです。
でもあなたなら
そこまで理解していると
思っていました。
だから攻撃に備えていたのですよ。
失敗を何度も重ねた上、
私たちに楯突くような役立たずは
生きる価値なしですからっ♪
……簡単には殺しませんわ。
魔王様を、そして私を裏切った罪、
身をもって教えて差し上げます。
はぁあああああぁ……。
エミットは右の手のひらに気合いを込め、
その上に黒い炎の球を作り出した。
それがある程度大きくなったところで
腕を掲げる。
ふふふ、
この炎はじわじわと肉体を蝕み、
少しずつ死へと誘いますの。
そして命尽きるまで
決して消えない。
まずはデリン、
あなたから死になさい。
避けても構いませんけど、
その時は勇者様に
当たってしまいますわよ?
チッ!
デリン、
僕のことはいいから避けてっ!
そんなことができるかっ!
バカ野郎っ!
お前は俺が守ってやる。
だからほかの連中を
なんとか回復させて、
エミットに反撃しろ。
デリンは背中を向けて
僕とエミットとの間に立つと、
僕を庇うように両腕を広げた。
その背中が僕にはとても大きく見える。
さようなら、デリン。
エミットは腕をやや後方へ動かし、
魔法を放つ体勢になった。
えっ?
その時、
明後日の方向から放たれた蒼い斬撃が
エミットの右腕を切り落とした。
黒い炎は空中へ霧散し、程なく消滅する。
ぐぁああああああぁっ!
えっ?
――危ないところだったわね。
エレノアさんっ!
斬撃が飛んできた方向を見ると、
そこにはエレノアさんが
翼を羽ばたかせながら浮かんでいた。
さらにその下には懐かしい顔が……。
間に合って良かったぜ~♪
やはりアレス様には、
私がいないとダメですねぇ。
タック、ビセットさん!
回復はオイラに任せろっ!
――シルフ、召喚っ!
タックは魔方陣を描いてシルフを召喚し、
ミリーやシーラ、
クリスくんに回復の奇跡を施していった。
そのあと全員が僕のそばに集まり、
エミットと対峙する。
タック、ビセットさん。
無事だったんだね……
良かった……。
ぐすっ……すんっ……。
少し危なかったですけどね。
詳しくはあいつを倒してから
お話しします。
デリンが仲間になったこと、
エレノアから聞いたぜ~?
オイラ、それには驚いたけどな。
ふんっ、うるさい。
ぐぐぐぐぐ……。
この結界は中にいる者を
閉じ込めるもの。
中から外へは出られなくても、
外から中には入れる。
エミット、それが仇になったな~♪
でも完全に出入りを塞いじゃうと、
万が一自分がピンチになった時に
使い魔や手下を
呼び込めないもんな~。
それももはや
不可能なことですけどね。
私たちが倒しちゃいましたから。
なんですってっ!?
森の中に潜ませていたでしょう?
あなたに気付かれないように
倒すの、
苦労しましたよ。
でも私とタック殿の愛の力で
なんとかしちゃいましたけど。
誤解されるようなことを言うなっ!
――と、
冗談はこれくらいにしましょう。
アレス様を痛めつけてくれたお礼を
たっぷりとしないと
いけませんから。
ビセットさんは真顔になって
エミットを睨み付けた。
それに合わせてみんなも身構える。
エミットは依然として苦痛に表情を
歪ませながら、
唇をわななかせている。
大きなダメージを受け、
未だ動揺しているようだ。
エルフの小僧と変わり者の男、
お前らはアレスを守れ。
エミットへの攻撃は
俺とミリー、クリス、
翼人族の娘でやる。
了解ですっ!
承知した。
分かったわ!
アレスとシーラは力を使って
ヤツの動きを封じる攻撃を継続だ。
うんっ!
はいっ!
なんでお前が仕切ってんだよ~?
貴様らとは攻撃の息が合わん。
まだ共闘したことがないからな。
遅参したんだから黙って従え。
なんという言い草ですかっ!
……でも理に適った配置だ。
エミットは攻撃力と素早さが
群を抜いている。
武器による接近戦が苦手な
オイラたちは、
防御に徹した方がいい。
そうか、
タックはご先祖様と
旅をしていた時、
エミットとも遭遇していたのか。
それで特徴を知っているんだね。
オイラが結界を作る。
ビセットは万が一の備えだ。
仕方ないですね。
それでいい。
下民の小僧!
聞こえているかっ?
貴様も結界の中へ入れてもらえ。
人質にでも取られたら厄介だ。
は、はいぃっ!
トーヤくん、こっちだよ。
…………。
僕が手招きをすると、
木の陰から顔だけ出して
様子を見ていたトーヤくんが
走ってやってきた。
そして僕とシーラの後ろに隠れ、
身を縮ませて震えている。
仕掛けるぞっ!
やぁああああぁっ!
たぁああああぁっ!
…………。
デリンたちがエミットに向かっていった。
クリスくんは僕の横で魔法の準備を始める。
また対魔族用の攻撃魔法だろう。
よしっ、アレス。準備はいいな?
…………。
タックが何かを呟くと、
僕たちの足下に魔方陣が浮かび上がった。
程なく温かな光の衣に包まれ、
一気に体が軽くなる。
さらにエミットの結界の影響も遮断したのか、
気分の悪さも解消した。
これで多少の攻撃なら
防げるだろう。
それでも破られそうな時は
ビセットが対応してくれ。
承知です。
シーラ、僕たちも戦おう。
はいっ!
僕とシーラは手を繋ぎ、
エミットに向かって念じ始めた。
エミットは片腕が使えないことに加え、
3人による剣の波状攻撃を受けて防戦一方。
表情に焦りの色がハッキリと見え、
さっきまでとは完全に形勢逆転したようだ。
物理攻撃の合間には
クリスくんが魔法で攻撃し、
エミットに休む暇を与えない。
どうか攻撃をやめてください……。
程なく僕も手応えを感じ始め、
力の発動を認識する。
次第に僕とシーラの体は淡い光に包まれ、
それが徐々に強くなっていった。
するとエミットの動きは鈍くなり、
みんなの攻撃が
少しずつヒットするようになる。
――もしかして、
さっきと比べて僕の力の効果が
上がっているのかな?
次回へ続く!