なぜかトーヤくんは気絶してしまった。
うわわっ、どうして!?
病気の発作とかだったらどうしようっ!
僕が慌てていると、
デリンは頭を抱えながら深いため息をつく。
なぜかトーヤくんは気絶してしまった。
うわわっ、どうして!?
病気の発作とかだったらどうしようっ!
僕が慌てていると、
デリンは頭を抱えながら深いため息をつく。
バカが……。
それを言ったらこうなるに
決まっている……。
どういうこと?
平民以下の魔族たちは
人間を恐怖のモンスターとして
認識している。
自分たちを問答無用で滅する、
最低最悪の存在としてな。
それで恐ろしくなって
気絶したのだ。
そんな……。
人間全部が悪人ではないのに……。
お前ら人間だって俺たち魔族を
畏怖の対象として見ているだろう?
それと同じだ。
う……。
――確かにそうだ。
魔族っていうだけで逃げ出す人間は
たくさんいる。
僕だってトーヤくんと出会うまでは、
魔族がみんな強い力を持っていると
勘違いしてたし。
そうか、人間も魔族も大多数が
自分の物差しでしか物事を見てないんだ……。
ただし、中民以上は
教育を受けている。
そして自分たちの方が強いと
分かっているから、
むしろ人間を下に見ているがな。
デリンは今でも
人間を下に見ているの?
――っ!?
……自分でも分からん。
戸惑っているというのが
正直なところだ。
戸惑っているとは?
つい最近、
人間の中にも
評価に値するヤツがいると
分かったからな。
なるほど、ボクのことか!
貴様のわけがなかろうが!
冗談だ。
アレス様のことだろう?
…………。
ま、まぁな……。
僕なのっ!?
か、勘違いするなよっ?
あくまでもほんの少しだ。
それにお前のこれからの行動次第で
評価は変わる可能性もあるっ!
素直じゃないですね……。
うふふっ。
じゃ、これからも一緒に旅をして、
僕の様子を見ていてね。
人間も捨てたもんじゃないって
もっと感じてもらえるよう、
今まで以上に努力するから。
アレス……。
……承知した!
デリンは僕を見やりながらフッと微笑んだ。
こんなに優しい笑顔、初めて見る気がする。
以前は冷たくて刺々しさばかりが
目立っていたのに、
どことなく温かい感じ。
ミューリエは以前、
魔族は成長しないって言っていた。
でもそれは違うんじゃないだろうか?
魔族だって成長できるんだよ、きっと。
――だってデリンは成長してるもん!
さぁ、
お喋りはこのくらいにしよう。
ここが侵さざるべき土地の外なら
さっさと転移魔法で移動するぞ。
ちょっと待ってよ。
トーヤくんをこのままには
しておけないよ。
気絶しているだけだ。
放っておいても問題はない。
そうはいかないよ。
僕のせいで
こうなっちゃったんだもん。
いいか、アレス?
それがどれだけ危険なことか
分かっているのか?
えっ?
侵さざるべき土地の
外だということは、
いつ敵が襲ってきても
おかしくないということだ。
悠長に構えてなどいられん!
ダメだよっ!
だからといって
放っておけないよっ!
僕はデリンを真っ直ぐに見つめながら叫んだ。
トーヤくんにもしものことがあったら、
申し訳ないもん。
だからここで退くわけにはいかない。
デリン、お願いだよっ!
…………。
やれやれ……。
ったく、俺は知らんからな?
ゴメンね、デリン。
心配してくれるのは嬉しいし、
キミにもリスクがあるから
申し訳ないって思う。
でも僕は――
分かった分かった。
お前の性格は
なんとなく理解している。
さっさと介抱してやれ。
ありがとう、デリン。
僕はシーラの手も借りて、
トーヤくんの介抱をした。
飲み水やタオルを濡らすための水は、
クリスくんが魔法で出してくれた。
近くの水場は
すぐに見つけられそうにないからね。
ヘタに動き回るのも危険だし。
それからしばらくして――
ん……あ……。
トーヤくん、目が覚めた?
わぁっ!
トーヤくんは目を丸くしながら
後ずさりをした。
また気を失ってしまったら大変なので、
僕は驚かせないよう
にこやかな笑顔で応対する。
大丈夫、僕は何もしないよ。
だから安心して。
それとキミの目が覚めるまで
時間があったから、
袋から零れちゃってた
野草やキノコを
拾い集めておいたよ。
僕が袋を渡すと、
トーヤくんはドギマギしながら
それを受け取る。
あ……ありがとう……。
あのね、
人間にだって色々な人がいる。
確かに悪いヤツはいるけど、
いい人だって一杯いるんだ。
だから人間ってだけで
過度に怖がらないで。
それとも僕が悪人に見える?
アレス様は
気弱な男の子にしか見えないな。
逆にデリンは
極悪人にしか見えないが。
貴様は黙ってろ!
…………。
トーヤくんが
呆気にとられていますので、
デリンもクリス様も
それくらいにしては
いかがかと……。
シーラの言う通りです。
少しは空気を読んでください。
チッ……。
もう気は済んだだろう。
行くぞ、アレス。
うんっ!
トーヤくん、またねっ♪
ま、待って、アレスくん!
うん?
これからどこへ行くの?
魔王の城だよ。
魔王様のお城へっ!?
でもここから凄く遠いよっ?
俺は転移魔法が使える。
だから一瞬だ。
……何をしに行くの?
世界を平和にしに行くんだ。
説得できれば説得したい。
でもダメなら
戦うことになるかもしれない。
…………。
トーヤくんはポカンとしながら僕を見ていた。
それも無理はないか……。
傍目には強そうに見えないってこと、
僕自身が自覚してるしね。
もしかしてアレスくんって
すごい人なの?
どうだろうね?
でもトーヤくんだってすごい力を
持っているかもしれないよ?
――いや、きっと持ってる。
僕だって最初は何もできない
弱い人間だったんだ。
そうなのっ!?
でも色々と努力して、
みんなとも力を合わせて
ここまで来られた。
だからトーヤくんも
決して諦めずに行動してみて。
…………。
うんっ! がんばってみるっ!
トーヤくんは満面に笑みを浮かべた。
そして僕たちは固い握手を交わす。
うん、世界を平和にしたら
またここへ戻ってこよう。
そしてもし僕に協力できることがあれば、
協力してあげたい。
みんなが僕を助けてくれたように、
今度は僕がみんなを助けてあげたいから!
――あらあら、
勇者様も残酷なことを
なさいますわね?
不意に森のどこからか女の人の声が響いた。
周囲を見回してみても姿は見えない。
何者ですっ?
生半可に希望を与えると、
それが実現しなかった時に
絶望が大きくなりますわ。
ま……まさか……
この声と気配は……。
デリンは真っ青な顔をして唇を震わせていた。
目を見開き、額には汗が滲んでいる。
それから程なく、
森の奥からお淑やかそうな
お姉さんが歩いてくる。
――彼女は一体何者なんだろう?
次回へ続く!