ミリーさんを旅に加え、
僕たち5人は侵さざるべき土地を進んでいた。
ブラックドラゴンのところを出発して
すでに数日が経過している。
幸いなことに、
魔族や獣などは襲ってきていない。
また、風に揺られる草木の音しか聞こえず、
とても静かだ。
今までずっと歩いてきたけど、
パッと見る限りは
僕たちのいた世界にある森と変わらない。
ミリーさんを旅に加え、
僕たち5人は侵さざるべき土地を進んでいた。
ブラックドラゴンのところを出発して
すでに数日が経過している。
幸いなことに、
魔族や獣などは襲ってきていない。
また、風に揺られる草木の音しか聞こえず、
とても静かだ。
今までずっと歩いてきたけど、
パッと見る限りは
僕たちのいた世界にある森と変わらない。
デリン、転移魔法が使える場所まで
まだかかりそう?
知られている広さから推測すれば、
そろそろのはずだがな。
目印のようなものはないのか?
森を抜ければそこは
侵さざるべき土地の外のはず。
それが目印だな。
――っ?
皆さん、止まってください。
どうしたの?
アレス、静かに……。
不意にミリーが僕たちに声をかけてきた。
そして周囲を警戒しながら、
人差し指を自分の口に当てる仕草をする。
するとみんなも沈黙し、
険しい表情をしながら辺りを見回した。
僕はワケが分からず、キョトンとしてしまう。
どうしたんだろう?
…………。
…………。
…………。
…………。
――っ!
そこですねっ!
ミリーは腰に差していた護身用の短剣を抜き、
音のした茂みの方へ投げた。
短剣は真っ直ぐ飛び、
茂みの手前の地面に突き刺さる。
ヒィッ!
次の瞬間、
茂みの中から男の子が飛び出してきた。
そして腰砕けになったまま、
僕たちの方を見てガタガタと震えている。
表情は恐怖に歪んでいて、
まるで強力なモンスターにでも
遭遇したかのような様子だった。
……子ども?
見た目で判断するな。
魔族は容易に姿を変えられる。
確かに魔族の気配がするな。
でも、敵意は感じませんが……。
そうだね。
むしろ僕たちを
怖がっているような気がするけど。
アレス、お前は甘すぎる。
もう少し警戒しろ!
でも……。
デリンは視線を男の子へ向け、
睨みつけながら歩み寄っていった。
男の子は怯えたまま動けないでいる。
そして程なく
デリンはその子の前に辿り着くと、
冷たい瞳で見下ろしながら口を開く。
貴様、なぜこんな場所にいる?
ここは侵さざるべき土地。
足を踏み入れるのは
リスクが高すぎるだろう。
それとも俺たちの追っ手か?
お、お助けくださいっ!
僕はただ、野草やキノコを
摘みに来ていただけなんですっ!
男の子は持っていた布袋をデリンに差し出し、
泣きそうな顔で震えていた。
デリンはそれをチラリと横目で見ると、
すかさず男の子の細い首を掴んで持ち上げる。
その体は簡単に宙に浮き、
足がだらりと空中に垂れた。
う……ぐぅ……。
嘘をつくとためにならんぞ?
死にたいのか?
嘘なんか……
ついて……ません……。
正直に話せっ!
か……はっ……。
デリンは腕に力を入れて
さらに男の子を締め上げる。
男の子は首を掴むデリンの手を解き放とうと
その小さな手で抵抗を試みるけど、
それは適わない。
苦しそうな顔をしながら藻掻き、
瞳には涙が浮かんでいた。
――いけないっ、
このままじゃ死んじゃうよッ!
やりすぎだよ、デリン!
そうですっ! 乱暴すぎますっ!
……ふん。
デリンはようやく手を離し、
男の子は地面へドサリと落ちた。
けほっ! けほっ!
どうやらただのガキのようだ。
大して魔力も力も感じん。
近寄っても心配なかろう。
僕は急いで男の子に駆け寄った。
そして心配しながら彼の様子をうかがう。
大丈夫、キミ?
は……はい……。
僕はアレス。キミの名前は?
トーヤ……。
おい、貴様!
なぜこんな場所にいたのか答えろ。
野草やキノコなら
普通の森にでもあるだろう。
なぜあえて危険なこの地へ来た?
それは……。
トーヤくんは暗い顔をして口ごもった。
何か話しづらい事情でもあるのだろうか?
例えば、家出してきたとか……。
あるいは特別な効果のある薬石類が
必要になって、
それがここでしか手に入らないとか。
神聖な土地なら
その可能性はありそうだもんね。
じ、実は僕、
この近くに住んでいるんです……。
なんだと?
僕はこの森の片隅にある隠れ里で
生まれ育ちました。
でも両親や多くの里人は
力がないばっかりに
都市を追われたそうです。
どこへ行っても迫害を受け、
それで最終的にこの地へ
辿り着いたらしいです……。
――迫害を受けた?
なんでそんな事態になったのだろう?
何か罪でも犯したのだろうか?
いや、
少なくともトーヤくんは何もしてないはずだ。
裏には深い事情がありそうだ……。
でもここに立ち入ると
天罰が下るという話ですよね?
侵さざるべき土地といっても、
この辺りはすでに
その範囲の外なんです。
もともとあった森の周りに
木を植えて、
広く見せているだけで……。
なるほど、
それで安全に暮らせるわけか。
でも境が分かりにくいから、
たまに知らずに入り込んじゃって
神様に滅せられてしまう人も
います。
危険と隣り合わせなんだね……。
――そうか、ようやく分かったぞ。
デリンは納得したような顔をして、
フッと息をついた。
貴様は下民だな?
そ、そうです……。
デリン、下民って?
身分の1つだ。上から順に
特民、上民、中民、平民、下民と
分けられている。
さらにそれらも
細かく分けられているが、
おおまかにはそんな感じだ。
俺たち魔族社会では魔力の大きさや
持っている特殊能力によって
身分が分けられている。
当然、力を持たぬ者は
役立たずとして差別を受ける。
最下級の下民というのは、
人間の世界でいうところの奴隷――
いや、
それ以下の扱いかもしれんな。
そんな……。
デリンは下民ではないのか?
バカも休み休み言え!
俺は魔王の四天王の
1人だったのだぞ?
特民に決まっているだろうが!
とっ、特民っ!?
あ、ああぁ……ぁ……。
トーヤくんは顔色が真っ青になって、
泡でも吹くんじゃないかってくらいに
怯えていた。
奥歯はガタガタと音を立て、
目は激しく揺動している。
この怯え方は尋常じゃない。
まるで何かに取り憑かれたかのような感じだ。
トーヤくん、落ち着いて。
大丈夫、何もしないから。
数々のご無礼、お許しくださいっ!
どうか命だけはお助けくださいぃ!
デリン、あなたが脅したせいで
萎縮してしまっているでは
ないですか。
脅したせいではない。
特民は中民以下に対してなら
何をしても許される。
殺そうが略奪だろうがな。
それで怯えているのだ。
えぇっ?
ま、例え抵抗したところで
無駄なあがきではあるんだがな。
それだけ力の差がある。
そうか、それでトーヤくんは
何かされるんじゃないかと
恐れおののいていたわけか。
それにしても、
魔族って全員がデリンみたいに強い力を
持っているのかと思っていたんだけど、
そうじゃなかったんだね。
トーヤくんのように差別を受けて、
怯えながら細々と暮らしている
魔族もいたんだ……。
まるで僕たち人間の社会と変わらない。
そう思うと、
なんか他人事とは思えないよ……。
トーヤくん、
僕たちは危害を加えないよ。
だから怯えないで。
でっ、でもっ……。
確かにデリンは魔族だけど、
僕たちは魔族じゃないから
身分は関係ないよ。
えっ? 魔族じゃない?
僕たちは人間なんだ。
……っ?
にん……げん……っ!?
わぁああああああああぁーっ!
……あ……ぁ……っ……。
トーヤくんは今までで一番怯えた声を
上げたあと、
そのまま気絶してしまった。
えっ? ええっ!?
これはどういうことなのっ?
次回へ続く!