時は新西暦二千三百十五年。
人々は区画人口調整という、区画ごとの人口の調整のための居住地の移動をして暮らす世界。
人々の主な交流の場はソーシャルなヴァーチャルリアリティー空間へと移っていた。

やあ、マッキー?

リナちゃん?リなちゃんなの?

電脳空間の中の公園スペース。
人工の緑に囲まれた中で、自由に座れるベンチが設置されている。
周囲は少し薄暗い時間だが、さほど問題ではない。
不安になったらその場でログアウトして、明るい時間に改めてインして移動すれば良いのだ。

マッキーが移動になってさ、色々大変だったんじゃない?
何か、困ってることない?

ボーイッシュで、ちょっと中二入った格好の少女が大人しそうな地味系の少女に語り掛ける。
彼女はリナとよばれ、地味子をマッキーと呼ぶ。
どうやら二人は知った仲のようだ。

大丈夫だよ。こっちでも、ちょっと友達できたよ。

そっか。安心した。マッキーは大人しいし、人見知りするから。
ちょっと心配だった。

リナちゃんは心配しすぎだよ。解説友達作りマニュアルっていうテキストデータPCに入れておいたのリナちゃんでしょ。

解っちゃう?

解るよ、ほかにいないもん。

そっか、ははは。

そうだよー。

笑いあう二人。
だがその言葉の裏には、他にそこまでするような友人はいない、という寂しい事実が在った。

ところで!カントー地区からトーキョー地区に移動して変なのに絡まれてない?

んー。大丈夫。私なんかによってくる男の人いないよ。

……そうだから心配なんだよねぇ。
マッキーはさ。自分の可愛さ解ってないから。

今可愛いのはアバターだから。リナちゃんだってリアルなら絶対しない格好してるでしょ。

マッキーの無自覚な言葉にリナは頭を振る。
この幼馴染は自己評価が低く、自分がどんなに愛らしいか、その自覚が無いのだ。

マッキーは可愛いよ。こんなこと、しちゃうくらいね。

マッキーの顎にすっと手を伸ばし、少しだけ身長の高いリナが自分と視線を合わせさせるように掬い上げる。
その動きに少し驚くも、マッキーは笑う。

リナちゃんは本当に女の子を可愛い気分にさせるのが巧いよね。
だから女の子にモテちゃうんだよ。

誰にでも、ってわけじゃないんだけどね……。

口の中で呟いた言葉は、マッキーに届くことなく、リナ自身の口内で甘く蕩ける。
誰にだって優しい私という像は、マッキーの前でだけ作ってきたポーズなのだ。
いま、それを無性に伝えたかったが。
リナは辛うじてそれを自制した。

それより、部活とかどうした?文芸部あった?

うん、あったよ。そこが結構大きくてね……。

気を取り直して生活地区移動後の部活に話の水を向ければ、マッキーは簡単に食いついた。
リナは興味深そうに話に聞き入り、電脳世界の少女達の時間はすぎてゆくのだった。

電脳遠距離コミニュケーション

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