誰かが試練の洞窟の方からやってくるらしい。
確かにどんどん足音が近付いてくる。

でも音を隠そうとしていないということは、
敵じゃないのかな?
あるいは
バレても構わないってくらいの実力者?

……後者だと困るんだけど。
 
 
 
 
 
 
 
 

ミリー

…………。

アレス

えっ?

ミリー

あっ、勇者様!
追いつけて良かった……。

アレス

ミリーさん!?

 
姿を見せたのは、
マド村で別れたミリーさんだった。

ジフテルさんたちとの戦いが決着したあとは、
動向が全く分からなかったけど。
1人残された彼女は
未だに単独で旅をしているのかな?

そうだとしても、
なぜここへやってきたのだろう?
 
 

アレス

どうしてあなたがここへ?

ミリー

あの事件のあと、
1人になって考えたんです。
自分はこれから
どうすべきなのかを。

ミリー

私は勇者様に対して
罪を犯しました。
そしてやり直すためには
それを償う必要があるとの結論に
至ったのです。

シーラ

それであとを
追ってきたわけですね……。

クリス

よく城の中に入れたな?
見張りの兵がいたはずだろう?

 
その問いかけに、
ミリーさんは視線を逸らして苦笑する。
 
 

ミリー

トンモロ村の村長から
勇者様を守るよう依頼された書類を
捨てずに持っていましたので……。

ミリー

いつかどこかで
傭兵として雇われる際、
有利になるかなと思って……。

 
 

 
 

デリン

ちゃっかりしているヤツだ。
そういう性格は嫌いではないが。

クリス

なるほど、それを見せたワケか。
一兵卒なら信じて通してしまうのも
無理はないか……。

ミリー

勇者様、
私も共に戦わせてください!
この命、あなたにお預けします!!

 
ミリーさんは膝をつき、深々と頭を下げた。
そのあと顔を上げ、
凛々しい表情で僕を真っ直ぐ見つめてくる。

瞳には決意と意志が滲み出ていて、
騙そうとしているのではないと感じ取れる。
 
 

シーラ

でもミリーさんはかつてアレス様を
謀ったことがあるんですよね?

ミリー

この気持ちは嘘ではありません!

アレス

…………。

デリン

勇者よ、どうする?

 
みんなが固唾を呑んで
僕の返答に注目している。


どうしようかな――って、
僕の答えは最初から決まっているんだけどね。

色々な意見はあると思うけど、
やっぱり僕は僕の想いを信じて行動したい。
 
 

アレス

……ミリーさん、
僕はあなたの命を預かれません。

ミリー

そんな……。

 
ガックリと肩を落とすミリーさん。
瞳には涙が潤み、奥歯を強く噛みしめている。
 
ほかのみんなは
ほとんど表情を変えていないから
どう感じたのか分からない。


――でもこれはまだ答えの途中なんだよね。
 
 

アレス

ミリーさんの命は
ミリーさんのものです。
預かれるわけが
ないじゃないですか。

ミリー

えっ?

アレス

もし自分がピンチだと思ったら、
遠慮なく逃げてください。
ミリーさんを守れるよう、
僕は全力で努力はしますけどね。

アレス

僕はマド村で
あなたを仲間に誘いました。
一緒に戦ってくれること、
もちろん歓迎します。

ミリー

――っ!?

ミリー

勇者様……っ!
ありがとうございますっ!!

 
ミリーさんは再び頭を下げ、
体を震わせていた。
地面にはぽたぽたと液体がこぼれ落ちている。

表情は垂れた前髪に隠れて見えないけど、
きっと泣いているんだろうな。

ちょっとビックリさせちゃったかも
しれないけど、
これくらいならいいよね?
 
 

シーラ

ふふっ。

デリン

相変わらず甘いヤツだ。

クリス

さすが勇者様っ!

ミリー

……ぐすっ……私も全力で
勇者様を……
守らせてもらいます……っ!

ブラックドラゴン

ではおぬしも
護符を受け取るがよい。

 
 

 
ブラックドラゴンは新たに護符を創り出した。

ミリーさんは手の甲で涙を拭うと、
それを受け取って大事そうに懐へ仕舞う。
 

彼女とは旅立ちの時から色々あったけど、
再び一緒に旅ができることになって
嬉しく思う。
 
 

アレス

よろしく、ミリーさん。
それと僕のことはアレスでいいよ。

ミリー

ならば私のことも
ミリーとお呼びください。

アレス

分かったよ、ミリー。

アレス

そうだ、デリンも僕たちのこと、
名前で呼んでよ。
僕はデリンって呼んでるんだしさ。

デリン

なっ!?

 
不意に話を振られたデリンは
目を丸くしていた。

僕が笑顔を向けると、
彼は慌てて視線を逸らす。
そのあと少し考え込みながら、頬を軽く掻く。
 

デリン

……わ、分かった。
お前がそう言うなら
そうさせてもらおう。

アレス

じゃ、試しに僕を呼んでみて。

デリン

何っ?

アレス

ほら、早くっ!

デリン

……アレス。

アレス

なぁに、デリン?

デリン

こ、これでいいのか?

クリス

ククク、照れているのか?
魔族のくせに
無垢なところもあるんだな。

デリン

う、うるさいっ!
ガキは黙ってろ!
――ほら、さっさと行くぞ!

 
デリンは頬を真っ赤にしながら
僕たちに背を向け、
勝手に歩き出してしまった。

照れているのか怒っているのか、
その両方なのか?


でも僕には、
それ以外の感情も含まれているような
気がする。

だって向こうを振り向く一瞬、
すごく嬉しそうな顔をしていたのが
見えたんだもん。

もう僕たちは正真正銘の仲間同士だよ、
デリン!


――さぁ、
いよいよ最終決戦の地へ向けて出発だ!
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

第78幕 僕たちは仲間同士だ!

facebook twitter
pagetop