誰かが試練の洞窟の方からやってくるらしい。
確かにどんどん足音が近付いてくる。
でも音を隠そうとしていないということは、
敵じゃないのかな?
あるいは
バレても構わないってくらいの実力者?
……後者だと困るんだけど。
誰かが試練の洞窟の方からやってくるらしい。
確かにどんどん足音が近付いてくる。
でも音を隠そうとしていないということは、
敵じゃないのかな?
あるいは
バレても構わないってくらいの実力者?
……後者だと困るんだけど。
…………。
えっ?
あっ、勇者様!
追いつけて良かった……。
ミリーさん!?
姿を見せたのは、
マド村で別れたミリーさんだった。
ジフテルさんたちとの戦いが決着したあとは、
動向が全く分からなかったけど。
1人残された彼女は
未だに単独で旅をしているのかな?
そうだとしても、
なぜここへやってきたのだろう?
どうしてあなたがここへ?
あの事件のあと、
1人になって考えたんです。
自分はこれから
どうすべきなのかを。
私は勇者様に対して
罪を犯しました。
そしてやり直すためには
それを償う必要があるとの結論に
至ったのです。
それであとを
追ってきたわけですね……。
よく城の中に入れたな?
見張りの兵がいたはずだろう?
その問いかけに、
ミリーさんは視線を逸らして苦笑する。
トンモロ村の村長から
勇者様を守るよう依頼された書類を
捨てずに持っていましたので……。
いつかどこかで
傭兵として雇われる際、
有利になるかなと思って……。
ちゃっかりしているヤツだ。
そういう性格は嫌いではないが。
なるほど、それを見せたワケか。
一兵卒なら信じて通してしまうのも
無理はないか……。
勇者様、
私も共に戦わせてください!
この命、あなたにお預けします!!
ミリーさんは膝をつき、深々と頭を下げた。
そのあと顔を上げ、
凛々しい表情で僕を真っ直ぐ見つめてくる。
瞳には決意と意志が滲み出ていて、
騙そうとしているのではないと感じ取れる。
でもミリーさんはかつてアレス様を
謀ったことがあるんですよね?
この気持ちは嘘ではありません!
…………。
勇者よ、どうする?
みんなが固唾を呑んで
僕の返答に注目している。
どうしようかな――って、
僕の答えは最初から決まっているんだけどね。
色々な意見はあると思うけど、
やっぱり僕は僕の想いを信じて行動したい。
……ミリーさん、
僕はあなたの命を預かれません。
そんな……。
ガックリと肩を落とすミリーさん。
瞳には涙が潤み、奥歯を強く噛みしめている。
ほかのみんなは
ほとんど表情を変えていないから
どう感じたのか分からない。
――でもこれはまだ答えの途中なんだよね。
ミリーさんの命は
ミリーさんのものです。
預かれるわけが
ないじゃないですか。
えっ?
もし自分がピンチだと思ったら、
遠慮なく逃げてください。
ミリーさんを守れるよう、
僕は全力で努力はしますけどね。
僕はマド村で
あなたを仲間に誘いました。
一緒に戦ってくれること、
もちろん歓迎します。
――っ!?
勇者様……っ!
ありがとうございますっ!!
ミリーさんは再び頭を下げ、
体を震わせていた。
地面にはぽたぽたと液体がこぼれ落ちている。
表情は垂れた前髪に隠れて見えないけど、
きっと泣いているんだろうな。
ちょっとビックリさせちゃったかも
しれないけど、
これくらいならいいよね?
ふふっ。
相変わらず甘いヤツだ。
さすが勇者様っ!
……ぐすっ……私も全力で
勇者様を……
守らせてもらいます……っ!
ではおぬしも
護符を受け取るがよい。
ブラックドラゴンは新たに護符を創り出した。
ミリーさんは手の甲で涙を拭うと、
それを受け取って大事そうに懐へ仕舞う。
彼女とは旅立ちの時から色々あったけど、
再び一緒に旅ができることになって
嬉しく思う。
よろしく、ミリーさん。
それと僕のことはアレスでいいよ。
ならば私のことも
ミリーとお呼びください。
分かったよ、ミリー。
そうだ、デリンも僕たちのこと、
名前で呼んでよ。
僕はデリンって呼んでるんだしさ。
なっ!?
不意に話を振られたデリンは
目を丸くしていた。
僕が笑顔を向けると、
彼は慌てて視線を逸らす。
そのあと少し考え込みながら、頬を軽く掻く。
……わ、分かった。
お前がそう言うなら
そうさせてもらおう。
じゃ、試しに僕を呼んでみて。
何っ?
ほら、早くっ!
……アレス。
なぁに、デリン?
こ、これでいいのか?
ククク、照れているのか?
魔族のくせに
無垢なところもあるんだな。
う、うるさいっ!
ガキは黙ってろ!
――ほら、さっさと行くぞ!
デリンは頬を真っ赤にしながら
僕たちに背を向け、
勝手に歩き出してしまった。
照れているのか怒っているのか、
その両方なのか?
でも僕には、
それ以外の感情も含まれているような
気がする。
だって向こうを振り向く一瞬、
すごく嬉しそうな顔をしていたのが
見えたんだもん。
もう僕たちは正真正銘の仲間同士だよ、
デリン!
――さぁ、
いよいよ最終決戦の地へ向けて出発だ!
次回へ続く……。
え、まさかっ
って思ったらお前か~い!