私も食べたいとふてくされるサンザシをよそに、みんなでわいわいと夕食を食べ、ミドリとお別れをし、二階にあるヨシキの部屋でヨシキを寝かしつけ――一緒に俺も寝てしまった。




 次の日の朝、馬鹿みたいに大きな男の笑い声で起こされる。

 がっはっはっは、と、あまり上品ではない笑い声に、不快感を覚えて上半身を起こす。

……なんでしょう?

 俺のとなりで丸まって寝ていたサンザシも、目を擦りながら起床する。

 ヨシキが目覚めていないことを確認し、俺は

行ってみよう

と階段へ向かった。








大きな声を出さないでください

 マサヨシの声だ。

 昨日、マサヨシがうちの問題だと言っていたことの一貫かもしれない。

 どうするか……一瞬ためらったが、俺はその場にいることを決めた。

 この物語の筋道がどこに行くべきなのか、そのヒントのかけらでさえ、見つけられていないのが現状なのだ。

失礼失礼

 男の声はやけに高く、耳ざわりな声だった。

早く負けを認めてしまえばいい、と思うのですがね

負けもなにも……うちはうちの経営をしていくだけですから

困っているでしょう、売り上げが延びずに

……どちらにせよ、うちはこのまま駄菓子屋を続けていきます。

たとえそちらのお店にいくら客をとられようと、うちに来てくれるお客様がいる限り。

だから、もうお引き取りください。昨日も言ったじゃないですか。

何度も繰り返し繰り返し……勘弁してください

 冷静なのは、マサヨシの方だった。相手の声は、次第に苛立ちを見せはじめていた。

いいんですか? あなたの店と、商品もまるごと買い取ろう、なんて、いつまでも言えることではありませんよ?

ええ、そのつもりはございません……お引き取りください

……わかっていない。もう少し冷静に考えるべきだ。今より売り上げが延びることなんて、ないぞ

 凄むような声に、マサヨシが怯えることはなかった。

冷静に考えた結果です。

だれもかれもが、儲けのためになにかをしている訳じゃない。

俺は、ここを守らなければならないんですよ

そうですか……まあ、まだ期限はあります。もう一度、ゆっくり考えてみるといい

ええ、答えは変わりませんが

 マサヨシの毅然とした態度に腹をたてたのだろう。

 がん、と扉を叩く音がした。俺は反射的に、階段を降りていた。

マサヨシ……!

 階段を降りきったときには、すでに相手の姿は見えなかった。代わりに目に飛び込んで来たのは、マサヨシの後ろ姿だった。拳を、強く強く握りしめている。


 その手をゆっくりほどくと、マサヨシは力ない笑顔で振り向いた。

……全部、きいちまった?

……ごめん

いや、悪くないよ

 悪くない、ともう一度呟いて、マサヨシはため息をついた。

いつかは話すことになるだろうと、思ってたしね

……お店、危ないのか

5 駄菓子屋の未来 記憶の原点(10)

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