言って、サンザシはミドリというその女性にぎゅっと抱き締められる。
ふおお、と言ったまま硬直しているサンザシが、妙に面白いが、面白がっている場合でもない。
へえ、サンザシちゃんっていうのね、可愛い。私はミドリ、よろしくね
言って、サンザシはミドリというその女性にぎゅっと抱き締められる。
ふおお、と言ったまま硬直しているサンザシが、妙に面白いが、面白がっている場合でもない。
何でおまえ、見えるんだ?
知ってて来たのか?
知らなかった。来てよかった。サンザシちゃんかわいい
またも抱き締められるサンザシ。硬直しっぱなしのサンザシ。
……こいつ、たまに見えるんだと
マサヨシが、ぼそりと言った。見える、というのはつまり。
幽霊みたいなやつ?
そうそう。死神も見たことあるとか、けろっと言うんだぜ
あ、なるほど。身近にこういうのを好きな人がいるって、ミドリさんのことだったのか
マサヨシは俺の推理になにも言わず、頬を赤らめたまま手で口もとをおさえるだけだ。
なんとまあ、素直じゃない。
あなたの名前は?
サンザシを抱き締めたまま、ミドリは言う。
タカシです……あの、その子、たぶん他の人には見えません。ヨシキ君にも見えないので、その
あ、オッケーオッケー黙ってるね
飲み込みのはやい人だ。こういう状況に慣れているような感じもする。
マサヨシ、今日一緒にご飯食べていっていい?
ああ、いいよ。
ミドリからもらったやつは、明日でいいかな。
今日、カレーなんだよ。
カレーに肉じゃがじゃ、なんか……盛りだくさんだろ
うん、いいよ。明日みんなで食べてね。サンザシちゃんも食べられる?
ミドリは、サンザシの後ろから腕を回し、サンザシにぴたりとくっついている。
サンザシもなれたようで、ミドリの腕をぎゅっと握っている。
可愛い。
はい、いただきます!
わー、嬉しいなあ
あー、そうだ、ミドリ。そいつらな、魔王の物語について調べてるんだと
マサヨシが、野菜をいためながらそう言った。
わあ、とミドリの目が輝く。きらきらとした目が、俺をとらえる。
知ってるの? 魔王の物語について
知っていると言うか……俺も、調べていると言うか
わー! 凄いよ、凄いよねマサヨシ!
あーすごいすごいすごい
もう、素直じゃない!
この人も絶対に喜んでいるはずなの、だって、ずっと探してくれていたから。
手がかりがなくって……私もなんだか、夢かまことかってなってたところだったの。
でもよかった、やっぱり物語は存在しているんだね
ミドリが嬉しそうに、サンザシの頭をなでた。されるがままのサンザシ。
あの……ミドリさんも、学者さんなんですか?
ああ、私? とミドリが少し照れくさそうに微笑んだ。
絵本作家なの、まだかけだしだけどね
作家さんなんですか、素敵ですねえ
サンザシが、真上にあるミドリの顔を見上げている。
えへへ、とミドリは頬を赤く染めて、ありがとうとサンザシを何度もなでた。
童話の研究者と、童話作家。素敵なカップルだ。
んー……
ヨシキが向くりと起き上がった。あっ、とミドリはサンザシから手を離し、俺に向かってひそひそと言った。
あとで、よければ詳しい話、聞かせてくれない?
もちろん
俺も静かに返事をすると、ミドリは小さくうなずいて、ヨシキの元へ駆け寄った。
そして、抱きつく。どうやら抱きつきぐせがあるようだ。
ヨシキは嬉しそうに抱きつき返している。
かわいいな
あ?
ヨシキ君が
……お前なあ
マサヨシが眉間にシワを寄せた。