マサヨシは眉間にシワを寄せ、大きく深呼吸した。

 マサヨシの返事を待っていると、俺の裾をくいとひっぱられた。振り向くと、サンザシが心配そうに俺を見上げている。

おはよう、お嬢ちゃん

 マサヨシは明るく笑って、まあ二人とも来いよと俺らを手招いた。店のなかにある椅子に腰掛け、近くの棚に手をやる。

 小さな飴を、手のなかで転がしていた。

そこらへん、適当に座っていいぞ。座布団もそこらへんにころがってるだろ

 マサヨシが指をさした床に、ころがっていた座布団を手にして座る。きっといつもはここで座って、ヨシキと店番をしているのだろうな、と思った。


 その光景は、ほほえましいはずだ。

どうか、しましたか

 サンザシは座布団の上に正座をすると、上目使いでマサヨシに訪ねた。

いやね、ここの店を買い取りたいってやつがいるんだよ。

ここから五分もたたないところにさ、二年前かな、でーんと店を構えてくれた、現代風なお菓子やさん。

きらきらしちまって、レトロなものをところせましと置いてさあ。

それがな、いいんだって。本当に古いものじゃなくて、作られたレトロに……客をとられちゃってさあ

……そうだったのか

そう。それでも、作りのもののレトロには限界がある。

だから、まるっとこの本物のふるーい駄菓子屋がほしいんだとさ。

こっちは本格的なお店、あっちは未来的なレトロ、だとよ。

よくわかんねえけど

 マサヨシは、ふう、と静かにためいきをついて、飴をもとの場所に戻した。

金にはな、困ってないんだ。今のとこ、だけどさ。

俺が研究者をする余裕があるぐらいには……でも、いつかはその金もつきる。

そのときのために、売れって。

どうせ売り上げはどんどん下がっていく、目に見えた勝負だって……悔しいよなあ。正論なんだ

でも、売らないんだろ

ああ、売らない。絶対に売らない。

いろんなもんがつまってる。

それに、今でも買いに来てくれる子どもはいるしな

俺、この駄菓子屋の雰囲気、好きだよ

 それしか言えないことが情けなかったが、マサヨシは本当に嬉しそうに、笑った。

俺もだよ















居候なら掃除を手伝え!

 ということで、その日は掃除を手伝うこととなった。

デジャヴだ

 荷物を運びながら、サンザシにこっそりと耳打ち。

私はあのとき見ているだけでした

 魔法で出した自前のはたきをぱたぱたとしながら、サンザシが言う。表情は明るいから、わりと楽しいようだ。

楽しそう

 見たままの感想を言うと、そうですねえ、とサンザシが微笑む。

お掃除は好きです。

きれいになると、ハッピーになります

確かにね

 鼻唄をうたいだすサンザシ。ご機嫌だ。可愛らしい。

おーいさぼってんじゃねえぞお

 マサヨシの叫び声に、慌てて俺は荷物を持ってマサヨシの方へ駆け寄った。

なに見とれてんだよ

見とれてないよ

にやにやしてたぞ、お前

してないよ!

してたからいってんだろ! ったく、あれか、お前の片想いなのか?

 どうして恋愛に持っていこうとするんだ、こいつ!

5 駄菓子屋の未来 記憶の原点(11)

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