僕はブラックドラゴンの前へ進み、
彼を見上げた。
出会ってから数か月程度、
しかも会うのは2回目だ。
それなのに、
不思議とすごく懐かしくて
親しみがある感じがする。
僕はブラックドラゴンの前へ進み、
彼を見上げた。
出会ってから数か月程度、
しかも会うのは2回目だ。
それなのに、
不思議とすごく懐かしくて
親しみがある感じがする。
久しいな、少年。
その凛々しい顔つき、
随分とたくましく成長したようだ。
ドラゴンが人間の言葉を喋った?
ここは平界に近しい場所とはいえ、
すでに魔界。
平界ではできないことも
色々とできる。
やはりあなたは
ブレイブ峠で出会った
ブラックドラゴンなんですね?
そうだ。
あの時、勇者の末裔の様子を見に
向かっていたところだったのだ。
まさかその途中の山中で出会うとは
思っていなかったがな。
なぜ僕の様子を?
その先は我を打ち倒した時に
話してやろう。
どうしてもあなたと戦わなければ
ならないんですか?
ふふふ、そういえばおぬしは
戦いが嫌いであったな。
はい……。
でも戦いから逃げたいという
わけではないんです。
ほぉ?
戦い以外の方法があるなら
それを選択したいというだけ。
もし避けられないなら、
それが試練であるなら
全力で戦います。
澄み切った良い目をしている。
迷いがなく、決意に満ちた目だ。
その意志に応え、
我も誠意を持って
戦わせてもらおう。
我を倒すか、
指1本でもアレクの鎧に
触れられれば
おぬしの勝ちだ。
分かりました。
アレス様、
ボクは遠くから
戦いを見させてもらいます。
仲間と協力して
彼を倒してください。
クリスくんがその場から離れると、
ブラックドラゴンは立ち上がって
僕らを見下ろした。
――ものすごい迫力と威圧感。
睨み付けられているだけで
すくみ上がってしまう。
攻撃の意識を向けられているからなのか、
ブレイブ峠で出会った時とは
比べものにならないくらいの恐怖を感じる。
おい、勇者。
分が悪すぎるのではないか?
どういうこと?
俺と巫女の娘は
魔法が使えん状態だ。
その上、相手はドラゴンの中でも
最強クラスの実力を持つ
ブラックドラゴンだ。
さすがに俺でも
物理攻撃だけでは
勝てるか分からん。
そんなに強いのっ!?
ブラックドラゴンは
魔界で生まれし者。
つまり俺たち魔族と
同じことわりで存在している。
平界で生まれたドラゴンとは
根本的に実力が違うのだ。
えぇっ!? そうだったの?
だが、こうなっては仕方がない。
お前と巫女の娘の力で
ヤツの動きを封じろ。
シャインの時と同じ戦法だ。
分かった。
シーラ、準備はいい?
はいっ!
いつでもいけますっ!
僕とシーラは手を繋いだ。
そして意識をブラックドラゴンへ向け、
念じ始める。
…………。
カァアアアアァ!
ブラックドラゴンは僕とシーラに向かって
激しい炎を吐いた。
防御魔法がかかっていない状態では
耐えきれない。
避けようと思わず体が動こうとした時――
そうはさせんっ!
すかさずデリンが僕たちの前に出て、
剣圧で炎を真っ二つに切り裂いた。
左右に分かれた炎は地面に直撃し、
草木を灰に変える。
熱風と衝撃が肌にピリピリと伝わってくる。
急げよ、勇者!
俺もそう長くは庇い切れん!
ありがとう、デリン。
ふふふ、なかなかやるな。
ではこれでどうだ!
ブラックドラゴンは激しく咆哮した。
それは空気を振るわせ、
衝撃波が辺りに伝わってくる。
そして間髪を入れず、
彼はデリンに向かって突進する。
なっ!?
ぐわぁああああぁっ!
衝撃波によって
動きを止められていたデリンは、
ブラックドラゴンから
尻尾による強烈な一撃を食らった。
体は遠くまで弾き飛ばされ、
動かなくなってしまう。
そこへブラックドラゴンはダメ押しとでも
言わんばかりに、
かぎ爪による攻撃を加えた。
デリンっ!
安心しろ、トドメは刺していない。
それにここは魔界。
魔族であるヤツなら
時間経過とともに少しずつ
怪我や体力が回復していく。
それよりも
自分の心配をしたらどうだ?
もはやおぬしを守る者はいないぞ。
くっ……。
…………。
ブラックドラゴン、
どうかもう戦うのは
やめてください。
お願いです……。
……残念だが、
それはできない相談だ。
えっ!?
どうしたのですか、アレス様っ?
僕の力が通じない……。
それどころか、
呼びかけに応じてきた……。
残念だったな。
確かにおぬしの力は強い。
巫女と力を合わせれば、
大抵の相手には効果があるだろう。
だが、我には効かぬ。
なぜなら我も
同じ力を持っているからだ。
僕と同じ力をっ!?
ただし、我の場合は魔界でしか
効果が出ないがな。
この力を持たぬ者の場合は、
無防備状態で
攻撃を受けるようなもの。
防ぐ手段がないわけだからな。
ゆえに効果は絶大だ。
だが、同じ力を持つ者であれば、
同じ力をぶつけて
相殺することができる。
そんな……。
確かにおぬしの力は我よりも上だ。
だが、受ける影響は限定的。
少しは我の戦闘力が落ちるが、
おぬしには余裕で勝てるだろう。
うぅ……。
僕は愕然とした。
まさか僕の力を打ち消せる相手がいたなんて。
この力が使えないなら、
戦う力はゼロと言っていい。
剣ではブラックドラゴンに対抗できない。
攻撃魔法も使えない。
シーラは魔法力は尽きているから、
回復魔法をかけてもらいながら
隙をうかがうこともできない。
デリンはそう簡単に回復しそうにない。
――打つ手なしじゃないかっ!
次回へ続く!