マジックドラゴンの横を通り抜けたあとは、
通路を進んだり階段を何度か下りたりした。
そうして僕たちは洞窟の奥深くまで
進んでいった。
たまにコウモリや小さな獣が現れたけど、
僕たちの気配を察すると
逃げていってくれている。
争いにならなくて幸いだ。
それにしても
この洞窟はどこまで続いているのだろう?
かなり深いところまで下りてきているのは、
間違いないんだけど……。
マジックドラゴンの横を通り抜けたあとは、
通路を進んだり階段を何度か下りたりした。
そうして僕たちは洞窟の奥深くまで
進んでいった。
たまにコウモリや小さな獣が現れたけど、
僕たちの気配を察すると
逃げていってくれている。
争いにならなくて幸いだ。
それにしても
この洞窟はどこまで続いているのだろう?
かなり深いところまで下りてきているのは、
間違いないんだけど……。
クリスくん、
まだ最深部まで遠いの?
実はボクも
詳しくは分からないんだ。
いつも転移魔法で最深部まで
直接移動していたからね。
そうなんですか……。
勇者よ、油断するな。
もしかすると、
この洞窟はどこかで魔界と
繋がっているかもしれんぞ。
えっ?
魔界の空気が漂ってきている。
つまり魔族と遭遇することも
ありえるということだ。
そんな……。
クリスくん、そうなのっ?
……その通り。
ここには魔界へと通じている
場所がある。
だからこそ我が一族は
この上に城を建て、
万が一の時には侵攻を防ぐ役割を
担っているのだ。
そういえば、
レイン様がおっしゃっていました。
本家は伝説の勇者様の遺言で
故郷を守っていると。
確かにレインさんから
そういう話を聞いていた気がする。
あれはシャポリの港町で
導きの羅針盤を探している時だっけ。
その時、シーラも一緒だったんだよね。
ご先祖様の遺言については、
時期が来たら話すって
タックから言われたままだ。
あの時とは状況が変わっちゃったし、
クリスくんに聞いてみようかな?
クリスくん、
ご先祖様の遺言について
何か知ってる?
……すまない。今は話せない。
アレス様が全ての試練を乗り越えるまで
話してはいけないということに
なっている。
それも遺言のうちなの?
コクンとクリスくんは静かに首を縦に振った。
ただ、アレス様の思っている遺言と、
我が一族が
この地を守るようになった
遺言は別物だと思う。
えっ?
ボクのご先祖様であるルーン様は
アレク様と子どものころからの
親友同士だったんだ。
そして仲間の中で
総合力が最も秀でていた。
だからこそ、
魔界と通じるこの地を守る役目を
任せられたらしい。
つまりプライベートな遺言に
近いものだろう。
だがアレス様が
思っている遺言とは、
おそらく勇者の試練に関するもの。
それは我が一族の中でも
審判者を受け継ぐ者だけに
伝えられてきた事柄だ。
それを知るためには、アレス様に
真の勇者になっていただかないと
いけないということですね?
そういうことだ。
ふんっ!
このクソガキを締め付けて
吐かせれば早かろうに。
アレス様は
そんなことをする御方じゃない。
その程度のことも分からんから
貴様は三下魔族なのだ。
なんだとっ?
貴様こそ魔法が使えなければ
ただの弱い人間ではないか!
それに勇者とて
心に闇がないとも限らん。
手段を選ばないという時も
あるかもしれんぞ?
――っ!
アレス様の悪口を言うなっ!
それだけは絶対に許さないっ!
ん?
……随分とムキになってるな?
勇者のことで、
以前はそこまで怒っていたか?
っっっっ!
き、気のせいだっ!
…………。
もう、2人とも。
そろそろケンカは
やめてよぉ……。
僕は思わずため息が漏れた。
肩を落としつつ、2人の仲裁に入ろうとする。
――その時だった。
急に辺りの空気が張り詰め、
身震いするような気配が
感じられるようになる。
通路の先は明るい光に満ちていて、
だだっ広い空間となっているのが
少し見えている。
この気配はそこにある何かが原因のようだ。
なんだ、この気配は?
どうやら最深部のフロアに
到着したようだ。
この奥にアレク様の鎧がある。
…………。
アレス様、進みましょう。
うんっ!
僕は意を決し、
洞窟の最深部のフロアへと足を踏み入れた。
そこは地下とは思えないほど広大な空間で、
お城がそのまま入ってしまうくらいの
規模だった。
遠くでは光の膜のようなものが揺らめき、
そこを境とした奥には木々が生い茂っている。
しかも光に満ちあふれ、まるで屋外のようだ。
ほぉ、あれはゲートではないか。
えっ?
その通り。
あの膜のようなものこそが、
世界を隔てている境界線だ。
じゃ、あの向こう側が
魔界ってこと?
うむ。
思ったよりも普通なのですね?
もっと禍々しい世界なのかと
思っていました。
外見は大して変わらん。
空も大地も海もある。
ただし、ことわりは全く違う。
どういうこと?
力の根源や効果、存在の拠り所、
お前ら人間には理解できない
様々な事柄がある。
そうなんだ……。
アレス様、
勇者の証である鎧はあそこにある。
クリスくんの指差した先はゲートの向こう側。
そこには石造りの大きな塚があって、
その頂上部分に金色の鎧が置かれていた。
そしてその手前には
見覚えのあるドラゴンが鎮座している。
…………。
あれはブラックドラゴンっ!?
彼こそが
試練の最後に立ち塞がる者。
彼を打ち倒すことができれば、
鎧を手に入れられることだろう。
あのブラックドラゴンとは、
僕が旅に出て間もない頃にブレイブ峠で
出会っている。
なぜ彼がこんな場所に?
僕は戸惑いつつも、
ブラックドラゴンの前まで歩いていった。
次回へ続く!