さらりと訊いてくださったマサヨシさんの発言に、サンザシは一瞬で真っ赤になる。
こ!
さらりと訊いてくださったマサヨシさんの発言に、サンザシは一瞬で真っ赤になる。
わ、私はサポーター、で!
サポーター?
ちが、サポーターじゃなくて、つ、つきびとです! メイドみたいな!
へえー
サンザシのあわてっぷりににやつくマサヨシ。俺も困ってしまって、慌てて話題を変える。
……話題を戻すぞ。で、どうして恋愛ものだって知ってるんだ?
サンザシさんが俺の影に隠れて、ぎろりとマサヨシを睨み付けている。
そのサンザシをにやりと見返した後、マサヨシは話の方向を戻してくれた。
……いやな、俺の友達に、童話が好きなやつがいてさ。俺の方がそいつより詳しいから、いろいろ教えてやってたわけ。
そしたら、じゃあ、魔王の物語は知ってる? って言ってくるんだよ。
知らないって言ったら、勝ち誇ったように胸張りやがって、知らないの、恋愛ものだよ、って言うんだよ。
でも、詳細を求めたら、忘れた、ってけろっと言いやがって……んで、探してみたら、みつかんねえの、その物語。
んで、研究者魂に火がついたっていう話
あー、じゃあさっきセイさんが栄誉だなんだっていってたのは
未知の物語を探したらな。そりゃあ、研究者としては栄誉だろ。
でも、俺はそのために物語を探しているんじゃない
あくまでそのお友だち、そして自分のプライドのため、ということですね
サンザシが、俺の影に隠れたまま、静かに訊いた。はは、とマサヨシがはにかむ。
そういうことだ、お嬢さん
友達じゃなくて、恋人じゃないですか
サンザシがぼそりと言った。同時に、マサヨシが手にしていた玉ねぎを放り投げた。
あ、サンザシ、ビンゴっぽいよ
な……違う!
あ、じゃあ片想いかもね
タカシてめえ! 違う片想いじゃない! ってだあ! ……くそお、なんでわかったんだよ
ふふ、とサンザシが微笑む。
女の勘です
女怖い……
マサヨシ、今度その子紹介してよ
なんでだよ!
恋人の話が出てきたとたん、妙に照れるマサヨシが面白い。
なんでって、気になるだろ
俺の恋人なんてどうだっていいだろ!
いや、魔王の物語について聞きたいだけだよ
あ……そっち
マサヨシが頬を染め、下唇をつきだしている。
崇様、はめましたね
はめただなんて、人聞きの悪い
だあ! お前らカップルうるさいぞ!
カップルじゃないって言ってるじゃないですか!
今度はサンザシが頬を染める番だ。
どうだかな、お嬢さん! これは男の勘だ
あ、あてになりません!
わっ、とサンザシが俺の腰に顔を埋めた。マサヨシが愉快そうに笑っている。
なんだか久しぶりの平和なやりとりに、俺の頬も自然と緩んだ。
そのときだった。がらがら、と玄関の開く音がした。
マサヨシー?
女性の声だ。
外まで楽しそうな声が聞こえてたよー、お客様ー?
顔をのぞかせたのは、黒髪のきれいな女性だった。
あら、こんにちは
女性の瞳が、眼鏡の奥で穏やかに笑った。優しそうな人だ。
ごめん、お客様がいるなんて知らなかった。夕飯持ってきたけど、いる? よかったら食べて
……おう、わりい
彼女さんですか
にやりと笑いながら、サンザシがつぶやく。俺も見てすぐにわかった。噂をすればなんとやら、とはこのことだろう。
マサヨシはその場で目を大きく見開くだけだ。わかるよ、サンザシがいないふりをするのは大変だよな……と思っていると。
はは、と女性は微笑んで、
そうだよ。だあれ、その可愛い子。友達?
と言うのだった。
え……!
サンザシもびっくり。俺もビックリ。
まったく、どうなっているんだ、この世界は。