いらっしゃっただろ! ……わりい、少し待っててくれ

 マサヨシが部屋から出ていく。サンザシが、不安そうにこちらを見つめた。

ヨシキ君、泣いていらっしゃいませんでしたか?

うん、泣き声だったね

 マサヨシと入れ替わりで、ヨシキが部屋に入ってきた。
 その目からは、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。

う……あ……

どうしたの、ヨシキ……

 わああ、とヨシキは大きな声で泣き出した。

 俺は反射的に立ち上がって、ヨシキに近づき、しゃがんで頭を撫でた。

どしたあ

う、ううう、なんでも……ない

んなわけ、あるかあ

う、うう……

 ヨシキは、結局泣いている理由を言わなかった。ただ、わんわんと大きな声をあげて泣くだけだ。

 俺はただわけもわからず、ヨシキの頭をなでてやることしかできなかった。

 数十分で、マサヨシは帰ってきた。

兄ちゃん

 泣きじゃくっているヨシキを撫でながら、マサヨシは悪かったな、とつぶやいた。

いや……さっきの、どうしたの?

なんでもねえ

んなわけ、あるか

……うちの事情だ

 忘れかけていたけれど、おそらくこの出来事が、今回の物語の核なのだろう。

 魔王の物語はあくまでも俺たちにとってはサイドストーリー、こちらが本題だ。


 家庭の事情だと言われたら聞きづらい……が。

さっき、セイさんが言ってただろ。

君の生活の役に立つ。

もし、詳しく話してくれたら、役に立つことができるかもしれない

 マサヨシは、目を細めた。本当かどうか、判断しているような目だ。

 やがて、答えを決めたのか、ふっと目を伏せた。

ありがとよ。でも、本当に家庭の事情ってやつだ。

すぐに話すわけにはいかねえよ

……そうか

ただ、一人で抱え込むのもちと辛い問題でもある。

お前が信用できるってそう思えたときには、相談させてくれ。

なんか、ごめんな。心配してくれて、ありがとうな

いいよ。俺もでしゃばってごめん……いつでも、こいよ

ありがとよ





 さあ、飯にするか、とマサヨシが言う。

 泣きつかれて寝てしまったヨシキを居間で寝かせながら、二人で夕食を作ることにした。

 その間に、魔王の物語の話をした。

なるほど、死んだ人を生き返らせてはいけないって物語なのか……それだけでも、十分収穫だ

 ニンジンを切りながら、マサヨシが言う。

むしろそっちは、どこまで知っているんだ?

 ジャガイモの皮をむきながら、俺は問う。

魔王の恋物語だってのは知ってる

え、恋愛ものなのかよ!

あ? 知らなかったのか? 

あ、でも、確定ではないからな

あ、そうなの

 ニンジンを切り終わったマサヨシは、俺が皮をむいたジャガイモを切り始めた。

 サンザシさんは、俺のとなりでじっと俺の作業を見ている。

崇様、私もやりたい

だめです

 先程ピーラーを渡した瞬間不器用が発覚したサンザシさんには、さわらせない。

……魔法、使いたい

ずるはいけません

ずるじゃないんですよ! 

魔法を使えたらうまいんです、料理!

 ぎゃんぎゃんと叫ぶサンザシさんをはいはいとなだめる。

なあ、お前ら二人って恋人なのか?

5 駄菓子屋の未来 記憶の原点(7)

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