6.難攻不落の水曜日 - 夜
6.難攻不落の水曜日 - 夜
つい、昔のことを思い出してしまった……。
小さな頃から使い続けた、相棒を撫でる。
ひんやりしたフレームが、夏の蒸し暑さを一瞬だけ吹き飛ばしてくれる。
それにしても、だ。
昼間の写真だよ。写真。
『少女のまま、終わらせる』って何を終わらせるんだ?命?アイドル生命?
だとすれば、ファンの犯行?
いや、それとも不知火に遊ばれて、捨てられた男の逆恨み?でも噂の真相が……
……
あ、来た。
やあ、いつも待たせてるね。ごめんね。
カメラの設置は終わったの?
え?
これ、撮ったの清水君でしょ。
不知火がスマートフォンを取り出すと、清水に突きつけた。
おそらく、今日の掲示板にあった写真を見せているのだろう。
なんだい、この写真は?
あー面倒。
そこ、しらばっくれちゃうんだ?
しらばっくれるも何も、随分な悪口じゃないか。この前言っていた写真科の女子か?
まったく、民度が低いというか……みちる、大丈夫?
この写真、私だって分かるけど相手の姿は背中しか見えないよね。
偶然にしては、かなり出来のいい作品だなあと思って。
いつも来ている私や、清水君なら、簡単に設置できそうだし。
……パパラッチ部の奴らじゃないか?
なんでも、有名な学生に張り付いて、プライベートな写真を撮っては売りつけているらしいじゃないか。
私は、三崎君を欠片も疑っていないよ?
なんで俺は疑うんだ!
女の子。
え……
なんで、写真科の『女子』だって決め付けたの?
この前言ったのは、『写真科の奴ら』だったよね?
それは……
写真科の女子に書かせたのかなー?
そういえば、パパラッチ部だって声あげたの、写真科の女子だったなあ。
ねえ、いくら払ったの?それとも、キスの一つもしてあげたわけ?
そんなことはしない!
不知火の言葉を遮るように、清水は傍らの滑り台を殴った。
握りこぶしの方が、嫌な音をたてた。
……君が、ずっと好きだったんだ。
そう、小さい頃から。テレビで笑う君が好きだったんだ心の底から好きで好きで好きで近づきたくて。
なんか……様子が……
だから君に近づきたくて芸能界に入って学校も同じ学校にして女の子の付き合い方もいっぱい勉強してやっと君の側にいられるようになったのに、君に寄ってくる奴らはみんな民度が低いし馬鹿ばっかりで邪魔だし最近ではパパラッチがついてきて僕達の邪魔をする。
でもどこかで分かっていたんだ。君が僕のものにならないって。
なっ?!
みんな邪魔なら、僕達が肉体を捨てれば良い。簡単なことだよね。
さあ、失われた果実を探しに行こう。
勝手に意味をつけないで。
ロストパインは、"失われた果実"じゃない。
肉体を捨てる?楽園でも行こうっていうわけ?アダムとイブの知恵の実を食べたら、結局逆戻りじゃない。ばっかじゃないの?
なんでこんな時まで辛らつなの?!
ま、別にいいけどさ。
どうせ、叶わない恋なんだから。
……
死にたいの?一緒に?いいよ。刺せば?
どうせ、後追いなんてできないでしょ、お坊ちゃま君?
できるさ。愛してるから。
愛なんて、信じない。
清水が、不知火に一歩、近づいた。
不知火は、一歩も動かなかった。
ナイフの切っ先が、不知火の心臓に、向けられた。
……さよなら、ロストパイン。