月 アマノガワ

シズク

もうすぐ出口よ。カンナ!頑張って

釣鐘セイカ

は、はい

おそらく力を酷使した反動だろう
私の体は普通に走るのが精一杯になっていた

釣鐘セイカ

もうすぐ…もうすぐですね、鳥居まで

シズク

そうね。月祭りの神社にある鳥居がアマノガワの入り口だから…もうすぐ、もうすぐよ!

釣鐘セイカ

家に帰ったらまず、お母さんに怒られそうです

シズク

そうね。でも良いじゃない。また、あの美味しい料理が食べられるのだから

釣鐘セイカ

そうですね…行きましょう!

そうだ。やっと…やっとここまできたんだ
なんで私達に昔の記憶があるのか
こうしてまた出会えた理由なんてどうでもいい

釣鐘セイカ

やっとルナ様との約束が果たせます

シズク

…実際もう二人で地球には行けたんだけどね

釣鐘セイカ

それは、まだ記憶が戻ってない時の話ですし、ノーカンですよ

シズク

ノーカン?

釣鐘セイカ

あれは無効って事です

シズク

そうなの?まぁ、いいわ。カンナと一緒なら

釣鐘セイカ

私もです。ルナ様と一緒なら

何処にだって行ける

シカナ

とか思ってるんじゃないの?

釣鐘セイカ

!?

シズク

駄目っ!!カンナ!下がりなさい!!

信じられないが私たちの目の前に
突然…あの猫が現れた

釣鐘セイカ

嘘?猫…?なんで、ここに…狐と一緒に消えたんじゃ?

シカナ

あれくらいで私が消えるわけないでしょ?勘弁してよ

釣鐘セイカ

口調が…

シズク

まさか、、、あなた…

シカナ

そう。お久しぶりです。ルナ姉様

シズク

ミキナ……そう…シカナは憑代というわけね

釣鐘セイカ

!?

シカナ

そうです。カンナ?あなたが言った通り私の体は限界がきてたからね。別の体が必要だったの

釣鐘セイカ

まさか…ずっと?

シカナ

そうよ?貴方達を殺して女神になってから随分と時間が経ったからね。私達一族は普通の住人より寿命が長いとはいえ限界はある。そこで…

シズク

別の体に乗り移っていったのね

シカナ

そう。シカナは丁度いい器だったわ。地位もそこそこあるし、まして私が演じてるとは誰も気づかないでしょ?

シズク

そうね、私…シズクや周りの人間は誰も分らなかったもの

シカナ

巫女を治めるリューナやセレナ達でさえ、ね。まぁ、どうでもいい事よ。重要なのは私が今ここで貴方たちに追い付いたという事実だけ

シズク

正気?アマテラスが無い貴方に何が出来るというの?

釣鐘セイカ

その通り。病に侵されていない、それも本来の力が発現したルナ様に勝てると思っているの?

シカナ

そうね~。たしかに神器無しはキツイかもしれないわね~

ミキナは不気味に笑う

釣鐘セイカ

何だ?何か取り出した…矢?

シズク

…ミキナ!?あなた、それ………まさか

シカナ

流石ですね。姉様、気づかれましたか

釣鐘セイカ

ルナ様?あれは一体?

シズク

…あれは、この星の…月の力の源…核に等しい物です

釣鐘セイカ

え?という事は…そんな…では、あれはまさか…

シズク

そう。アマテラスと対をなす、もう一つの神器『ハバキリノヤ』アマテラスを除く、この星の全ての力の源となる神器です

シズク

女神の間に祭られていた筈なのに…抜き取ったのですか?

シカナ

御先祖様がかけられた封印と解くのは、少々骨が折れましたけどね

シズク

使う気…ですね?

シカナ

勿論。それに神器でも使わないと発現した姉様は殺せないでしょう?

シズク

ミキナ…あなた、そうまでして私を…

シカナ

当然じゃない。だって許せないもの。姉様は全てを捨てて逃げ出したのよ?その理由が地球をもっと近くで見たい、行ってみたいって…何よそれ?笑わせないでよ?そんな事で私がずっと憧れていた女神の座を捨てるなんて信じられないわ

シズク

ミキナそれは…

シカナ

言い訳なんて聞きたくない!どんな理由であれ、姉様は私達を見捨てたの!私達を…星を導く筈の女神が!その責任を放棄して逃げ出した!!!その事実は決して変わらない!!!

釣鐘セイカ

…ミキナ様

シカナ

何度生まれ変わったって私は姉様を絶対に許さない!許せる筈がないのよ!!!

シカナ

カンナ。貴方も同罪よ?当然よね?侍女の分際で姉様を唆して…

シズク

ミキナ。それは違うわ、カンナはただ…

シカナ

違わないわ。カンナがいなければ、こんな事にならなかった。この娘も同罪よ

釣鐘セイカ

そうです、罪があるというなら私も…

シズク

それでは、あの時と同じじゃない…

釣鐘セイカ

同じではありません。ルナ様

シズク

…え?

シカナ

はぁーーーーーー???あんた何言って…

釣鐘セイカ

ミキナ様!確かに私はあの時、ルナ様と共に城を抜け出しました。ですが…それはルナ様の命が既に尽き掛けていたからです…ならせめて最後に…と思い私はルナ様と共に城を脱出しました。ルナ様の御身体の事はミキナ様も分っていた筈です

シカナ

当然じゃない。けどそれが何?

釣鐘セイカ

え?

シカナ

だから、命が尽きかけてたから何よ?最後は布団の上で死ぬだけじゃない。それで良かったのよ…何度も言ってるでしょ?私はね、カンナ?姉様があの時、責任から逃げ出したのが許せないの

釣鐘セイカ

…正気ですか?ミキナ様…ルナ様は…貴方の……家族ですよ?

シカナ

そうね。確かに父も母も戦でみんな亡くなって今となっては、姉様はたった一人の私の家族…でもね?血より何より優先すべきはこの星の事。女神とはその責任を果たす為に存在するの。カンナ?貴方は…最も近くにいてそんな事も気づかなかったのね?

釣鐘セイカ

分りません……分りたくもありません

シカナ

カンナ…貴方、今何て…

釣鐘セイカ

私には…分りません。ルナ様は私を本当の家族…妹のように接してくれた…家族とは…人と繋がりを持つ事は素晴らしいと教えてくれたんです。ですから…それより優先するものがあるなんて言葉…私には分りません

シズク

カンナ…

シカナ

……はぁぁぁぁぁぁっぁあああぁあぁぁぁああぁぁ!!!!!!!!!!!

釣鐘セイカ

!?

シズク

ミキナ!

シカナ

…そうよね?話すだけ無駄だったわ。私ったらどうかしてたみたい……話は終わりよ。今度こそ逃がさないわ

手に持っていた神器が光りだす

シカナ

ハバキリノヤ…月の源といってもいいこの力…人を対象に使用したら一体どうなっちゃうんでしょうね?

シズク

…ハバキリが起動している……ミキナ?貴方まさか!?

シカナ

流石は姉様、察しがいいわね。そうよ…

シズク

やはり、貴方…自分の部下を…兵を……

釣鐘セイカ

どういう事ですか?ルナ様?

シズク

ハバキリで何かを攻撃する為には膨大な力が必要な筈なの、それをミキナは瞬時に行った…という事は

シカナ

そうよ。ここに来る前に巫女や兵を何人かぶっ殺して力を吸収しておいたの…時間が無かったからね。効率的な使い方でしょ?

シズク

信じられない…

シカナ

何言ってるの?この星の源となる力として永遠に生き続けられるのよ?こんな素晴らしい事ってあるかしら?

釣鐘セイカ

ミキナ…様……貴方は………

シズク

…下がりなさい。カンナ

釣鐘セイカ

え?

シズク

ミキナ…貴方を……この星を…こんな事態にしてしまったのは全て私の責任です

シカナ

………?

シズク

だから私は…責任を果たす為にも…貴方を…倒します

シカナ

…あはっ、いいわね?姉様。そうよ。キテ?キテ?頂戴?早くココに?キテよ?

釣鐘セイカ

い、いけません!ルナ様…

シズク

カンナ、ごめんね。やっぱり私は貴方と…一緒に帰れない、や

釣鐘セイカ

そんな…どうして……どうしてですか?ルナ様が女神だったのはもう昔の話。そこまでする必要なんて…

シズク

カンナ…貴方と会うまでの間、記憶を取り戻すまで考えていました…この星がこうなってしまったのは…元を辿れば全て私のせいなんです、ミキナの言う通り、です

シカナ

…………

釣鐘セイカ

それなら…私も…

シズク

いえ、貴方の行動は私の事を純粋に思ってしてくれた事…それに貴方の優しさで私は救われました

釣鐘セイカ

ルナ様…

シカナ

は~い。逢引はそこまでで~す。さよなら

第十四章 ハバキリノヤ

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