クリスくんを加え、
僕たちは最後の試練の洞窟に挑んでいた。
――でも、どんなダンジョンでも
僕が最初にやることはいつも同じ。
懐から紙とペンを取り出して、
記録を付けていく。
クリスくんを加え、
僕たちは最後の試練の洞窟に挑んでいた。
――でも、どんなダンジョンでも
僕が最初にやることはいつも同じ。
懐から紙とペンを取り出して、
記録を付けていく。
アレス様、何をしていらっしゃる?
マッピングです。
ダンジョンでは
これが欠かせないんですよ。
アレス様が自ら?
シーラ殿かデリンに
任せればよいのに。
俺は勇者の召使いではない。
勘違いするな、クソガキが。
三下魔族に言われたくはないっ!
クリスとデリンは顔を近付け睨み合っていた。
目と目の間には激しく火花が散っている。
やれやれ……。
でもこうして見ていると、
昔のミューリエとタックを思い出す。
失礼なっ!
貴様、殺されたいか?
いいのか?
オイラを殺したら、
勇者の証が
なくなっちゃうんだぜ?
アレスを困らせたいわけぇ~?
うぬぬぬぬっ!
っ……。
なんか懐かくて、
思わず頬が緩んでしまうなぁ。
それと同時に瞳もちょっと潤んじゃうけど。
あの日々はもうすごく遠くて、
届かないものになってしまったんだね……。
アレス様、
どうかなさったのですか?
心ここに在らずって感じでしたよ?
っ!?
い、いや、なんでもないよ。
いけない、また弱気になってしまっていた。
――懐かしむことはいつでもできる。
だからこそ今は
勇者の試練を乗り越えるために、
前を向いて進まなきゃ。
クリスくん。
ん?
マッピングは僕の仕事なんです。
旅を始めた頃は
戦いができなかったから、
少しでも冒険の役に
立ちたいなぁって。
その流れがあって、
今でも僕がやっているんですよ。
ほほぉ、そんなことが。
だから僕がパーティにいる限り、
この役目を続けるつもりです。
……おい、
駄弁っている場合ではないぞ。
厄介なお客さんのお出ましだ。
えぇっ!?
…………。
僕らの前になんとドラゴンが現れた。
まさかこの洞窟には彼らがいるなんて!
さすが最後の試練という感じだ。
旅に出てすぐの頃に一度出会っているけど、
目の当たりにすると
やはり自然と身震いしてしまう。
迫力も威圧感も半端ない。
マジックドラゴンか……。
ククク、葬ってやる。
待って! ここは僕に任せて。
僕はデリンを制止させ、前へ出た。
そしてドラコンと対峙して念じ始める。
こんにちは。
僕はアレスと申します。
ほぅ?
我と意思疎通ができるとは。
人間にしては心に淀みがないと
驚いていたところだが、
さらに驚かされたぞ。
僕たちはあなたと戦うつもりは
ありません。
ここを通していただけませんか?
――わずかな沈黙。
目を瞑り何か考え込んでいる感じだ。
そのあと、ドラゴンはゆっくり目を開いて
僕を見つめてくる。
……条件がある。
我は空腹だ。
何か食べさせてもらおう。
食事……ですか……?
まさか僕たちの誰かを
食べようというわけでは……。
そうではない。
我が食するのは魔法力。
つまりお前たち全員の
魔法力を食わせてもらおう。
えぇっ?
どうしよう?
僕だけの魔法力なら構わないけど、
みんなまでとなると
勝手に決めるわけにはいかない。
仲間たちと相談しても
いいですか?
もちろんだ。
よく考えて決めるがよい。
僕はみんなの方へ振り向いた。
全員が固唾を呑んで
僕に意識を集中させている。
あのね、ドラゴンは条件次第で
ここを通してくれるらしい。
本当ですか?
それは戦わずに済むという
ことなのですね?
うん。
条件とはなんだ?
僕たち全員の魔法力を
食べさせろって。
このドラゴンは
食料が魔法力なんだってさ。
魔法力ですか……。
どうかな?
私は構いません。
それで戦いが避けられるのなら。
バカな。まだ洞窟に入って
間もないのだぞ?
今後、どんな敵と
遭遇するか分からん。
リスクが高すぎる。
そうだね……。
こいつ程度、
全魔法力を使わずとも
倒せると思うぞ?
確かにデリンの言うことには一理ある。
ただ、必ず倒せるという確証はない。
だって相手の実力が分からないんだから。
一方、魔法力さえ差し出せばこの場は確実に
戦わずに済む。
うん、やっぱり避けられる戦いは
避けるべきだ。
でもデリンがそれを素直に
受け入れてくれるだろうか?
うーん、難しいだろうなぁ……。
こんな時、タックならどうするかなぁ?
次回へ続く!