【第十六話】
『許せるかぁぁぁ』


薄暗い廊下をトキオと鳴海は走っていた。

ちょっと、こっちでいいの?

たぶん

『たぶん』で自信ありそうに先頭走ってる神経がわからない!

任せろって、違ったら戻る方向で考えれば―――

あたりまえでしょ



だがトキオはこの時、多少なりとも自信があって進んでいた。この通路の構造が、余りにも父親の研究施設と似ていた。初めて来たはずなのに何年も通っていたような感覚。そんな思いがトキオに奇妙な自信を与えていたのだ。
やがて大きな扉が二人の前に姿を現した。扉の前には一人の男の姿もあった。

随分と早かったねぇ



男は身長165センチ程度で、サラリーマンの様なスーツ姿。それはどこにでもいそうな風貌であったが振り向かずに言った言葉に妙な緊張感があった。

オイ!オッサン!どいてくれよ―――じゃないと怪我させんぞ

それはそれは、随分と乱暴な事を言いますね。お父さんの教育がイマイチだったんですかね?―――七星時生クン



言葉と同時に男が振り返ると、鳴海が叫んだ。

大ぉぉ宮ぁぁぁぁ



その包み隠さない怒声に男・・・いや、大宮コンツェルン社長の大宮清太郎は目を大きく開いて驚いた素振りを見せる。

足音が2つ響いてるのは分かっていましたが、もう1つはあのペテン師ではなく、オメガとして選ばれたお嬢さんでしたか―――



大宮はそう言うと見るからにいやらしい笑みを浮かべ、鳴海はさらに激昂した。だがそんな鳴海の意志を無視して大宮は深く頭を下げた。

あの時は大変失礼な事をしてしまったね。申し訳ない。・・・いや、頭を下げて許されるとも思っていないよ。ただ、私は長年捜し続けた正統なオメガを発見して些か興奮していたみたいなんだ・・・興奮するとどうも歯止めがきかなくなる、歳をとってもコレだけは治らなくてね―――本当に申し訳ない・・・許して―――

許せるかぁぁぁ



鳴海の更なる怒声に大宮は勢いよく顔を上げた。その表情は謝罪した人間のモノとは思えない吐き気がするほどの笑みだった。

だよね。だからコレをプレゼントするよ―――私の最高傑作!オメガとコンバイドの融合体!



言葉と同時に横の壁が崩れると、一人の男が姿を現した。その姿は一見人間であるが到底人の物とは思えない程、異様に大きな右腕。
しかしその腕にトキオは見覚えがあった。

お茶の水に出た獣か・・・



その言葉に反応してか、それとも一瞬の動揺を察してか大宮は笑みを浮かべる。

そうかそうか。時生クン。キミは一度、彼の食事に立ち会ったんだったねぇ。彼は食欲旺盛でね。空腹になると人の殻を破って飛び出して行ってしまうのさ。今も一暴れしたせいかな?ちょっと中身が見えちゃってるね



完全に自分の世界に入り込んで喋る大宮は四方八方に視線を泳がせている。

・・・下種だわ

同感



二人の会話は大宮には当然届かない。

時生クン―――あの時に食されてれば良かったと後悔して果てると良いよ。でもね。アッチでは、きっと家族も待ってるだろうし楽しく暮らせるはずさ。そう―――お嬢さんのご家族もね



その台詞に鳴海がトキオよりも早く反応し歩を進めた。

お前はやっぱり腐ってるっ!



進む鳴海の腕をトキオが握り制止させる。

鳴海ッッ!下がってろ



しかし、鳴海は腕を払いのけ言葉を続けた。

勘違いしないで

え?

私は一緒に戦うと言った。『守って欲しい』なんて頼んだ覚えはない



拳を強く握り怒りに奮える鳴海だったが、その表情と声は冷静だった。
素早く両手を前に突き出し、胸の辺りへ両手を素早く戻す。
その行動が合図なのか、鳴海の胸元に大きな宝石が現れた。

人にはそれぞれ役割があるんだと思う。力がある私には私なりの―――そしてアンタ・・・トキオにはトキオの役割がある



言葉を続けながら鳴海は右手をゆっくりと前に突き出し、大宮と獣を捉えると叫んだ。

変身!



言葉と同時に胸元の宝石が輝くと、一瞬の光と共に鳴海の姿はオメガへと変身を遂げた。

【第十六話】 『許せるかぁぁぁ』

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