【第十五話 】
『目指すは地下!』


左右田がトレーラにたどり着いた頃、トキオと鳴海はランドマークタワーの中にいた。

ここは駅周辺とは違い、人々に焦りの色は無かった。距離にしてさほど離れているわけではないのに、何事もない様なこの状況がトキオと鳴海には不思議に見えていた。しかし、この現実がコンバイドの出現が駅周辺のみと言う事を物語ってもいた。
二人は展望台へと向かうエレベーターではなく、社員用エレベーターの前で会話をしている。

これから目指すは地下!

コレで行けるの?

いいや。見てみろ



トキオが指さす壁には案内表があり、そこには地下の標記はなかった。

うん。当然無いでしょ

でも目指すは地下!俺に考えがあるから、任せとけって



ちょうど、誰も乗っていないエレベーターが降りて来た。二人はそのままエレベーターに乗り込む。

―――『俺に考えがある』って、表情から既にロクな事じゃないって想像できるんだけど

そうか?目指すは地下!だぜ

―――その『目指すは~』ってフレーズ気に入ったの?語呂悪くて気持ち悪いから、もう言うの止めてよ

・・・下へ参りま~す



トキオは少々ふて腐れながらも、7ARMを起動させて腕を針の形のスティングアームへと変化させるとエレベーターの床に一撃を放ち、穴を開けた。

やっぱり最低な考えね



自ら開けた穴を覗き込んでたトキオは少し笑みを浮かべると小さく言った。

案外そーでもないみたいよ。言うなら―――ドンピシャってヤツだな



その視線の先には本来広がっているはずの闇はなく、人工的に作られてはいるが観光スポットとしては程遠い薄暗さの明かりが見えていた。

ラストステージに2名様ご案内ってね


 一方、左右田がトレーラーの中で船橋と出会っている頃、変身して戦いを繰り広げていた坂本は殆どのコンバイドを掃討していた。

さて、いよいよ終わりが見え―――



坂本の瞳が遠くからゆっくりと、こちらへ歩く男を捉えると言葉を止めて叫んでいた。

―――UC-SFのみなさん!自分の身の事だけを考え退避してください!!!



歩みを進める男は黒のタンクトップにジーンズという完全に夏を意識したモノで、一見普通の人間と変わらない・・・しかし坂本が見たのは男の外見ではなく内面だった。男が一歩踏み出す毎に感じる独特の空気。

人の皮を被っても獣は獣・・・と、言ったとこですかね



先制攻撃!
坂本は敵を待たずに攻めた。


握っていたレイピアを男に向けて一直線に投げると同時に一気に男との距離を縮める。
男は回避行動をしようとするが、坂本が一枚上手だった。既に坂本の踵から伸びる二本の触手が地面を掘り進み、男の足を絡め捕っていた。突然の出来事に男の動きが一瞬停止した時―――投げたレイピアが男の胸へと突き立てられた。

―――だが浅い。

それを予め予測してか、坂本は相手の攻撃の間合いに入る前に跳躍し、絡め捕っていた触手の一本を外しレイピアの柄へと絡める。触手の長さを調節し自分とレイピアを一直線で繋ぐホットラインを確保した後、体重と重力を活かし蹴りをレイピア目がけて放ち、男の身体へと押し込みレイピアは貫通した。


しかし体を貫かれた男は怯む事なく、目の前に着地した坂本を直ぐさま殴りつけ、坂本は大きく吹き飛ばされた。

―――まったく相変わらず厭味なパワーですね



坂本が体勢を立て直し視線を向けると、男の胸元にはポッカリと穴が空いていた。

―――ラァァァァァァァァァァァァァァァ―――


響く慟哭。

男は軽く重心を落すと、一気に跳躍し坂本の方ではなく近くにいたコンバイドの元へ着地し、目の前のコンバイドをその場で喰らった。



食事が終わると胸の穴は塞がり、男は余裕の笑みを浮かべていた。

その行動・・・できれば貴方オリジナルの行動であって欲しいですね。だって…私はそんな下品な事は絶対しませんし、したくもありませんからっ!



坂本の言葉と同時に男の足元の地面から触手が飛び出した―――が、今度は足を絡ませる事は出来ず、触手はそのまま空へと伸びた。その触手を男が掴み坂本を強引に引き寄せ、そのまま拳を腹へと突き立てる。

背中から拳が飛び出そうな程の衝撃が身体を貫き、意識を失いかけるがそれでは終わらなかった―――二撃。三撃。繰り返し拳が坂本をを捉えた。
連続で拳を浴びた後、男は両手で坂本を掴み直すと口を大きく開けた。

噛み付く―――その時だった。男の背中に無数の煙が立ち上る。
それはUC-SFの銃弾だった。坂本に言われるがまま彼らは一時退避したが、坂本の身を案じ自らの意志で戻って来ていた。

俺らだってやれんぞ

今までだって戦ってきたんだ!

休むな!撃て撃てぇぇぇ!!



その銃撃は的確に男を捕らえていた。しかし実質のダメージが無い事も彼らは実感していた。

圧倒的な力の差。

身体を包み込む恐怖。

逃げて当然な状況。

それでも彼らは逃げなかった。この攻撃が何かを変えるかもしれないと信じて銃を撃ち続けた。

やがて男は掴んでいた坂本を放り投げ、UC-SF達へと向きを変えた。正面から直接銃弾を受るが一向に怯む気配は無い。何事も無いのと同じ様に平然と歩く。

UC-SFの一人が叫んだ。

網を放て!



対グリム用の動きを封じる網が一斉に放たれ幾重にも重なり男を捕らえる。網には予め杭があり被弾と同時に壁や地面に固定されるが、足りない箇所は各自が専用の杭で固定する必要がある。各自が的確に動き杭を放つと、杭から一斉に放電を開始した。

―――ラァァァァァアアアアァガァァァァァァァァ―――


男は吼えた。

更にUC-SFは続けて銃を撃つ―――撃ち続ける。
だが・・・網から一本の大きな腕が現れ、数本の杭が飛んだ。

それは人の腕にしては太く異様に大きかった。腕は網を引きちぎり男は姿を表した。

身体の内側から飛び出した様に現れた片腕は地面に付くほど異様さで獣の様で、男の顔の一部や身体の傷口からも何か黒いモノが見えていた。


この瞬間、UC-SFのメンバー全員は死を確信した。最初から敵わないと分かっていたが1パーセント以下の希望が彼らを動かしていた。それが今・・・無残にも強制的に0パーセント。いや、それ以下の既に死んでいる状態にも等しかった。

諦めるな!



後方から力強い声が響き、同時に複数のミサイルが飛んだ。ミサイルは全て男を捉え着弾し、大きな爆発を引き起こす。
ミサイルを撃ったのは戦闘スーツを着た左右田だった。間髪入れずにミサイル兵器を捨て、マシンガンを手に取り撃ちながら前進する―――が、男は驚異的なスピードで跳躍し近くのビルに張り付いた。
巨大な腕をビルにめり込ませ、見下ろす姿はバケモノ以外の何者でもなかった。

あいつ・・・不死身なのか



一人が呟くと直ぐに左右田が言葉を遮った。

違う!見ろあの腕にはダメージが確実にある!



左右田はマシンガンを撃ったが被弾するより先に、男は更に跳躍しビルの上へと姿を消した。

左右田は周囲を見回し坂本を探すが、どこにもいない。

クソ―――!坂本さんまで・・・やられたのか…!?俺は『お前だけは』なんて、温い事言わない!お前ら全員俺は許さない!許さないぞ―――!



左右田の覚悟の声はランドマークタワーへと響きかき消えた。

何か私が死んでしまったみたいな言い方ですね

へ?



素っ頓狂な声を左右田が出し振り返ると坂本がいた。しかし、その姿はボロボロで傷口からは小さな無数の触手が顔を覗かせ、大きく開いた傷口を修復していた。

【第十五話 】 『目指すは地下!』

facebook twitter
pagetop