不知火みちる

パパラッチさんは、不良さんでもあったのね。
写真にかまけて、授業をおさぼりになったのかしら?

3.運命的な火曜日 - 昼

三崎竜太

まあ、そんなところですよ。

三崎竜太

うっわ、ばれてーら……

昨晩のこと。

赤城先輩の指令にあった『噂の真相』を調べるために、
僕は、学園の近くの公園を張り込んだ。

三崎竜太

……

三崎竜太

不知火みちる

……

不知火みちるが公園に現れた。

学園の近くに、学生専門の寮があるのだが、
男子寮と女子寮の中間に公園がある。

名前を『ナニワ公園』と言う。

不知火はすたすたとベンチに座ると、ぼうっと空を眺め始めた。

不知火みちる

……

三崎竜太

噂はたくさん聞いているけど、こんなに近くでみるのは初めてかもしれない。

三崎竜太

……うむ、やっぱり可愛いな。
フツーに可愛い。

不知火みちる

あ……

三崎竜太

清水有楽

みちる!

不知火みちる

清水君

三崎竜太

きた……!

清水有楽。
身長179cm。17歳。血液型A型。
現在、人気売出し中のモデル出身俳優。

12歳からティーン向けの雑誌で、読者モデルとして活躍。
その後、モデルから俳優に転向し、デビュー作『風邪と共にサリー』で並外れた演技を披露。時の人となる。

普段は軽薄なイメージだが、時折見せる知性ある言動が人気の秘訣らしい。

昔は女遊びが酷かったらしいが、最近は不知火一筋だという。

赤城煎

多分、ナニワ公園で逢引しているだろうから

三崎竜太

それ、知ってるなら自分で張り込んでくださいよ……

という感じで、愛すべき部長はひとまずのヒントをくれたのだが……

三崎竜太

あの人、本当に何者だよ……

清水有楽

ごめん、待たせたかな?

不知火みちる

ううん、大丈夫

清水有楽

そっか、ありがとう

そして、不知火の手をとる清水。

三崎竜太

さすがイケメン俳優。
手の取り方がプロだ。

三崎竜太

一応、写真写真っと

三崎竜太

……?

ぞわり、と寒気。


首筋、背筋、腕、脚、全てに鳥肌がさーっと立っていく。
誰かに、睨まれているような感覚だ。

睨まれて、どす黒い、感情をぶつけられている。

そう、それは、悪意のような。

三崎竜太

え……

不知火みちる

……

不知火みちると、目があった。

三崎竜太

やばい

今日は様子見だ。

見つかって顔を覚えられる前に、僕は公園を後にした。

三崎竜太

後に……したんだよなあ……

不知火みちる

まあいいわ。
写真、さっさと撮って。

不知火は、まるで今まで僕のことを睨んだことがないような、普通の顔で机に座った。

三崎竜太

さすが、プロは違う。

不知火みちる

どう?

三崎竜太

え?

不知火みちる

『え?』
じゃなくて、なんかコメントないの?

三崎竜太

コメント……
考えたこともなかった。

不知火みちる

はあ?
カメラマンって、被写体をその気にさせたり、ポーズ請求したりするじゃん。

三崎竜太

あー、だから皆、やりにくそうだったのか。

不知火みちる

ぷ。
なにそれ。変なの。

三崎竜太

コメント……なんか、うん、変な感じ。

確かに変な感触がしていた。

いつも写真を撮るときは、被写体が文句を言う。それは変わらないし、今、その原因が分かったところだ。


それじゃない。なんだろう?

コンテスト写真とか、不知火当たったやつ絶対有利だよなー。
ふつーの写真撮れば優勝できんじゃん。

そのとき、ぼそりと他の生徒の声が聞こえた。

芸能科の学生の姿は見えない。
おそらく、仕事でさっさと帰られたのだろう。
数名の写真科の学生が、こちらを見ながらコソコソと話をしていた。

でもさー、不知火当たったのってピュータじゃん。どんな写真撮れるんだろ?超気になるんだけど。

コンピューターが片思いを理解できるかって話?

それもそうだし……最期のショゥジョ(笑)だし?

不知火みちる

あのさ、影口なら影で叩いていただける?

あ……その、えっと

不知火は、いつのまにかハサミを投げたようだ。

彼女の制服の袖が切り裂かれ、床に縫い付けられている。

写真科の彼らがまるでいなかったのように、不知火は机に戻った。

それから、ふっと机に頬杖をつく。

不知火みちる

……

三崎竜太

雰囲気、変わった……?

それから、再び写真を撮り始めた。

最初は、可愛らしい姿だったのに、今はどこか泣きそうな顔でカメラを見つめる。

不知火みちる

『カルメン』のような、燃え上がる炎のような女性でも、きっとこんな気持ちだったんだと思うの。

三崎竜太

カルメ……?

不知火みちる

でも、私が恋すると世界が滅びちゃうんだ。

三崎竜太

世界?

不知火みちる

……バカだな、私。

不知火みちる

帰る。

三崎竜太

へ?

スタッと立ち上がると、不知火はさっさと教室から出ようとする。

三崎竜太

ちょ、ちょっと待った!

三崎竜太

明日も撮るから!

不知火みちる

……

不知火みちる

夜は、撮りに来てくれないの?

三崎竜太

それは……

僕の答えを待たず、不知火は立ち去った。

三崎竜太

なんだっていうんだよ……。

何を考えているのか、全く読めない。


だからこそ、僕にとっては初めての、『真実が分からない』被写体だった。

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