”最期の少女”の話をしよう。
不知火みちるの話だ。

17歳。高校二年生。血液型AB型。
不知火芸能学園に通う、芸能科の学生だ。
不知火と言うだけあって、理事長の孫娘である。

透き通るような白い肌。
太陽の光にキラリと輝く丸い目。
華奢でいて、触れると柔らかそうな身体。

まるで、絵画の中から出てきたかのような、少女性。

赤ちゃんモデルから始まり、今では映画女優とモデルを兼務している。
いつまでも変わらない可憐な姿から、『最期の少女』というキャッチフレーズがついている。

その人気は全く凄まじいもので、子役時代から熱烈に支持しているコアファンがいるほどだ。

不知火学園でも主席卒業必至の実績を誇るのだが……

一方で、男遊びが酷いとか、枕営業をしているだとか、暗い噂が絶えない。

実際、学園の内外で、男性と二人で歩いているのを目撃されている。

『フライデーされないのは、そのたびに学園がもみ消しているのではないか？』

と、校内では専らの噂だ。

赤城先輩が勝手に作り、勝手に学校の一部を選挙し、勝手に活動をしている部活――『パパラッチ部』

セレブリティをつけまわし、プライベートな写真を撮っては雑誌社や新聞社に写真を売りつけ、生計を立てるカメラマンのことを『パパラッチ』と呼ぶ。

不知火学園にはセレブリティも一応いるが、芸能人が圧倒的に多い。

……などという横暴な論説をまきちらし、かくしてパパラッチ部は設立したのである。

とはいえ、学園内の活動である以上、あくまで『部活』。
学校の外に写真を売りつけることはない。


そもそも学園には、新聞記者コースの学生が立ち上げた『学生新聞部』や、雑誌編集者コースの学生の『雑誌部』など、売りつけ先には困らない。

ちなみに、学園には学校新聞や雑誌についても、『なんとなく外に持ち出したらいけない』という不文律がある。

修学旅行の写真は、学園の中ではただの写真だ。
だが、学園から一歩出れば、ファンが喉から手が出るほど欲しがる宝に変化する。


だから、新聞はもちろん、科目の課題も金庫に保管されている。
先生達も気苦労が耐えない。

課題として残るものを少しでも減らしたいのかどうなのか、学園の授業は合同授業になることが多い。

今回の補習も、どうやらそういうことらしい。

写真科の生徒は10人。
ユリ先生の授業としては、少ないほうだと思う。

僕がくじを引くと、ユリ先生がにやりと笑った。

どうやら、僕が最後だったらしく、クジは1枚しかなかった。

開いてみると、まるっこい『9番』の文字。
周囲を見渡す。
芸能科の生徒で、僕のように周囲を見回している人がいない。

数えると、そもそも9人しかいない。

突然開いた扉。

シンとする室内。

ドアの向こうに、凛とした少女。

そこに、不知火みちるが立っている。

不知火は、僕をきょとんと見つめた後、

睨まれた。

睨まれている。

2.運命的な火曜日