マサヨシに睨み付けられ、セイさんはしりごみしたようだった。
しかし、栄誉? なんのことだろう。
……まあ、なんであれ手がかりがあるのならすがりますけど。栄誉のためにしているんじゃないんですよ
おっと失礼
マサヨシに睨み付けられ、セイさんはしりごみしたようだった。
しかし、栄誉? なんのことだろう。
そして、ここにいるタカシ君は、君の生活の助けになること請け合いだ
セイさんに肩を組まれ、俺は硬直する。
こきつかっていいよ
おいこらこの銀髪、勝手言いやがって!! と思ったらサンザシさんがセイさんを射ぬきそうな勢いで睨み付けているから、目配せでそっとなだめる。
だからしばらくの間、彼をここに泊めてあげてほしい。
でも、いきなりそんなことを頼んだって、信じてくれないだろ?
だから、魔王の物語を、なんというか、悪いけれど餌にして、君の了承を得たのさ。
多少、脚色してね
多少の脚色って、彼は魔王の物語についてなんでも知っているからって、どこが多少――
マサヨシの言葉をすべて聞き終わる前に、セイさんは
じゃあね、そゆことで!
と消えてしまった。
なんだあの人!
俺は発狂する。隣のサンザシも、虚空を睨み付けたまま動かない。怖!
……騙された俺が悪いな
マサヨシは、はは、と爽やかに笑った。うーん、大人だ。
まあいいさ。今までなんの手がかりもない魔王の物語だったんだ。
少しでも可能性があるのなら、すがるよ。
っていうか、タカシ、だっけ。
君も大変なんだな。彼、上司かなにか?
まあ、そんなところ……というか、今さらだけど、驚かないの?
何に? 空を飛ぶ学生服の人とか、角のはえたお嬢さんとか?
俺が頷くと、はは、とマサヨシは白い歯を見せる。
むしろ、あればいいなって思うたちだったからな。
驚きはしたけど、受け入れもするさ。
君らに命を狙われているわけでもないし、むしろラッキーだなって思ってる
凄いな
身近にそういうのが好きなやつもいてね。
君ら、いくあてもなさそうだし、しばらくはここにいて構わないよ。
なんもねえし、家事も手伝ってもらうことになるけど
ああ、それはもちろん
こきなんて使わないからな。
ヨシキと遊んでやってくれ。
俺はいろいろしなきゃなんねえことがあるから、あんまり構えないけど
魔王の物語の研究?
いや、とマサヨシは首を横に降る。
それは、まだまだ研究って呼べるほどの域に達してねえよ。
そこらへんの本、適当に取ってみな
マサヨシがにりと笑って、俺を促す。俺は真横にある本を取った。
……アンデルセン!
サンザシも、自分の横にあった本に目をやっていた。
こちらは、関東地方の昔話です……!
そう、とマサヨシが微笑む。
俺は童話の研究者。
魔王の物語は、どこにも載っていない、俺にとって幻の物語なんだ。
つい最近知ってね、探し始めたところにセイさんの話がきたから、思わず乗っちまった。
だから、騙された俺が――
悪いんだ、とマサヨシが言うのと同じタイミングで、どたばたと階段をのぼる音がした。
マサヨシの声はしりすぼみになり、代わりにヨシキの叫び声が聞こえてきた。
お兄ちゃん、また来たあ!