望月は頭に手を当てた。
涙が溢れてくる。
目の前の少女は今まで、こんな思いで居たのか。
今の……は……?
おい! 大丈夫か!?
望月は頭に手を当てた。
涙が溢れてくる。
目の前の少女は今まで、こんな思いで居たのか。
……全部、伝わっちゃったんだね。
あなたを憎んだこと、あなたには、知られたくなかったのに……。
あなたが、あの毛玉?
あの毛玉……私、見覚えがある……。
遠い、昔……。
え?
そうだ……、包丁を渡されたとき、変に懐かしかったのはそういうことだったのね。
覚え……てるの?
……ごめんなさい。
ほとんど忘れちゃってる。
けど、時々、あの毛玉を思い出すことがあったの。
……もしかしてその毛玉って、白いか?
そうだけど、なんで知ってるの?
今日、中学校でお前の絵を見せてもらったとき、1枚、それらしい絵を見たよ。
そう……なんだ。
覚えてて……くれたんだね。
少女の記憶を見た影響か、望月の記憶が蘇る。
どれも、大切な記憶だ。
どうして……今まで忘れてたんだろう。
ここは、夢みたいなものだから。
夢のことなんて、起きたら忘れちゃう。
それと同じ。
でも、最後に思い出してくれて良かった。
え?
私のことがあなたの心に残っているのなら。
私には意味があったんだってあなたが覚えててくれるなら……。
私はそれでいいの。
外に帰ったらまた忘れちゃうかもしれないけど、時々でもいいから思い出してくれたら……嬉しいな。
望月と笠原の体が、うっすらと消えていく。
おい、これ……。
夢から覚めるのか?
ちょ、ちょっと待ってよ!
あなたはこれからどうするの?
また1人で生きていくつもり?
まさか、死ぬ気じゃないでしょうね!?
少女はその質問に答えず、ただ微笑んだ。
今更こんな事言うのもあれだけど……。
元気でね。
待ちなさい!
話はまだ……
終わって……
2人の体は、完全に見えなくなった。
支えを失った女の子が、下に落ちる。
さようなら。
私の、友達……。
少女は自分の胸にナイフを当てた。
さようなら。
私たちのセカイ。
あの子と、のんちゃんと引き合わせてくれて……ありがとう。
少女はナイフを持つ手に、力を込めた。
……?
あ、あれ?
ナイフを、体に刺すことが出来ない。
心情的な理由だろうか? それもあるかもしれない。しかし、そうではない。
いくら少女が力を込めてもナイフが、いや、ナイフを持つ手が微動だにしなかった。
なんで?
話は……まだ……。
!?
話はまだ、終わってないわよ!
消えたはずの望月が、色を取り戻していく。
その両手は、少女の腕をがっしりと掴んでいた。
……お前が戻したのか?
お前、出たいのか出たくないのかどっちなんだよ。
ごめんね裕樹。
もうちょっとだけ付き合ってね。
まぁ、ここまで来れば、そりゃ最後まで付き合うけどな。
……その子も置いていけないしな。
笠原は、地面に居た女の子を抱え直した。
……。
あと少しだけ、おとなしくしててくれよ。
ど、どうやって戻ってきたの?
このセカイの記憶が戻ったのよ?
私だって、このセカイの使い方を少しは知ってるわ。
そもそも、私の夢だしね。
……あなた、1人だけ残ってどうするの?
死ぬつもりだったんでしょ?
……。
あなたの言う通り、私はもうこのセカイ無しでも生きていける。
だから、このセカイはここで終わりにしましょう。
望月がそう言った途端、空が切り裂かれ、辺りの景色が一変した。
校舎が崩れ、消滅していく。
でも、あなたはここに置いて行かない。
あなたも連れて行くわ。
え? でも……。
私は夢の中だけの存在だから……。
別に、実体が無いなら無いで、他にやりようがあるんじゃない?
私の心の中とかどう?
結構住みやすいわよ。
自分で言うな。
まぁまぁ。
でも、私はあなたを殺そうと……。
でもでも言わない!
私だって同じくらいひどいことしたんだから、お互い様でしょ。
このセカイは私のためのセカイなんでしょ?
だったら最後に、わがまま聞いてもらおうじゃない。
私と一緒に来て。
もう、あなたを1人にはしないから。
あなたのことを思い出した以上、私のセカイにはあなたが居てくれないと困るわ。
ちゃんと思い出させた責任取ってよね。
……うん……。
終わりが、来る。
遠くであなたが悲しんでいるんじゃない。
隣であなたが笑っていること。
それが、私が望むセカイ。
行きましょう。一緒に……。