そう言って望月は包丁を構えた。
そして、そのまま……。
あなたが生きているってことは、
私は失敗したんだね。
せっかく、色々用意したのになぁ。
私を殺すための用意、ね。
とてもやる気が感じられなかったけど。
そうかな?
じゃあ、もっとすごいものを用意しておけばよかったね。
そう。
そんなことより、あなたに聞きたいことが山ほどあるわ。
残念だけど、私から話すことは何もないよ。
……ところで、随分と物騒なものを持っているようだけど。
話すよりも、やることがあるんじゃない?
……そうね。
先に済ませておくわ。
そう言って望月は包丁を構えた。
そして、そのまま……。
お、おい!?
望月は大きく振りかぶると、包丁を柵の向こうへ放り投げた。
な、何をしてるの!?
どうしてあなたが焦るの?
……!
やっぱりあなた、殺されることが目的なんじゃないの?
そ、そんなことは……。
じゃあ、あの毛玉はなに?
どうしてあなたを殺せば出られるなんて私に教えたの?
丁寧に包丁まで渡して。
それは……。
あなたがやらせたって、否定はしないのね。
……。
ねぇ、話してくれない?
どうしてこんなことをするの?
話しても、仕方のないことだから。
また。
別に、知らなくたっていいでしょ?
あなたの言う通り、
私の目的はあなたに殺してもらうこと。
それだけ伝われば十分。
望月の足元で物音がした。
見ると、投げ捨てたはずの包丁が転がっている。
さぁ、やって。
できないのならば、私があなたを殺すわ。
少女の手にも、同じ包丁が握られていた。
ゆっくりと、魔女が望月に近づく。
そう。
それじゃあ、やってみせて。
望月は包丁を拾うと、先ほどと同じように放り捨てた。
……わかった。
少女が、望月の目の前に立ち、包丁を振り上げた。
思わず飛びかかろうとする笠原を、望月が手で制す。
おいおい。
何やってんだよ。
お願い、任せて。
任せろったって……。
少女は、包丁を振り上げたまま動かない。
……。
……。
やがて、少女は諦めたように包丁を降ろした。
……やっぱり、私には無理みたい。
ねぇ、話してよ。
どうしてこんなことをするの?
……私は1人で過ごすうち、あなたを憎むようになってしまった。
それこそ殺意を抱いてしまうほどに。
きっと、私にはあなたを殺せない。
それはわかってた。
でも、あなたが居る限り、私の存在も続く。
これからも、私は1人……。
せめて、あなたに終わらせて欲しかった。
私という存在を。
でも、それが叶わないなら……。
最初からこうできてたら、良かったのにね。
ごめんね。付きあわせちゃって。
……ばいばい。
少女が、包丁を自身に向ける。
!?
咄嗟に、望月が手を伸ばす。
望月の手が、少女の腕を掴んだ。
既の所で包丁が止まる。
あっ……。
ちょっと!
何やって……
望月の手が、少女の手に触れる。
る……の……。
その瞬間、何かが望月の中に流れ込んできた。
ま、待って。
それを、見ないで……。
膨大な映像のようなものが、頭に流れてくる。