???

あなたが生きているってことは、
私は失敗したんだね。

せっかく、色々用意したのになぁ。

望月 希

私を殺すための用意、ね。
とてもやる気が感じられなかったけど。

???

そうかな?
じゃあ、もっとすごいものを用意しておけばよかったね。

望月 希

そう。

望月 希

そんなことより、あなたに聞きたいことが山ほどあるわ。

???

残念だけど、私から話すことは何もないよ。

……ところで、随分と物騒なものを持っているようだけど。
話すよりも、やることがあるんじゃない?

望月 希

……そうね。
先に済ませておくわ。

 そう言って望月は包丁を構えた。

 そして、そのまま……。

笠原 裕樹

お、おい!?

 望月は大きく振りかぶると、包丁を柵の向こうへ放り投げた。

???

な、何をしてるの!?

望月 希

どうしてあなたが焦るの?

???

……!

望月 希

やっぱりあなた、殺されることが目的なんじゃないの?

???

そ、そんなことは……。

望月 希

じゃあ、あの毛玉はなに?
どうしてあなたを殺せば出られるなんて私に教えたの?
丁寧に包丁まで渡して。

???

それは……。

望月 希

あなたがやらせたって、否定はしないのね。

???

……。

望月 希

ねぇ、話してくれない?
どうしてこんなことをするの?

???

話しても、仕方のないことだから。

望月 希

また。

???

別に、知らなくたっていいでしょ?
あなたの言う通り、
私の目的はあなたに殺してもらうこと。

それだけ伝われば十分。

 望月の足元で物音がした。
 見ると、投げ捨てたはずの包丁が転がっている。

???

さぁ、やって。
できないのならば、私があなたを殺すわ。

 少女の手にも、同じ包丁が握られていた。
 ゆっくりと、魔女が望月に近づく。

望月 希

そう。
それじゃあ、やってみせて。

 望月は包丁を拾うと、先ほどと同じように放り捨てた。

???

……わかった。

 少女が、望月の目の前に立ち、包丁を振り上げた。
 思わず飛びかかろうとする笠原を、望月が手で制す。

笠原 裕樹

おいおい。
何やってんだよ。

望月 希

お願い、任せて。

笠原 裕樹

任せろったって……。

 少女は、包丁を振り上げたまま動かない。

望月 希

……。

???

……。

 やがて、少女は諦めたように包丁を降ろした。

???

……やっぱり、私には無理みたい。

望月 希

ねぇ、話してよ。
どうしてこんなことをするの?

???

……私は1人で過ごすうち、あなたを憎むようになってしまった。
それこそ殺意を抱いてしまうほどに。

きっと、私にはあなたを殺せない。
それはわかってた。
でも、あなたが居る限り、私の存在も続く。
これからも、私は1人……。

せめて、あなたに終わらせて欲しかった。
私という存在を。
でも、それが叶わないなら……。

???

最初からこうできてたら、良かったのにね。
ごめんね。付きあわせちゃって。
……ばいばい。

 少女が、包丁を自身に向ける。

望月 希

!?

 咄嗟に、望月が手を伸ばす。
 望月の手が、少女の腕を掴んだ。

 既の所で包丁が止まる。

???

あっ……。

望月 希

ちょっと!
何やって……

 望月の手が、少女の手に触れる。

望月 希

る……の……。

 その瞬間、何かが望月の中に流れ込んできた。

???

ま、待って。
それを、見ないで……。

 膨大な映像のようなものが、頭に流れてくる。

pagetop