望月 希

なんだろ? この音。

 上の階から、何か重いものが床にぶつかるような音が聞こえてくる。

笠原 裕樹

この上は確か、委員会用の会議室や、資料室ぐらいしか無かったはずだが……。

もしかしたら、少女が何かしているのかもしれん。少し様子を見てくる。

望月 希

気をつけてね。

 笠原が、慎重に階段を登っていく。
 踊り場まで登ったとき、上階に居た音の正体が見えた。

 それは消えたはずの、校長の像だった。

 音の正体は、彼の足音のようだ。

笠原 裕樹

消えたと思ったら、
こんなところに居たのか。

 校長の像が、ゆっくりと笠原に向いた。

笠原 裕樹

やっぱり向かってくるか。
恐らくこいつも、七不思議に出てくる方の校長なんだろうな。

……逃げたほうがいいか。

 笠原は踵を返すと、全力で階段を駆け下りた。

笠原 裕樹

逃げるぞ!

望月 希

え、上で何があったの!?

笠原 裕樹

いいから! とにかく降りるぞ!

 そうしているうちにも、足音が近づいてきている。2人は慌てて逃げ出した。

笠原 裕樹

おいおい、どこまでついてくるんだよ。

 校長の像が、真っ直ぐこちらに向かってくる。

 見た目に反して足が速く、どこまでもついてくる。

笠原 裕樹

参ったな。
あいつを先にどうにかしないと、
少女を探すどころじゃないぞ。

望月 希

どうにかって、どうするの?

笠原 裕樹

相手は所詮、ただの銅像だ。
破壊することに躊躇はないが、こっちの武器は包丁一本と、この子から取り上げた斧一本。
……無理そうだな。

笠原 裕樹

破壊することが無理なら、
せめて動きを止められればいいんだが。

望月 希

それなら、プールに沈めちゃうのはどう?

笠原 裕樹

プールか。

笠原 裕樹

いい考えだな。
それでいこう。

 笠原はプールサイドに立って、プールを眺めた。
 プールからは、幾本もの白い手が、空に向かって伸びている。

笠原 裕樹

予想はしていたが……やっぱり居るか。

海ならともかく、学校のプールじゃ不自然だと思うんだがな。まぁ、七不思議なんてそんなものか。

笠原 裕樹

近づきさえしなければ、こいつらは問題ない。むしろ問題なのは……。

 プールの入口から、校長の像が姿を現した。プールサイドを沿いながら、笠原に向かって歩いてくる。

笠原 裕樹

もう少し……。
もう少し近づいてこい。

 校長の像が、プールの中ほどまで来た、その瞬間。

望月 希

それっ!

 隠れていた望月が忍び寄り、校長の像へ体当りする。
 校長の像は呆気無く転倒し、そのままプールへ落下した。
 白い手が、校長の像へ集まっていく。

望月 希

やったわね。
もう上がってこれないでしょ。

笠原 裕樹

ああ。

この白い手、校長の像にも反応してるな。
こいつらが抑えてくれてるみたいだし、絶対に上がって来られないだろう。

 2人は校舎に戻ってくると、先程校長の像が居た階を調べて回った。
 この階は空の部屋が多く、調べるのもあっという間に終わった。

 少女の姿は無い。

笠原 裕樹

何処に居るんだよ、本当に。

望月 希

もしかして、もう学校の中に居ないんじゃ?

笠原 裕樹

それは考えたくないな。

望月 希

ところで、この階は空の部屋ばかりだね。
どうして空になってるんだろう。

笠原 裕樹

それは……多分、
お前が入ったことないからじゃないか?
生徒会室なんかは入ったことないだろ。

図書館なんかも、同じ理屈だと思う。

望月 希

あ、そっか。
私の夢だもんね。
私が見たことのないものは出てこないか。

笠原 裕樹

図書館が出てこないのは問題だと思うけどな。

望月 希

も、もういいじゃないそれは。

望月 希

あれ?
でも、どうして会議室も無いんだろう。

委員会で何度か、
来たことがあるはずなんだけど……。

笠原 裕樹

それはわからないな。
資料室なんて部屋そのものが消えている。

少女が消したのか? 理由はわからんが。

望月 希

資料室は……確かここだよね。
部屋が消えたってことは、
この向こうはどうなってるんだろ?

 望月が壁に手を付いたとき、バリッ という音と共に、望月の手が壁を突き破ってしまった。
 慌てて手を引っ込める。

望月 希

え!? 何!?

笠原 裕樹

なんだ? これは。

……向こうに何かあるな。
もっと広げてみよう。

 壁は、紙のように脆い。

 持っていた斧で、簡単に切り取ることが出来た。

 切り取られた壁の中から、階段が現れる。

望月 希

階段?
ここ、最上階だよね。

笠原 裕樹

隠し階段か……。
恐らく屋上に繋がっているんだろう。
一時期そんな噂話が流行ってたし、
その影響だろうな。

望月 希

そういえば、確かにあったかも。
夢にまで見るって、どれだけ屋上に行きたかったのよ……。

笠原 裕樹

日高が言ってたが、俺達の世代じゃある意味伝説みたいな扱いだったしな、屋上。

笠原 裕樹

折角だし見ていくか。
現実の屋上とはまた違うと思うが。

望月 希

そうね。

 2人は屋上に出た。

 周りの景色が、校舎から見えた景色と変わっている。
 ここだけとってつけたような感じだ。

 やはり、学校以外の屋上のイメージがここにあるのだろう。

 そして……。

???

見つかっちゃったね。

 屋上の隅に、例の少女が居た。

望月 希

見つけたわ。
やっとね。

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