上の階から、何か重いものが床にぶつかるような音が聞こえてくる。
なんだろ? この音。
上の階から、何か重いものが床にぶつかるような音が聞こえてくる。
この上は確か、委員会用の会議室や、資料室ぐらいしか無かったはずだが……。
もしかしたら、少女が何かしているのかもしれん。少し様子を見てくる。
気をつけてね。
笠原が、慎重に階段を登っていく。
踊り場まで登ったとき、上階に居た音の正体が見えた。
それは消えたはずの、校長の像だった。
音の正体は、彼の足音のようだ。
消えたと思ったら、
こんなところに居たのか。
校長の像が、ゆっくりと笠原に向いた。
やっぱり向かってくるか。
恐らくこいつも、七不思議に出てくる方の校長なんだろうな。
……逃げたほうがいいか。
笠原は踵を返すと、全力で階段を駆け下りた。
逃げるぞ!
え、上で何があったの!?
いいから! とにかく降りるぞ!
そうしているうちにも、足音が近づいてきている。2人は慌てて逃げ出した。
おいおい、どこまでついてくるんだよ。
校長の像が、真っ直ぐこちらに向かってくる。
見た目に反して足が速く、どこまでもついてくる。
参ったな。
あいつを先にどうにかしないと、
少女を探すどころじゃないぞ。
どうにかって、どうするの?
相手は所詮、ただの銅像だ。
破壊することに躊躇はないが、こっちの武器は包丁一本と、この子から取り上げた斧一本。
……無理そうだな。
破壊することが無理なら、
せめて動きを止められればいいんだが。
それなら、プールに沈めちゃうのはどう?
プールか。
いい考えだな。
それでいこう。
笠原はプールサイドに立って、プールを眺めた。
プールからは、幾本もの白い手が、空に向かって伸びている。
予想はしていたが……やっぱり居るか。
海ならともかく、学校のプールじゃ不自然だと思うんだがな。まぁ、七不思議なんてそんなものか。
近づきさえしなければ、こいつらは問題ない。むしろ問題なのは……。
プールの入口から、校長の像が姿を現した。プールサイドを沿いながら、笠原に向かって歩いてくる。
もう少し……。
もう少し近づいてこい。
校長の像が、プールの中ほどまで来た、その瞬間。
それっ!
隠れていた望月が忍び寄り、校長の像へ体当りする。
校長の像は呆気無く転倒し、そのままプールへ落下した。
白い手が、校長の像へ集まっていく。
やったわね。
もう上がってこれないでしょ。
ああ。
この白い手、校長の像にも反応してるな。
こいつらが抑えてくれてるみたいだし、絶対に上がって来られないだろう。
2人は校舎に戻ってくると、先程校長の像が居た階を調べて回った。
この階は空の部屋が多く、調べるのもあっという間に終わった。
少女の姿は無い。
何処に居るんだよ、本当に。
もしかして、もう学校の中に居ないんじゃ?
それは考えたくないな。
ところで、この階は空の部屋ばかりだね。
どうして空になってるんだろう。
それは……多分、
お前が入ったことないからじゃないか?
生徒会室なんかは入ったことないだろ。
図書館なんかも、同じ理屈だと思う。
あ、そっか。
私の夢だもんね。
私が見たことのないものは出てこないか。
図書館が出てこないのは問題だと思うけどな。
も、もういいじゃないそれは。
あれ?
でも、どうして会議室も無いんだろう。
委員会で何度か、
来たことがあるはずなんだけど……。
それはわからないな。
資料室なんて部屋そのものが消えている。
少女が消したのか? 理由はわからんが。
資料室は……確かここだよね。
部屋が消えたってことは、
この向こうはどうなってるんだろ?
望月が壁に手を付いたとき、バリッ という音と共に、望月の手が壁を突き破ってしまった。
慌てて手を引っ込める。
え!? 何!?
なんだ? これは。
……向こうに何かあるな。
もっと広げてみよう。
壁は、紙のように脆い。
持っていた斧で、簡単に切り取ることが出来た。
切り取られた壁の中から、階段が現れる。
階段?
ここ、最上階だよね。
隠し階段か……。
恐らく屋上に繋がっているんだろう。
一時期そんな噂話が流行ってたし、
その影響だろうな。
そういえば、確かにあったかも。
夢にまで見るって、どれだけ屋上に行きたかったのよ……。
日高が言ってたが、俺達の世代じゃある意味伝説みたいな扱いだったしな、屋上。
折角だし見ていくか。
現実の屋上とはまた違うと思うが。
そうね。
2人は屋上に出た。
周りの景色が、校舎から見えた景色と変わっている。
ここだけとってつけたような感じだ。
やはり、学校以外の屋上のイメージがここにあるのだろう。
そして……。
見つかっちゃったね。
屋上の隅に、例の少女が居た。
見つけたわ。
やっとね。