望月 希

あれ?
居ない……。

 2人がやってきたのは、望月が毛玉に出会った教室だ。しかし、そこに毛玉の姿は無かった。

笠原 裕樹

本当に、この教室で合ってるのか?

望月 希

うん。
間違いないよ。
移動しちゃったのかな?

笠原 裕樹

参ったな。
色々聞きたいことがあったんだが。

笠原 裕樹

その毛玉に頼れないとなると、やっぱり自分達で探すしかないか。

望月 希

仕方ないね……。

笠原 裕樹

これ以上登ると屋上か。

そういえばな、中学の屋上あるだろ。
あそこの工事もう終わってるらしいぞ。

ここは俺達の通ってた頃のままだろうから、
まだ閉鎖されてると思うけどな。

望月 希

へぇ、本当に?
皆、あの手この手で入ろうとしてたよねぇ。
気になるなぁ。

笠原 裕樹

だろ?

松原先生が、
屋上見せてくれるって言ってたんだ。

帰ったら行こうな。

望月 希

……うん。

 廊下に出たとき、2人の視界の隅に、何かがチラと見えた。

 青い瞳が、2人を見上げている。

笠原 裕樹

危ねえ!

 笠原は、咄嗟に望月の手を掴んで跳んだ。
 女の子の斧が、2人が立っていた場所を切り裂く。

笠原 裕樹

このまま走るぞ!

 女の子は空振りのため一瞬バランスを崩したが、すぐに後を追って来た。

笠原 裕樹

こっちは確か、図書館の方か。
クソッ、この先は行き止まりだ。

笠原 裕樹

この距離じゃ適当な部屋に隠れてやり過ごすこともできねえな。

……仕方ない、図書館に入るか。
あそこは入り組んでるし、
簡単に撒けるはずだ。

笠原 裕樹

このまま図書館に入るぞ!

望月 希

と、図書館ってどこ!?

笠原 裕樹

通路の突き当りだ!

笠原 裕樹

!?

 突き当りの扉を開いた笠原は愕然とした。
 扉の向こうは、何もないガランとした部屋だった。

笠原 裕樹

階を間違えたのか?
いや、今日行ったばかりなんだ、間違えるはずがない……。
扉を間違えたのか? 突き当りの部屋は1つだ、ここしかない。

笠原 裕樹

考えても仕方がない……!
望月! とにかく部屋の隅に行け!

望月 希

う、うん!

 慌てて、望月が扉の対角へ走る。
 笠原が扉を閉めようとするが、少し遅かった。女の子が、既に扉の目前へ迫っている。扉が閉まりきるより先に、女の子が部屋に飛び込んだ。

笠原 裕樹

うおっ!

 望月の姿を捉えた女の子が、斧を構えてジリジリと歩み寄っていく。

 目の前の笠原には目もくれない。

笠原 裕樹

なんだこいつ……。
俺は襲わないのか?
もしかして、狙いは望月だけなのか。

笠原 裕樹

それなら……。

 女の子は、望月しか見ていない。
 笠原は後ろからそっと近づき、斧を取り上げると、女の子を抱きかかえた。

!?

笠原 裕樹

呆気無いな。
斧さえ無けりゃただの女の子だ。

望月 希

だ、大丈夫?

 望月が近づくと、女の子は抱えられたまま、望月に向かって必死に両手を伸ばしてきた。
 思わず望月が後ずさる。

望月 希

ま、まだ襲ってくるのね。

笠原 裕樹

斧は取り上げたから何も出来ないはずだが、ずっと纏わりつかれるのも迷惑だな……。
適当な部屋に閉じ込めておくか?

望月 希

ええ? それはちょっと可哀想じゃない?

笠原 裕樹

お前、仮にも命を狙ってきた相手なんだぞ?

閉じ込めるのが嫌なら、どうするんだ。
ずっとお前にひっついてくるぞ?
この調子だと。

望月 希

裕樹がそのまま抱きかかえててよ。

笠原 裕樹

嘘だろお前……。

望月 希

それにしても……。

 望月が、女の子をまじまじと眺める。

望月 希

やっぱり、
どこかで見たと思うんだけど……あ。

 望月が思い出したように手を叩く。

望月 希

この子、めがちゃん人形じゃない?

笠原 裕樹

は?
めがちゃんって、一昔前に流行った着せ替え人形のことか?

望月 希

違う違う。
人形じゃなくて女神よ。
着せ替え女神のめがちゃん。

懐かしいなあ。

笠原 裕樹

……別にどっちでもいいだろ。

笠原 裕樹

ていうか、こんな服着てたか?
テレビでやっていたのとは違うようだが。

望月 希

んー、その子は、私が持っていためがちゃんが元になってるんだと思う。

お母さんが作ってくれた服の中に、
そういうのがあったはずだから。

笠原 裕樹

ああ、なるほどな。
だから見たこと無い服を着てるのか。

笠原 裕樹

まぁ、それはいい。
これで1つ、危険を潰せたわけだ。
学校を歩き回るのも、幾分か楽になるだろ。
続けようぜ。

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