ゲートを抜けた先は
ソレイユ大陸の北端にある、
グラドニア公国の片隅だった。
すぐ近くあったネノック村で
そうした地理的情報や
社会情勢などの情報を仕入れ、
首都であるグラドニアの城下町へ向かって
極北街道を歩いている。
大陸南端にあったシルフィでは
暖かかった気候も、
この辺りは少し肌寒い感じだ。
植物も少なく、
地面の露出している所も多く見られる。
同じ大陸でも北と南では
こんなにも気候が変わるのかと
驚いてしまった。
ゲートを抜けた先は
ソレイユ大陸の北端にある、
グラドニア公国の片隅だった。
すぐ近くあったネノック村で
そうした地理的情報や
社会情勢などの情報を仕入れ、
首都であるグラドニアの城下町へ向かって
極北街道を歩いている。
大陸南端にあったシルフィでは
暖かかった気候も、
この辺りは少し肌寒い感じだ。
植物も少なく、
地面の露出している所も多く見られる。
同じ大陸でも北と南では
こんなにも気候が変わるのかと
驚いてしまった。
勇者よ、
このペースで歩けば
グラドニアの城下町まで
あと半日といったところだ。
遅れるなよ?
僕とシーラの少し先を歩くデリンが
ポツリと言った。
前を向いたままこちらには振り向かないので、
表情までは分からない。
でもそうやって僕らを気にしつつ
教えてくれるってことは、
意外に面倒見のいい性格なのかもしれない。
デリンはこの辺の地理に詳しいの?
まぁな。
グラドニア国内には
魔界へ繋がる『結節点』がある。
俺たちはそこからこちらの世界へ
来ているからな。
そうだったのっ!?
そんなことも知らんのかっ?
それでよく勇者を
やっていられるものだ。
う……。
でも魔族は転移魔法を
使えるんですよね?
直接、目的の場所へ
移動すればよいのでは?
ほぅ? いいところに気付いたな。
巫女の娘の方が
頭は切れるようだ。
うぐ……。
デリンから続けざまに皮肉られてしまった。
でもその通りだから返す言葉もない……。
転移魔法は魔族の誰でもが
使えるわけではない。
体質のようなものがある。
その点は人間どもと同じだ。
それに魔界とこちらの世界――
我々は平界(へいかい)と
呼んでいるが、
2つの世界は
理(ことわり)が異なっている。
それは異世界同士みたいなこと?
簡単に言えばそんな感じだ。
だから2つの世界間を転移魔法で
飛び越えることはできん。
まずは結節点を物理的に
通過しなければならないわけだ。
もしかして、
その結節点を封じてしまえば
魔族はこちらの世界に
やってこられなくなるのでは?
…………。
シーラの鋭い問いかけに
デリンは押し黙ってしまった。
それから少し考え込み、
大きく息をついてから口を開く。
理論的にはそういうことだ。
だが、それは魔王様であっても
天族王であっても
できないだろうな。
おそらく創造神様か、
それに近しい存在でなければ
不可能。
まさに理の外にいる者でなければ、
できない類の事柄なのだ。
残念だったな。
……っ。
シーラは唇を噛み、すごく悔しそうだった。
その結節点を封じることで
世界を平和にできると考えたのかもしれない。
例えそれが可能だったとしても、
僕はそのやり方に賛成できないよ。
えっ?
…………。
意見が違うから排除するなんて、
根本的な解決にはならないもん。
それにその壁が破られれば
また争いになる。
少しずつでも分かり合って、
理解し合って歩み寄らないと
ダメなんだよ、きっと。
ふんっ、言うのは簡単だが
それを実行するのは難しいぞ。
そうだね。
でもデリンはこうして
一緒に旅をしてくれるように
なったじゃないか。
そういうのが積み重なれば、
いつかきっと
僕たちと魔族たちだって
分かり合える。
ふざけるな!
俺はお前の
仲間になった覚えなどない!
たまたま利害が一致して
一緒にいるに過ぎん!
前にも言ったはずだ!
それでも僕たちは一緒にいる。
出会った頃には
考えられなかったことだよ。
今は利害が
一致しているだけかもしれない。
でも一緒にいれば、
お互いをよく知ることができる。
そのうち仲間同士になれるよ。
デリンって意外に
いいところもあると思うし。
なっ!?
つまらんことを言うな!
殺すぞっ?
デリンは道ばたにあった岩を
蹴飛ばして破壊し、
スタスタと早足で歩いて行ってしまった。
……きっと照れているんだと思う。
だって本当に怒っているなら、
否応なしに攻撃してくるはずだし。
僕とシーラは顔を見合わせて
クスッと微笑むと、
慌てて彼のあとを追ったのだった。
その日の夕方、
僕たちはグラドニアの城下町へ到着した。
近くには貴重な金属の採れる鉱山が
たくさんあるらしく、
そこで働いているドワーフ族の姿も
多く見られる。
さらに鉱物を取り引きする行商人や
加工をする職人も集まり、
そうした人々を相手にする商店や酒場も
立ち並んでいた。
最果ての街とは思えないほど
活気に満ちあふれている。
まずは宿を探そうか?
俺は野宿で構わん。
人間どもの集まる場所で
休めるものか。
お前らだけで泊まれ。
でも……。
それとも魔族が俺を襲ってきた時、
宿が標的になってもいいのか?
俺は遠慮なく宿ごと吹き飛ばすぞ?
う……。
アレス様、
宿には私たちだけで泊まった方が
いいかもしれませんね。
それが賢明な判断というものだ。
明日の朝になったら
街の入口に来い。
そこで待っている。
うん、分かっ――
その時だった。
不意に兵士の集団がやってきて
僕たちを取り囲んだ。
完全に道を塞がれて逃げ道はない。
僕は咄嗟に身構え、剣の束へと手をかける。
するとその直後、
立派な鎧を身につけた人物が
兵士たちの奥から現れ、
僕の前で兜を脱いだ。
そしてひざまずいて丁寧に頭を下げる。
――こ、これってどういうことなのっ!?
――勇者様、
よくぞお越しくださいました。
私はグラドニア公国騎士団長の
リカルドと申します。
クリス国王より命を受け、
お迎えに上がりました。
国王様が?
国王は試練の洞窟の
審判者もしておりますゆえ、
勇者様がお見えになったことを
気配で察知しておられます。
シーラ、どうする?
国王様がお待ちというのであれば、
お断りするわけにも
いかないのでは?
それに審判者でもあるわけですし。
いや、これはワナという可能性もある。
もっと慎重になった方が
いいのではないか?
2人の意見はどちらももっともだ。
こんな時にタックがいてくれたら
アドバイスを……。
――いや、
いつまでもタックに頼ってちゃダメだ。
彼がいないからこそ、
僕は自分で判断しないといけないんだ。
…………。
それなら明日の朝、
あらためて僕たちの方から
お伺いします。
もう日も暮れますし。
ですが……。
夜分遅くにお伺いするのも
申し訳がありませんから。
今日はお引き取りください。
……分かりました。
では、国王にはそう申し伝えます。
リカルドさんの合図で兵士たちは一斉に
引き上げていった。
それを見届けたあと、
僕は小声でシーラとデリンに声をかける。
ねぇ、
周りから監視されてる気配はある?
私は分かりませんが。
邪気を含んだ視線は
感じられないな。
野次馬どもは好奇の目で
チラチラと見ているようだが。
分かった。
それじゃ、
今からすぐに城へ行こう。
きっとワナはないよ。
もしワナが仕掛けられているなら、
もっと強く
連れていこうとするはずだし。
なるほどな。
だが、相手がそこまで
見通していたとしたら?
その時はデリンが
飛行魔法か転移魔法で
城から脱出させてくれればいい。
なんだとっ?
俺は運送屋ではないぞっ!
分かってるよ。
だって僕はデリンのことを
運送屋じゃなくて
仲間だって思ってるもん。
っ!?
だ、だから
そういうことを言うなっ!
調子に乗っていると殺すぞっ!
シーラ、城へ行こう。
はいっ!
っっっっっ!
お前ら、話を聞けっ!
こうして僕たちは
リカルドさんたちを追いかけ、
城へと入ることにしたのだった。
その後、
僕らは彼の案内で謁見の間へと通され、
しばらくして僕らの前に
審判者でもあるクリス国王が現れる。
次回へ続く……。
デ、デリンの照れ顔かわぇぇぇぇ