……覚悟はできたかな?

望月 希

できるわけないでしょ……。
いくら夢の中だからって、殺人なんて。
他に方法はないの?

残念だけど、他に方法はないよ。
話し合いも無駄だと思う。
取り合ってはくれない。

望月 希

はぁ。

望月 希

それでも一応、話し合ってみるわ。
なんとかなるかもしれないしね。

……君は、命を狙われているのに随分と冷静なんだね。

望月 希

実感が湧かないというか。
襲ってきたのも可愛い女の子だったし、
何より夢の中だしね。

それはそうかもしれない。
でも、これは本当の事だよ。
あの子を殺せないなら、死ぬのは君になる。

望月 希

……。

君はさっき、ここを夢の中と言ったね。
その通りだよ。
あの子は、夢の中の存在にすぎない。
僕だってそうだ。
躊躇う必要なんて無いんだよ。

望月 希

何よ、それ。
私が殺すためにあの子を作ったって事?

そうじゃないよ。
でも、今はそうなっちゃった。
仕方ないんだ。

望月 希

全然わからないわ。
あなたは何を知っているの?
知っていることをちゃんと、全部話してよ。

僕が話せることは多くない。
あの子が君を殺そうとしていること。
助かるには、あの子を殺すしか無いこと。
君を助けるために、僕が居ること。
それぐらいさ。

望月 希

あの子が私を殺す理由は?
どうして殺せば私が助かるの?

それは、言えない。

望月 希

そう。
知らないんじゃなくて、言えないのね。

勝手だとは思うけど、わかってほしい。
言っても仕方のないことだから。

望月 希

あの子も同じようなことを言っていたわ。
言っても仕方ないってね。
あなた達、
大事なところは誤魔化してばかり。
私、もう行くわ。

……うん。
ごめんね。
どうか死なないで……。

望月 希

……。

 望月は1度だけ振り返ると、そのまま教室を出た。

望月 希

ちょっと言い過ぎたかな。

 教室を出るときに見えた、毛玉の表情を思い出す。

 無表情のままだったが、少し、悲しそうに見えた。

望月 希

あっ、これ、持って来ちゃった……。

 望月の手の中には、先程毛玉に渡された包丁がある。

望月 希

調理室から持ってきたのかしら。
これであの子を殺せって……。

望月 希

仮にそれしか方法がないとしても、
最後の手段にしたいわ。

話し合いは無理だって言われたけど、
とりあえず最初は説得してみなきゃ。
何にせよ、あの子を見つけるのが先ね。

……あ。

 遠くに、女の子の姿が見えた。
 誰かを探すように、辺りをキョロキョロしている。

 望月は慌てて柱に身を隠し、顔を少しだけ出した。
 位置的には望月側が影になっている。
 見つかることはないだろう。

望月 希

私を探しているのね……。
あの子はどうして私を狙うのかしら。

 望月は女の子が自分を狙う理由について考えてみたが、相変わらず見当もつかない。

 なんとなく覚えはある。
 しかし、それだけで名前も出てこないのでは、命を狙われる理由など思い当たるはずもなかった。

望月 希

ダメね。全然思い当たる節がないわ。

そもそも、
暗くて誰なのかよく見えないし……。

誰であるにせよ、
そんなに恨まれる覚えなんてないけど。

 女の子が歩き出した。

 望月の方へ向かってくる。

望月 希

おっと。
離れなきゃ……。

 その場を離れようと動いた望月だったが、
 慌てていたせいか、柱に足をぶつけてしまった。

 小さい音だったが、女の子には聞こえたらしい。

 黙って望月の方を見つめている。

望月 希

やば……。

 女の子が駈け出したのを見て、望月も駆け出す。

 今度は女の子もしつこい。
 相変わらず足は遅いが、執拗に食らいついてきた。

 望月も負けじと、必死で駆けて行く……。

望月 希

とりあえずここに隠れよう……。

 咄嗟に飛び込んだパソコン室。

 暫く息を潜めていると、パソコン室の前を誰かが駆けて行くのがわかった。

 やり過ごせたらしい。
 望月は溜息をついた。

 少し息を整えてから、扉に手を掛ける。

望月 希

そろそろ大丈夫かしら。
あれ?

 扉が開かない。
 鍵は掛かっていないのに、いくら力を込めても微動だにしない。
 両手で持って、思い切り力を込めた。その時……。

望月 希

!?

 部屋中のパソコンが、独りでに起動する。
 勿論、望月は何も触っていない。

 画面に文字が表示されている。

"ようこそ、お客さん"

望月 希

だ、誰?
そこに居るの?

"僕は、このパソコン部の部長"
"よろしくね"
"僕は目の前に居るよ"
"マシンの中だけどね"

望月 希

この中に……?

"うん。色々あってね"
"ここは結構快適なんだけど"
"やっぱり1人だと退屈なんだ"
"君、僕とゲームで勝負しないか?"
"僕に勝てたら、ここから出してあげる"

望月 希

何よ急に。
私、今人を探して……。

 パソコン室。ゲーム。
 望月の頭の中で、何かが引っかかった。
 これらに関係する話を、中学の頃に聞いた気がする。

 ふと、目の前のパソコン以外にも、
 文字が表示されていることに気がついた。

"助けて"
"ここから出して"
"寂しい"

そんな言葉たちが、画面を埋め尽くしている。

望月 希

これ、もしかして……。

"やらないの?"

 中学校の頃に聞いた、学校の七不思議。
 夜のパソコン室には幽霊が居て、遊んでくれる相手を探している。
 幽霊に捕まった人は、幽霊と勝負をしなければならない。

 勝てば、開放される。
 負けるか、勝負から逃げようとすれば、
 一生パソコン室に閉じ込められる……。

 七不思議らしく色々なパターンがあったものの、概ねこんな話だ。

望月 希

待って。
やるわ。そのゲーム。

"そうこなくちゃね"

 ここは夢の中だから、相手は本物の幽霊じゃない。

 とはいえ、彼が七不思議をベースに作られたのは間違いないだろう。
 勝負を放棄すれば、本当にパソコンの中へ閉じ込められる可能性は高い。

望月 希

これも、あの子の言う危険の1つかしら。

望月 希

私の夢の中だから、私の知らないゲームは出てこないでしょうし、そこは安心ね。

"それじゃあ、早速始めよう

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