望月 希

もう、どれぐらい経ったかな……。

 望月は、校舎の時計を眺めた。

 時計は微動だにしていない。
 さっきから、ずっとこの調子だ。

 故障しているのか、最初から動いていないのか。
 まさか時間が止まっている、なんて事はないだろうが。

 少女が、この世界から出られないと言ったのは、本当なのかもしれない。
 体感では数時間ほど経っているが、夢が覚める様子はない。

望月 希

いつまでも、
ここに居るわけにはいかないか……。

 望月は、そろそろと移動を始めた。

 あの少女なら、ここから出る方法を知っているだろう。

 少女を探さなければ。

望月 希

とは言え。
あの子、一体何処に居るんだろう。
別れるときに消えてたから、もしかしたらこの学校には居ないのかも……。

 そんな不安が頭をよぎったとき。
 不意に、廊下の隅に人影が見えた。

望月 希

あ、居た居た。

 人影も望月に気がついたらしく、望月の方へ駆け寄ってきた。

 人影が近づくに連れ、その姿がハッキリしてくる。
 望月は最初、それが先程の少女だと思っていたが、どうも様子がおかしい。

 人影はこちらに向かってくるが、先程と比べて随分と小柄のようだ。

 やがて人影の正体が、月明かりに照らされた。

望月 希

あれ? 違う……。
ってあの子、なんて物持ってるの。

 駆け寄ってくるのは、小さな女の子だった。
 その手には、小さな斧が握られている。

 女の子は駆けながら、その斧を振り上げた。

望月 希

ちょ、ちょっとまって。
あの子、私を狙ってるの?

 女の子が迫ってくる。
 その目は、真っ直ぐ望月を見据えていた。

 望月は、慌てて逃げ出した。
 幸い女の子の足は遅く、簡単にまくことができた。

望月 希

ハァ……ハァ……。

望月 希

明らかに私を狙っていたようだけど、
これがさっき聞いた"危険"ってやつなのかしら。
また可愛らしい危険が出てきたもんね……。

望月 希

あの子もどこかで見た気がするんだけど、やっぱり名前が思い出せないわ。
慌てて逃げたから、
あんまりよく見てなかったし。

望月 希

ん?

 逃げ込んだ教室の隅に、白いクッションのようなものが置いてある。

 教室に置いてあるものとしては不自然で、望月の記憶にもない。

望月 希

なんだろ。この毛玉のようなクッション。
顔がついてる。
もこもこしてて可愛いわね。

……。

望月 希

何かのキャラクター?
見覚えは無いけど、なんだろう……。
懐かしい感じがする……。

 暫くクッションを眺めていると、不意にクッションが動き出し、望月と目があった。

望月 希

え、動いた?

こんばんは、のんちゃん。
助けに来たよ。

望月 希

しゃ、喋った……。
のんちゃんって、私のことよね?
あなたは誰?

……。

僕のことなんてどうだっていいよ。
君、ここから出たいんでしょ?

望月 希

また……。
なんで私の夢に出てくる子は皆、
自分の事を話したがらないのかなぁ。

望月 希

って、出られるの?

うん。

望月 希

どうやって?

簡単だよ。
君をこのセカイに閉じ込めた張本人、
あの少女を、倒してしまえばいい。

望月 希

少女って、
校庭であったあの子のことよね?
私と同い年くらいで、薄い水色の髪をした。

そう。
その子で間違いない。

望月 希

倒すって、具体的には何をすればいいの?
あんまり暴力は好きじゃないんだけど。

これを使って。

 そういうと、毛玉はのそのそと動き出した。
 下から、銀色に光る何かが現れる。

望月 希

え、ちょっと待って。

望月 希

これであの子を倒すってつまり、
あの子を殺す……ってことなの?

そうなるね。
あの少女を殺さないと、
ここからは出られない。
躊躇うなら、逆に君が殺されてしまうよ。

望月 希

そんなこと、急に言われたって……。

気持ちはわかる。
でも、それしかないんだよ。

望月 希

……。

決心ができるまでは、ここに居ればいい。
ここは安全だし、まだ時間はある。

……君が生きてここを出るには、
あの少女を殺すしかない。
どうかわかってほしい。

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