【第十三話】
『魂に刻む』

声を上げ逃げる人々、そこに思いやりや秩序などない。我先にという行動の固まり。人が逃げる先に見えるのは茶色や緑色のコンバイド。

おい!ブラックマジシャンズ坂本!任せるってどうするんだよ

そうですね。せっかくですから―――手品でもお見せしましょうか



言いながら坂本は持っていたステッキを天にかざすと、先端部分がクラッカーの様に弾け赤や青や黄の紙テープが大量に放出されると、どこからともなく白い鳩が大量に大空を羽ばたいた。
その美しさは本来であるなら誰しもが目を奪われたであろう、しかし今の状況下で見る者は坂本の側にいた左右田とトキオと鳴海だけだった。

お前はジョン・ウーか



トキオが、どうにもクダラナイ事を言い視線を坂本に戻すと、その場には人ではない何かがいた。細みの剣を持ち、前身は堅い鱗で覆われ、背中から飛び出た二本の触角。

それでは私に任せて頂けますか?トキオ君は『それ』でノアの箱舟を阻止。適材適所だと思いますがね



坂本は『それ』とトキオの持つアタッシュケースを指さした。

そんじゃ、行かせてもらうぜ!



トキオは側にいる鳴海を強引に引き寄せて抱き締め叫ぶ。

セブンアーム!チェンジ!チェーンアァァァーム



声に反応しトキオの腕が光り、一本の鎖が近くにある建物へと伸びる―――と、直ぐに二人の身体は宙に浮き、一瞬にしてその場を離れた。

左右田さんはトレーラーの中に避難してください!



他のUC-SFのメンバー達は既に自主的にコンバイドと戦いを初めていた。警官たちは少数ながら何とかして逃げる人の安全を確保しようと動いてはいるが、この状況下では手遅れに等しく、また戦うでもない中途半端な立ち位置となっていた。
それは武装していない左右田も同じだった。立場上、警視庁から対グリム用の強力な銃が支給されてはいるが、集団戦闘は想定されてはいない。何より身を守る術が無さ過ぎる。

坂本さんスミマセン。トレーラーまでは自力で戻りますから―――

左右田さんがトレーラーに戻られた頃には全部片付け終わってますから・・・死なないでくださいね



坂本はそう言うと、親指を立てサムズアップをした。それを見た左右田は同じく親指を立て返す、その後懐から銃を抜き取りトレーラーへと走った。

遠くでは人の叫び声と爆音が聞こえる。
トキオと鳴海はビルの屋上に身を潜めていた。

追って来ねぇな

そうね



この時、トキオは確信した。集団で現れたコンバイドは一見、統率されている様に見えたが、追ってこない事で誰かに統率されているわけでなく、目の前の獲物を本能で狩る獣と同じだと。
つまり完全に視界から消えた今、コンバイドは先回りして待ち構える事は無い。

これなら簡単にランドマークの中に入れそう―――ってか、鳴海

何?

勢いで連れて来ちまったけど・・・もしかして、あの場で戦えたか?

うん

・・・戻る?



鳴海は何も言わず、首を強く横に振った。

あの男は、戦場には出て来ないから・・・アンタといた方がいい

あの男?それって、鳴海が逃げないで戦うって誓った相手?

―――そう。あの陰険な表情。今でも忘れない



するとトキオは鳴海の肩をポンッ!と強めに叩き言った。

元の顔を忘れちゃうくらいボッコボコにしてやろうぜ!



強ばっていた鳴海の表情は、トキオのぶっきらぼうな言葉に少し和らいだようだった。

変身した坂本はレイピアを華麗に操り、次々と襲いかかるコンバイドを消滅させていた。

この剣。魂に刻むといい



それは正に一撃必殺!
坂本の動きを見た共に戦うUC-SFのメンバー達は直ぐに同じ感情を抱いた。


『援護しても、それは邪魔になるだけ』


だが、この感情が一つの統率を生む。坂本がターゲットになりUC-SFは逃げる人々の安全を守る。この早期のチームとしての連携の徹底が人的被害を最小限に食い止めた。

【第十三話】 『魂に刻む』

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