僕は体の自由が利かず、
シーラは回復魔法に集中していて
シャインの接近に気付いていない。
――くそっ、このままだとやられるっ!
僕は体の自由が利かず、
シーラは回復魔法に集中していて
シャインの接近に気付いていない。
――くそっ、このままだとやられるっ!
くたばれ、勇者どもっ!
何っ!?
どこからか、
風をはらんだ斬撃がシャインに向かって
繰り出されていた。
その攻撃は想定していなかったのか、
シャインは慌てて身を翻して
僕たちと距離を取る。
彼女は既の所で直撃は回避したものの、
頬に横一文字の切り傷を
受けているようだった。
ただ、それ以外のダメージを
受けなかったのは
さすが四天王といったところか。
ふぅ……。
この隙にシーラは回復魔法を使い、
僕の傷は塞がった。
体力までは回復していないけど、
とりあえず命は助かったみたいだ。
ありがとう、シーラ。
アレス様っ、
無茶はしないでくださいっ!
いつも私に
心配をかけすぎです……。
ごめんね……。
アレス様、無事でなによりだわ。
エレノアさんが僕たちの前に立って
シャインと対峙した。
もしかして、今の一撃を繰り出したのは……。
どう、魔族のお嬢さん。
剣技『風斬剣』のお味は?
私が接近戦しかできないとでも
思った?
私に背中を見せると
体がスライスされるわよ?
くっ……。
でもその不意打ちは
使えなくなった。
そんなに簡単にカードを切って
良かったのかしら?
きゃははははっ!
シャインは一気にエレノアさんと距離を詰め、
大鎌の一撃を繰り出した。
激しい攻撃に
エレノアさんは驚愕しつつ防戦一方。
ついに剣は弾き飛ばされ、
太ももに一撃を食らってしまう。
くっ……うぅ……。
貴様程度、
正面からぶつかればこの通り。
あまり調子に乗らないでね。
調子に乗るな……か……。
あら? まだ生きてたの?
ふふ、だったら手を貸しなさい。
それで失敗をチャラにしてあげる。
…………。
デリンは体に自由が戻ったのか、
落とした剣を拾い上げて
僕の方へ歩み寄ってくる。
――くっ、このままだとマズイ!
まだ僕は体力が
戻っていないっていうのに……。
ただ、このまま丸腰でいるよりはマシなので、
とりあえず剣を抜いて構えた。
僕の間近まで迫ってくるデリン。
だが、彼は突然足を止めて
シャインの方へ向き直る。
その剣先はシャインに向けられ、
彼女を睨み付けている。
どういうつもりだ、デリン?
俺を殺そうとした貴様は敵だ。
敵の敵である勇者は、俺の味方。
そういうことだ。
デリン……。
勘違いするな、勇者!
俺はお前の仲間ではない。
今はあくまで目的が一致しただけ。
いつかお前も殺してやるから
そのつもりでいろ。
デリン、私の力は
よく知っているわよね?
いくら私が手負いの状態とはいえ、
貴様を葬ることくらいは
できるわよ?
……だろうな。
同じ四天王であっても
実力は貴様の方が遥かに上だ。
それは分かっている。
きゃはははっ!
それでも私に刃向かうなんて
バッカじゃないのっ?
勇者よ、お前の力で
シャインの足止めをしろ。
でも僕はまだあの力を使えるほど
回復してなくて……。
ならばさっさと回復させろ!
俺たちが力を合わせない限り、
シャインには勝てん!
分かったよ!
シーラ、回復魔法をお願い。
はいっ!
…………。
シーラは再び回復魔法を唱える準備に入る。
アレス様の護衛は私がやるわ。
怪我をしていても、
それくらいなら
なんとかなるから。
ザコどもが群れやがって!
忌々しいっ!
貴様ら全員、
楽に死ねると思うなっ!
シャインは激しく大鎌を振り回した。
あれだけ大きな武器を扱うのなら隙くらい
できそうな気がするけど、
デリンはひたすら防御するだけ。
つまりそれだけシャインは大鎌を
自分の手足のように扱えているんだろうな。
――ギィン!
激しいつばぜり合いの音が響いた。
デリンの表情には余裕がなく、
やや押されている。
その時、僕の体に温かな力が流れ込んできた。
痛みや疲労はどんどん消えていき、
体は元気さを取り戻していく。
アレス様、
回復魔法をかけました。
今度はシャインの動きを
封じましょう。
でも、シーラは大丈夫なの?
休まずこんな連続で……。
私なら大丈夫です。
さぁ、シャインに反撃しましょう。
うんっ!
僕はシーラの手を握り、シャインと対峙した。
そしていつものように念じてみる。
シャイン、
もう戦うのはやめて。
争う理由なんかないじゃないか。
お願いだよ……。
っ!?
ダメだ……。
どうなさったのですか?
手応えがない。
僕の力不足なのか、
あるいは力が
回復しきっていないのか……。
えぇっ?
全く効果がない訳じゃないんだ。
でも足止めができる
レベルじゃない。
依然としてデリンは
シャインの攻撃を必死に受け止めている。
でもそれもいつまで持つか分からない。
このままだとジリ貧だ。
なんとかしなきゃ……。
勇者よ、どうしたっ?
早くしろっ!
う……うぐ……。
きゃはははっ!
効果が薄いんじゃないの?
確かに私の魔法力や力が
落ちたような気はするわ。
でも決定的なものじゃない。
あんたたちを葬るには充分だわ。
一段と激しくなるシャインの攻撃。
軽いとはいえ、
デリンに攻撃がヒットする回数が
増えてきている。
いつ決定的な一撃が入るとも限らない。
僕はどうすれば……。
えっ?
突然、勇者の剣が淡く輝き出した。
これは僕に
剣で戦えということなのだろうか?
でも僕の剣なんて通用するわけが……。
いや、
そんなことを言っている
場合じゃない!
そうだ、
このままだとデリンはやられてしまう。
力が使えないなら、
今ある力でなんとかするしかない。
できるできないじゃない、
やらなきならないんだ!
シーラ、僕に防御魔法を。
そのあとは
エレノアさんに回復魔法を。
それは構いませんけど、
何をなさるおつもりなんです?
僕が剣でシャインを攻撃する。
危険すぎますっ!
シーラはつむじを曲げ、大きく首を横に振る。
そんな彼女の肩を僕は掴み、
至近距離から真っ直ぐ瞳を見つめる。
危険を承知でやるんだ。
デリンは僕を信じてくれている。
命を賭けてくれているんだ!
僕だって
それに答えなければならない!
アレス様……。
僕はやられないよ。
もし怪我をしたら、
その時はまたシーラの魔法で
回復させてくれればいい。
……でも。
シーラが止めても僕は行くよ。
シャインの隙さえ作れれば、
デリンが必ず
倒してくれるはずだから。
デリンを信じて大丈夫なのですか?
だってあいつはシャインのあとに
アレス様を倒すと
言っているのですよ?
それはきっと嘘だよ。
根拠はないけど、
僕にはなんとなく分かる。
…………。
分かりました。
アレス様がそう仰るなら
私も協力します。
ありがとう、シーラ!
あっ……。
僕は思わずシーラを抱きしめてしまった。
――なんか温かくて柔らかい。
それにいい匂いがする。
じゃ、シーラ。お願い。
はいっ!
僕はシーラに防御魔法をかけてもらった。
これで多少はダメージを軽減できるはずだ。
ただし、それ以上に強大な一撃だったら
意味はないけどね。
あとはタイミングなんだけど――
えっ?
突然、僕の体が軽くなった。
横を振り向いてみると、
エレノアさんが僕に向かって
手のひらを向けている。
どうやら何かの魔法を僕にかけたみたいだ。
風の魔法をアレス様にかけたわ。
これで俊敏に動けるはずよ。
ありがとうございます。
それとアレス様、
私が上空から魔族を攻撃するわ。
その時に横から一撃を。
エレノアさん……。
私にも協力させてよ。
きっとあいつ、
私の攻撃は想定しているはず。
だからこそ囮になれると思う。
分かりました。
ではエレノアさんの
動きに合わせて、
僕は突進します。
えぇ。
それじゃ、行くわよっ!
エレノアさんは翼を大きく広げて飛び立った。
そして上空から風斬剣を何発か繰り出す。
貴様が攻撃してくることなど
想定済み。
もはやその攻撃は
私に通用しないわ!
シャインは風斬剣を軽々とよけ、
かわしきれない攻撃は大鎌でなぎ払っていた。
デリンも攻撃を仕掛けるけど、
全て受けきっている。
――よし、今だ!
いっけぇええええぇっ!
僕は右手で剣を握り、
左手で刀身を支えながら突進した。
エレノアさんの魔法のおかげで、
風になったかのように驚くほど体が軽い。
周りの景色は一気に流れ、
シャインの姿だけが視界に入っている。
それはどんどん大きくなってくる。
――僕の必死の一撃、当たれぇえええぇっ!
次回へ続く!