シャインの掛け声とともに、空間が揺らいだ。
そこから現れたのは……。
シャインの掛け声とともに、空間が揺らいだ。
そこから現れたのは……。
ふふふ……。
久しいな、勇者アレス!
デリン!
現れたのは第2の試練の洞窟で対決した、
四天王のデリンだった。
――なんでコイツがここにっ!?
結界の中に封じ込められているはずなのに!
シャインとクロイス、
貴様らの仕業か……。
さすがミューリエの結界ね。
破るのに骨が折れたわ。
私とお姉様が力を合わせてなお、
時間がかかったんですもの。
デリン、勇者どもは任せます。
分かっている。
今度こそ葬ってやる!
どう、ミューリエ?
これであなたは1人で私とお姉様を
相手にしなければならないでしょ?
チッ!
あら、どうしたの?
焦りの色が見えるわよ?
ミューリエ、
デリンは僕たちでなんとかする!
だから希望を失わないで!
アレス……。
あぁ!
笑顔で返事をしたミューリエは
クロイスやシャインと戦闘を始めた。
さっきと比べて心なしか
動きが軽くなったみたいで、
2人からの攻撃も
流れるように弾き返している。
――うん、諦めなければきっと勝機はある!
ふん、俺も見くびられたものだ。
勇者よ、貴様に何ができる?
今回もそこの女の命を
助けてくれと、
泣いて懇願するに決まっている。
たっぷり苦しませ、
辱めて殺してやる!
ひっ!
そんなことはさせない!
僕だって成長してるんだ!
アレス様……。
でもデリン、
どうしても
戦わなければならないの?
こんなことはやめて、
僕と友達に――
それはありえん!
以前にも言った通りだ!
っ?
デリンは僕の言葉を遮り、
激高しながら叫んだ。
でも彼は一瞬、
戸惑ったような気がしたんだけど?
気のせいだったのかな?
そっか……残念だよ……。
アレス様、
最後の最後まで戦いましょう。
もしかしたら
タック様やビセット様が
助けに来てくれるかも
しれませんし。
くくく、それはない。
えっ?
ルナトピアはレッサーデーモンや
アンデッドどもに襲わせている。
ここまで助けに来るのは不可能だ。
もし来られたとしても、
その時にはすでに
貴様らの命は尽きているだろう。
そうか、
それでルナトピアから
火の手が上がっているのか。
策略を立てたのが
シャインなのかデリンなのかは
分からないけど、
相変わらず色々と用意周到な連中だ。
――でもっ、僕は負けないっ!
それなら尚更、
お前たちをなんとかして
2人を助けに行く!
僕はシーラと手を繋いだ。
すると彼女は少しドギマギしたけど、
すぐに凛々しい顔になって
僕と視線を合わせてきた。
そして手を強く握り返し、
彼女は静かに目を閉じる。
エレノアさん、
少しの間で構いません。
僕たちを守っていてもらえますか?
任せてっ!
少しどころか
命尽きるまで守ってみせるわ!
ありがとうこざいますっ!
僕は目を閉じた。
心を落ち着かせ、意識をデリンへ向ける。
…………。
あの力を使う気かっ?
そうはさせん!
こっちのセリフよっ!
アレス様に手出しはさせないわ!
――ガギィイイイイィン!
その直後、金属がぶつかり合う音がした。
エレノアさんとデリンが
剣を交えているのだろう。
音は断続的に響いてきている。
エレノアさん、どうか無事でいて……。
デリン、もう戦いはやめよう。
僕たちはきっと友達になれる。
今までやってきたこと、
これから
償っていってくれればいいんだ。
みんなの幸せのために、
あなたも協力してください。
っ!?
こ、これは……?
くっ!
体が……重く……。
魔法力もどんどん収まって……ッ!!
これが勇者の力なのかっ?
…………。
手応えを感じた僕は、ゆっくりと目を開いた。
僕とシーラの体は淡い光に包まれている。
一方、デリンは苦しそうな
表情を浮かべながら体を硬直させていた。
そしてまさに今、
手に持っていた剣を地面へと落とし、
金属の音がその場に響く。
これで僕の力が魔王の四天王にも
通用するのがハッキリした。
もっと鍛練を積めばきっと魔王にだって……。
ぐ……ぐぐぐ……。
デリン、勝負はついたよ。
もう戦うのはやめよう。
哀れみか!
お前の情けなど無用だ!
さっさと殺せ!
……それはできない。
もし罰がほしいというなら、
生きて罪を償うことが
あなたへ与える罰だ。
命を粗末にしないで、デリン。
……っ。
役立たずがっ!
それなら私が殺してあげるわっ!
不意にシャインが魔法で炎の矢を作り上げ、
それをデリンに向けて放った。
デリンはまだ動けないのか、
その場に棒立ちのまま防御すらできない状態。
このままだと
炎の矢は彼の胸に突き刺さってしまう。
――僕は咄嗟にデリンの前に飛び出していた。
なっ!?
アレス様っ!
がっ……あああああああぁっ!
赤くなるまで熱された剣で
肩を突き刺された感じ。
目の前がかすんで、意識が飛びそうになる。
踏ん張ることもできずにそのまま倒れ込み、
全身から冷や汗が吹き出してくる。
傷口は熱いのに、全身は凍えるように寒い。
きゃははははっ!
敵を庇うなんてバッカみたいっ!
アレスっ!
あら、よそ見はいけませんよ?
――ぐはっ!
僕の方に気を取られたミューリエは、
クロイスの一撃を上腕部に食らってしまった。
鮮血が地面にしたたり落ち、苦しそうだ。
間髪を入れず、クロイスは攻撃を続ける。
僕のせいでミューリエまでもがピンチに……。
アレス様っ、
すぐに回復魔法をっ!
…………。
させないわっ!
回復魔法を唱えようとしているシーラに
シャインが魔法か何かで
高速飛行しながら迫ってくる。
振り上げた大鎌は
シーラの小さな体を狙っているようだった。
たぁああぁっ!
……ふふっ、
あなたの相手は
してられないのっ♪
エレノアさんが間に入って
止めようとしたけど、
シャインはそれを軽く受け流した。
そのまま僕たちとの距離が
どんどん縮まっていく。
無理にエレノアさんの相手をしようとせず、
標的を僕たちに絞っているようだ。
あぁ……シーラ……。
僕のことはいいから、逃げて……。
ダメだ、体に力が入らなくて声が出ない。
シーラは回復魔法に意識を集中させていて、
シャインの接近に気付いていない。
このまま僕たちは全滅してしまうのか……。
次回へ続く!