サクゾウ

風呂は心の洗濯機~♪

かや子

お父さん! カケトが大変なの! 世界征服に必要だとかなんだかで、ゲルマニアの騎士がカケトにトイファイトをしかけて、負けたら殺すとかって! テレビ見て!

サクゾウはテレビを見た。

状況をおおむね把握する。

詳細を知りたい読者諸卿は

6話および5話をご覧召されよ。

サクゾウ

ふむ……二対一か。おそろしく不利だな。にもかかわらず、おそろしく堂々としている。若さかな、うらやましいものだ……。

かや子

かっこつけてないの。

サクゾウ

これくらいもだめなのか……

かや子

ね、どうしよう? このままじゃカケトが殺されちゃうかもしれない! 

サクゾウ

そうかもしれない。でも、まだ負けると決まったわけじゃない。見守ろうよ。どのみち俺たちは、トイファイトの会場には行けやしないんだ。

かや子

でも、あの人たちが約束を守らなかったら? 負けたのがくやしくて腹いせに、とか。

サクゾウ

……ない話ではないな。

サクゾウ

トイファイトをやってくれるよう頼んだのは俺だ。競技の外側で危険があるなら、それをどうにかしてやるのは筋。少しでもまともな大人のフリをしたければ、こういうことを疎かにするわけにはいかないな……

サクゾウ

かや子、カケト君の家はどこかわかるかい?

かや子

……ごめん、わかんない。たぶん、この近所かな? ってくらいしか。通学路で会ったわけだし。

サクゾウ

そうか……今度どこで会うかを決めるだけでなく、連絡先を聞いて置くべきだったな……

かや子

カケトの家に行ってどうするつもりなの?

サクゾウ

細かいことはよくわからないが、トイファイトは夢の中で行われているんだろう? なら、カケト君を起こしてしまえば、あの会場からどうこうすることはできない。と思うんだが……これではどうにもならない……

サクゾウ

……どうしてこうなってしまうのか……? 好きでダメでいるわけではない、ないつもりなんだがな……

かや子

電話帳とかで調べるわけにはいかないの?

サクゾウ

そうか! なるほど! かや子、冴えてるぞ。呑竜なんてそんなジャンジャカあるような苗字じゃないもんな。

サクゾウ

よし! 見つかった! 

かや子

やった! 速く行こう! 

サクゾウ

じゃあ、父さんはこれから電話して事情を説明する。かや子は、今のうちに着替えておきなさい。

かや子

え? なんで?

サクゾウ

ああっ! 近頃の若者がわからない! ……全裸での深夜徘徊は普通なのか……?

かや子

ジョーダンだって♪

カケト

行くぞ! ドラゴヒスイ!

うなりをあげるトイ!

中断されていた戦が再開された!

ラプラス

数学的に返り討ちだ!

キティ

がんばりなさい、苦痛を教えてあげる♡

会話の間に

電池が切れてしまったりしないのか?

ゼンマイは?

という疑問を持った方もおられよう!

諸卿の疑問は至極もっとも!

しかしそれは現実での話!

この戦場は現ならず!

諸人の無意識が群れ集い!

稚気の仇花繚乱する

「夢の庭」での戦いだ!
 
意志! 魂! パッション!

そう!

感ぜしものこそ確かなれ!

キティ

これくらいで音をあげてはだめよ、ボク。

ビー玉! ビー玉!

一瞬のうちに二発が放たれる!

ドラゴヒスイの移動方向

および速度を計算に入れた

正確な射撃だ!

カケト

うわ! よけろ! ドラゴヒスイ!

ラプラス

取った! 

鋭角に曲がる

プルプルンアイゼン!

後部車両を失くした今

かつてほどの破壊力はない!

だが代わりに

機動力を手に入れている!

カケト

わっ! こっちもか!

ラプラス

私の計算は完璧だ! 完璧にな!

ラプラスの言は

こけおどしではない!

事実

ここまでは彼女の想定通りなのだ!

レールの上を行くポリレールが

鋭角に曲がるためには

鋭角に曲がったレールを

敷く必要がある!

本来のポリレールは長大なボディ!

鋭角に曲がれば

脱線横転は避けられぬ!

にも関わらず

鋭角レールを用意していた!

これは計算の結果だ!

カケト

言い方が! わかりづらいんだよ!

ドラゴヒスイは

球状タイヤで強引に回転!

プルプルンアイゼンの直撃を

回避する!

わずかな接触があったものの

それは進行方向に乗ったもの!

さしたるダメージではない!

アルテュール

カケト! ――

アルテュールがカケトへ

何事かを叫ぼうとしたとき!

彼の眼前を何かが通り過ぎる!

庭師

「いかなるヒト、トイといえども、ファイト中のトイファイターおよびトイに助言をするべからず」君は規則を知っているね、アルテュール?

それは花札!

すすきに月!

注意を促すため

庭師がイエローカードめいて

投げ放ったものだ!

アルテュール

あぅ……ごめんなさい、審判さん。

庭師

わかれば結構。
カケトに負けてほしくない、という気持ちはわかる。私も彼らは気に入らないから。だが、それでもトイファイトの規則は絶対だ。
私は、私を含めたすべてのトイ及びヒトが、不法を働くことを許さない。そして何より――

アルテュール

――もし僕が助言をしていたら、カケトが勝ったときに彼の勝利を貶めてしまう。そういうこと?

庭師

そうだとも。わかっているようで何よりだ、アルテュール。

もちろん二人の会話の間も

トイファイトは

休みなく行われている!

ビー玉と轢殺列車との連撃を

からくもかわしたドラゴヒスイ!

再び二者の残虐挟撃にさらされる!

息つく間もなく!

嗜虐趣味だ!

ラプラス

討たれよ! そして後悔すべし!

カケト

わあっ! ちくしょう!

プルプルンアイゼン!

直角右折!

ドラゴヒスイは回転回避!

直角左折! 回転回避!

直角右折! 回転回避!

キティ

がんばるのね、じゃあこれはどう?

ポルターカッツェの連射!

すさまじい!

一瞬のうちに

四個のビー玉が放たれた!

いまだこれほどの絶技を

笑みのうちにこなすとは!

カケト

くそ! でもこうやってかわしていれば、いずれ――

迫りくる四発のビー玉!

隙間を縫うように

ドラゴヒスイは回転回避!

カケト

――わっ!?

できなんだ!

奇怪!

ビー玉が軌道を変えた!

これはいかなる邪法であろうか!?

キティ

私のテクはいかがかしら? ムダ玉を、ただばら撒いていたわけではないの♡

奇術邪法にあらざるぞ!

こは常法なり!

連射のあとに残される

大量のビー玉!

ファイトフィールドを転がり続ける!

ファイトフィールドの広さからして

通常問題となることはあまりない!

だがポルターカッツェの相棒は

プルプルンアイゼン!

レールによって

ファイトフィールドの一部を

エンクロージング!

さらに

逃げ惑うドラゴヒスイを誘導し

ビー玉を適切な位置に配置!
 
その上で射撃を行えば

ビー玉は奇想天外な軌道を取るのだ!

ビリヤードを想像していただきたい!

カケト

くそ! まだまだ!

連射系でありパワーには欠ける

ポルターカッツェ!

さらに跳弾に跳弾を重ねた一撃だ!

その威力は

ドラゴヒスイを滅ぼすほどではない!

だが確実に

ダメージは通っている!

そして!

トイファイターカケトの意識は

「敵の攻撃を受けた」

という認識に向かう!

さらなる攻撃の可能性は

理解している!

いてもなお

刹那の遅れを生む!

そして刹那とは

戦場においては

平時の一刻にも等しい!

ラプラス

Ende Berechnung!

立体交差や陸橋レールを用い

高台に登ったプルプルンアイゼン!

峠を越え、下りに入る!

何たる殺風速度!

何たる知略!

失くしたかつての重量を

高みの利によって代替せるとは!

カケト

わ!

ドラゴヒスイは避けられない!
 
否!

避けることはできる!

プルプルンアイゼンのみならば!

だが、そうすれば

ポルターカッツェの

連射直撃を受けることとなる!

これにドラゴヒスイは

耐えられない!

カケト

くっそーっ!

ヒロミ

……カケト、お母さんどうしよう? カケトが大変なのに、お母さんはどこに助けに行ったらいいのかな……?

戦う我が子を

携帯端末で観るヒロミ。

呼び出し音で

中継が中断される。

家にかかってきた電話が

端末に転送された。

ヒロミ

誰? こんな夜中に……それどころじゃないのに……もしもし、呑竜ですが。

サクゾウ

――もしもし、夜遅くすみません、お宅にカケト君という男の子はいらっしゃいますか、実は今、――

ヒロミ

その声、もしかしてサクさん?

サクゾウ

なんと! そう言う君はひーちゃんか。大きくなったねえ。というか、まさかこんなところで再び君と話をすることになるとは! いやぁ、世間は狭い

ヒロミ

サクさん、何か大事な話があるんじゃないですか?

サクゾウ

そうだ、いけないいけない。実は、呑龍カケト君のことなんだが――

かや子

……お父さんの交友関係って、ほんと謎……

驚嘆すべき知略!

括目すべき無慈悲!

これがゲルマニア帝国

そして

その戦略と秩序であろうか!?

餓狼のごとき峻厳!

カケト

ただでやられてやるかってんだぁーっ!

極刑の決定!

選びうるは

轢殺か射殺の差のみ!

いかな偉丈夫とて

ことここに至っては

望みを捨ててもおかしくない!

なればこそ

彼らの行いはいとも貴い!

いかに愚行であろうとも!

いかに無意味であろうとも!

カケトとドラゴヒスイは

攻撃精神を失わず!

さらに研ぎ澄ました!

殺風速度の

プルプルンアイゼン目がけ急加速!

見本のような突撃だ!

キティ

ふふ、最後まで勇敢だこと。本当にかわいいわ♡

鎧をかなぐり捨て!

自らの左胸で槍の穂先を

押しつぶさんとするがごとき

恐るべき愚行!

もはや狂気!
 
だが! 狂気こそ!

知性最大の敵なのだ!

キティ

――あら?

ポルターカッツェの

処刑連射ビー玉はあらぬ方へ!

予定外の位置に

ビー玉の溜まりがあり

それが軌道を狂わせた!

このビー玉たちはどこから?

そう!

急加速したドラゴヒスイによって

押しのけられたものだ!

ラプラス

――な! どういう計算をしている、キティ卿!?

跳弾した処刑連射は

プルプルンアイゼンへ!

直撃すればただではすまぬ!


ラプラスは

プッティング予定レールを変更!

山道を模した上りの直線レール!

高さを稼ぎ

またビー玉をレールにあてさせることで

プルプルンアイゼンへのダメージを

逃がすつもりだ!

キティ

Scheiße! Ficken Dummer du bist! 成り上がりの分際で、私になんて口のきき方を! Fick deine alle Loch!

ポルターカッツェは

さらなる連射!

味方ごとドラゴヒスイを

射殺するつもりだ!

カケト

うおぉーっ! ドラゴヒスイぃ!

「夢の庭」における

レールプッティングは

正確には「put」

――置く動作ではない!

レールを設定位置に

地中より生やさせるようなもの!

プッティング・ポイントに

何かがあれば

それはレールの上へ

押し上げられる!

例え、敵のトイであろうと!

ドラゴヒスイは!

山道の頂に

その身を乗せることとなった!

キティ

Fick fick fick fick fick fick fick fick fick fick fick fick fick fick――!

ビー玉! ビー玉! ビー玉!

激昂ビー玉大乱射!

山道状レールは激しく揺れる!
 
おっかなびっくり山道を登る

プルプルンアイゼンは

錯覚を起こす!

あな! 翡翠の竜!

鉄道敷設のための

環境破壊に辰怒せる山の主か!?

否! 否! 否!

これはトイファイト!

プルプルンアイゼンよ

汝が恐れるべきはただ一つ!

汝が敵の攻撃ぞ!

カケト

そこだああああぁ!

ラプラス

上だと!? 馬鹿な! 計算外にもほどがある!

キティ

――fick fick fick fick fick fick fick fick fick fick! Ficken Hündin du bist!

激昂大乱射により

山道は大いにかたむく!

もはや横倒しは必定ぞ!

レールの上を行くがさだめの

プルプルンアイゼンもまた!

本来ならば

急加速により山道を脱し

通常レールにて

安定を取り戻すための

運転に入ることもできよう!

だが! それは叶わぬ!

山道の果てには翡翠の竜!

此を長虫と侮りしは

嬰鱗せるよりなお愚かかな! 

ラプラス

この私が……帝国騎士たる私が……

ドラゴヒスイは

プルプルンアイゼンを踏み殺す!

球状タイヤの旋回性能を生かし

存分に敵を踏みにじる!

まだだ!

未だ翡翠の竜ぞ鎮まらざる!

辰怒のままに

哀れなるプルプルンアイゼンを

ビー玉たちを踏み

カーブし進む!

もう一方の奸賊へ

気高き意志をぞ示すべし!

カケト

くらえええ! ゼウスのかたき! 

キティ

Ficker Junge du bist!

キティ

な! 飛んだ!?

ビー玉溜まりの尽きたところで

ドラゴヒスイは羽を広げる!

ビートルバトルでの

最後の一瞬のため

ヨロイビートルは

ゼンマイが戻り切ったとき

リーサルギミックが作動するように

なっているのだ!

 無論

ドラゴヒスイの両翼は

ばねの力による

打撃を目的としたもの!

それが翼の真なる役目

――飛翔のために役立つとは!

讃嘆すべき偶然よ!
 
だが! これこそが!

トイファイトなのだ!

キティ

ぁ、玉が、もう……

ポルターカッツェは

対空迎撃叶わず

むなしくばねの伸縮音を

とどろかすのみ!

笑止!

こうなっては

木偶人形にも劣る下郎!

天翔る竜の敵としては

卑俗に過ぎる!

歯牙にかけるに能はざり!

足下の芥と化すが至当ぞ!

キティ

……うそ……負けた……そんな……?

カケト

………………

翡翠の竜は地上に降臨!

ポルターカッツェの遺骸を

玉座として!

堂々たり!

まさに竜に違いなし!

天に代わりて

地上のすべてを一身に引き受ける

皇帝の象徴たる神獣として

ふさわしき有様よ!

Imperial!

Imperial!

Imperial!

庭師

Fight Over!

庭師

Winners are……

庭師

呑龍カケト&Drago-HISUI!
And,治天下ゼウス&Thunder-Swan!

カケト

やった! やったあーっ! 勝った! 勝ったぞ!

ゼウス

……やりよった、ホンマに。ホンマにどえらいやっちゃ、ホンマに、カケト……!

アルテュール

トレビアン! おめでとう、本当におめでとう、カケト君!

オスカー

ほんとうにおめでとうございます、カケトさん! あなたに、いとたかきほまれのありますよう! いまはこまかいことをわすれて、およろこびさせていただきます!

褒めよ! 称えよ! 礼賛せよ!

読者諸卿よ!

戦いはご覧いただけたか!?

ならば賞賛あれ!

呑龍カケトを!

ドラゴヒスイを!

初陣を大勝利に終わらせた彼らを!

カケト

……なんか、不思議な気分だ。これが勝つってことなのかな……

Imperial!

トイファイターズ! 7 ~覇竜の産声~

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