冥王星。
星々さえ手にかける人類にとっても
最果ての地には違いない。
冥王星。
星々さえ手にかける人類にとっても
最果ての地には違いない。
一般には、
調査・観測のための施設のみが
あるとされている。
……マーヤ……?
だが
この地には城がある。
存在を知るものは
建造当時の狼王と
数人の側近のみ。
ゲルマニア帝国枢密院でさえ
この城とその住人を知らない。
マーヤ……!
鎮狼城グレイプニール。
当時
帝位継承権第二位であった狼族を
流罪にするため作られた
監獄宮である。
陛下、如何召されましたか……?
この城に住むのは
『狂狼』と呼ばれた彼と
数人の使用人のみ。
見張りの兵士などはいない。
監視はモニターを通して
衛星カロンで行われている。
違う! お前ではない!
マーヤだ! マーヤが! 動き出した!
脱走が試みられた場合はもちろん
精神干渉薬物の投与が
拒まれた場合なども
無条件で
処刑が行われる手はずとなっている。
城に仕掛けられた陽電子爆弾と
カロンからの核攻撃によって。
まぁ……
吠え猛る狂狼に
女は接吻を奉った。
御めでたきことでございますね、陛下。しかし、おそれながら奏します。今はお静かになさいますよう。今は。僭狼らが、気まぐれを起こしてもうまくありませぬゆえ……
なれど! ……あ……ぁ……
狂狼の静脈に
女は鎮静剤を奉献した。
結構! 聞き捨てるには乱暴すぎる言葉もあったが、言葉のうちは規則のうちだ! 君たち二人VSゼウス&カケト! チームトイファイトを認めよう! 楽しくやってくれたまえ。
だが、その前に質問だ。君たちは何者だ?
Scheiße! 自己紹介はしたでしょう、聞いていらっしゃらなかったの?
失礼。名は先ほど聞いた。だがキティにラプラスよ、私には君らの魂が見えないのだ。だからといって、君らがトイだとはとても思えない。そして君らの歳はどれくらいなのだ? キティはともかく、ラプラスは子供ではあるまい。
見ればわかるだろうに。
失礼ね。もう、怒るを通り越して呆れます。……非ゲルマニア人にも、女性に年の話をしない程度のマナーはあるものと思っていましたわ。
謝らないよ。私は子供の遊びのため、「夢の庭」に侍る者。遊びを妨げる者は嫌いだ。この庭で、現世の――大人の――くだらぬ考えをもって、つまらぬ行いをなそうとする君らこそ、真に無礼だと思うね。
さて。私の問いに答えたまえ。
私は帝国騎士。陛下に命じられれば、いかなる戦地にも赴くものだ。
そういうことです。細かいことなど知りません。
そうか。
庭師は大仰に手を振り上げる!
West Side!
治天下ゼウス&Thunder-Swan!
And,呑龍カケト&Drago-HISUI!
よろしゅうな。
絶対負けるもんか!
East Side!
Laplace Rail-Putter & PurpurnEisen!
And, Kitty Wolfskind TotenTochter & PolterKatze!
先の無礼、後悔させてくれる! 地獄でな!
よろしくね。私、今は虫の居所が悪いのです。素直に負けてくださると嬉しいわ♡
Toy Set……
Fight On!
死ねぇ! 小僧!
駆ける菫色! 殺風列車!
ドラゴヒスイを轢殺せん!
さっき気づいたんだ。すごい速さで、正面からはとても止められないけれど……
衝突寸前!
ドラゴヒスイは急発進!
プルプルンアイゼンの
斜め後ろへと走りゆく!
逃げるか! ならばチャンピオンとやら! 貴様からだ!
おう、きぃやー。軽くもんだるさかい。
プルプルンアイゼンの進行方向!
そこにはサンダースワン!
サンダースワンは
テクニカルコース向けに
設計されたアースピーダーだ!
小さな円を描くように疾走!
旋回性能の高さを誇示し挑発!
……横っ腹にぶち当たれば、レールからはじき出せるはずだって!
ドラゴヒスイはドリフトターン!
プルプルンアイゼン目がけ走る!
獲物を追うことに執心するあまり
自らが狩られる可能性を忘れた猟師!
プルプルンアイゼンよ!
お前はその愚に陥ったのだ!
……世話が焼けますこと。
ばら撒かれるビー玉!
ポルターカッツェの攻撃だ!
ポルターカッツェは
連射型のビードロボーイ!
目を見張るべき玉数だ!
わわ、あっぶねえ!
すまない、助太刀感謝する。
ドラゴヒスイは
再びドリフトターン!
直撃玉をかわす!
跳玉に叩かれるも
致命のダメージではない!
おう、やるやないか、ニャンちゃん! けったいな口上あげてくるだけのことはあるなあ!
ワイが囮になって、ポリレールん方を先に倒そうとしとるのはお見通しっちゅうわけか。なら、ビードロボーイをのすか。ポリレールで攻撃を邪魔したりするんは骨折れるやろうからな……。
カケト! プリンちゃんの方は任せたで。ワイはニャンちゃんを仕置きしたるさかい。
わかった!
来るがいい! 迎え討つ!
聞こえるようにこう言や、ニャンちゃんはカケトへの注意が薄れ、プリンのおばはんはワイを気にしくなる。けど、チームファイトなことは変わらへんのになあ……!
……ふう。しみじみ……
薄暗いリビング。
家事と仕事を終え
ホットミルクを片手に
テレビをザッピング。
トイファイトの中継を見つける。
カケト! ……えっ、なんで騎士にケンカ売ったりしちゃうの、ちょっと!
二階へ向かう。
カケトの現実の肉体の横たわる
子供部屋へ。
ドラゴヒスイ
VS
プルプルンアイゼン!
そしてもう一方!
サンダースワン
VS
ポルタ―カッツェ!
主戦場は
ファイトフィールドの周辺部へ
それぞれ向かう!
あたかも
ファイトフィールドを折半し
同時に二組のトイファイトが
行われているかのよう!
うわわ、あぶねえっ!
迫りくる殺風列車!
ドラゴヒスイは
すんでのところで回避!
調子に乗るなよ小僧!
ドラゴヒスイは
実験的ヨロイビートル!
全方向回転可能な
球状タイヤが備えられている!
ゆえに旋回性能では
プルプルンアイゼンの上を行く!
だがそれだけだ!
本来ならば、あの一撃とてありうるものではないのだ! チャンピオンとやらの助けなき今、貴様は私の獲物に過ぎぬ!
舗装されたレールの上を
駆けるがゆえの超絶速度!
列車型の機体の長さゆえの制圧範囲!
重量ゆえの衝撃力!
げにすさまじきプルプルンアイゼン!
無敵と言ってもいい存在だ!
ただ二つの欠点を除いて!
うるっせえ! 同じようなこと何度も言いやがって!
小回りの利かぬこと!
操作の難しさ!
だがそれをものともせぬ者がいる!
ラプラス・レールプッター!
褒むべきかなその超絶技巧!
何度でも言おう! 正しき言なればこそ!
プルプルンアイゼンは孤を描く!
獲物を目がけて!
いや!?
後退しているのか!?
否!
これは挟み撃ちだ!
うわ!
喰らえ!
プルプルンアイゼンは
先頭車両と後部車両を分離!
そして後部車両をして
線対称に逆走させることで
挟み撃ちを行ったのだ!
くそ、それなら!
急加速するドラゴヒスイ!
いまだ最高速に達せざる後部車両に
自ら当たりに行き
強行突破を試みる!
吉凶や如何!?
ニャンちゃんこちら、手の鳴る方へ~。ま、アースピーダーに手はあらへんけどな。
ポルターカッツェの連射!
回避してのけるサンダースワン!
いと軽やかなり!
ドラゴヒスイの命運を
気にされる方も多かろう!
だがまずは
時をわずかに遡り
彼らの戦いがどう推移したかを
見ることとしたい!
読者諸卿! ご容赦を!
チャンピオンを自称するだけのことはありますのね。
ニャンちゃん、おしゃべりしててええんか?
ビー玉弾幕の隙間!
現れたるは雷撃!
サンダースワンの
フロントアタックだ!
Scheiße!
あわや!
射撃を行いつつ
ポルタ―カッツェは側転!
すんでのところで激突死を避ける!
せやせや、用心せんとあかんで~。この四人の中やと、ニャンちゃんのトイが一番足遅いさかいに。
Fick dich!
ポルターカッツェの連射!
ビー玉弾幕!
だが、やはり!
すり抜けるサンダースワン!
切り返しのごとき突進攻撃!
天晴れなるほど隙なきことよ!
おお! 地にあるかぎり
天からは逃れえぬというのか!
屋根無き戦場にては
雷雲は悪を逃さぬとでも!?
よっしゃ! ニャンちゃんの真後ろ! そこをプリンちゃんが通るに決まった!
そろそろビー玉が尽きるんやあらへんか~?
Fick deine Arschloch!
ビー玉! ビー玉! ビー玉!
ビー玉乱舞! 何たる大盤振る舞い!
だが当らぬ!
すわ! 雷撃!
サンダースワンの突進攻撃だ!
これも当らぬ!
恐るべき静電気の置き土産を
残して去りゆく!
ポルターカッツェが
わずかに誤作動を起こす!
お待たせした、読者諸卿!
サンダースワンが
プルプルンアイゼンに迫るこのとき!
かの菫色殺風列車は
車両切り放しを行ったのだ!
な!
これが騎士の戦! 一手に複数の意味を持たせ、時々刻々と変化する戦況に応じていく! 小僧どもとは違うのだ!
やるやないか。
サンダースワンは鋭角ターン!
消えゆくレールを駆け上る!
プルプルンアイゼンを
一撃のもとに滅ぼすことをあきらめ
まず片割れを討ちにかかった!
絶対者たる天空神のさだめ!
それは悪を討ち!
善を生かすこと!
サンダースワンよ
ドラゴヒスイを救出すべし!
Ende――
ドラゴヒスイ! やった! あ、――
他愛あらへ――
っと! あ!
ドラゴヒスイとサンダースワンの
二者が協力すれば
最高殺風速度に達した
プルプルンアイゼンを
真正面から止めることができる。
ならば
その半分の質量
それも最高速度に達しないものに
二者が全力でぶつかればどうなるか?
力を持て余すのが至当である!
――Berechnung.
心理誘導成功率、88.7%。レールプッティング適正率、94.9%。列車制御適正率、67.2%。と、いったところか。夢性不確定乱数を±7.0とした場合、絶対勝利確率は八割を切ってしまうか……
精進いたします、マーヤ陛下……!
プルプルンアイゼンの
後部車両を弾きだした二者は衝突!
ああ!
ドラゴヒスイにサンダースワンよ
かやうに
徒なる死や許さるるべき!?
生きよ!
何とぞ立ちあがりて
戦意を再び燃やすべし!
サンダースワン……
サンダースワンは横転し
動かなくなった。
レールの上は
列車以外には悪い足場だ。
奇妙な溝のある
オフロードとも言いがたい
想定外のアウェースタジアム!
中世欧州人にとっての
アフリカ暗黒大陸中央に
勝るとも劣らない!
この足場の悪さと
横から衝撃を受けたがゆえに
前後に長い
アースピーダーの特性として
サンダースワンの横転は
避けられなかったのだ!
けっこうがんばったじゃない、ボク。思いっきり負けちゃったけど♡
たとえ
サンダースワンを駆るものが
ゼウス以上のトイファイターで
あったとしても!
この敗北は避けえなかったろう!
否!
彼以上のトイファイターなど
存在せぬ!
雷雲を奉ろわせ
天と天下の一切を治める絶対者!
治天下ゼウスは頂点だ!
この彼が負けたという事実!
さだめという他に何があろう!?
この子って、眼鏡かけてカッコつけてるところが滑稽なズッコケ面白キャリア女子に見えるでしょう? 実際そうなの。
なっ、何を言う!? 私はそんな愉快さんではない! 計算の才を戦狼精神で固めたゲルマニア帝国の理想的軍人だ! 確定絶対的に!
ほら♡ ね? でもね、戦いにおいてはそれなりに使える子なの。不思議よね、魂がかませ犬色なのに。
ああ! ああ!
ならば夜よ!
我が問いに答えたまえ!
天空の絶対者が
負けたことがさだめならば
世界は帝国に征服されるがさだめ
というのか!?
善良なる子羊は
闇の狼が虜となるべきだと!?
さ、お遊びはおしまい♡ けがらわしい、非ゲルマニア人賊徒の駆除をしましょうか。
ふざけるなっ!
ああ! ああ! ああ!
幼けなくして小なれど!
猛きその意志!
気高き者よ!
お前は輝きを世に現す!
おれとドラゴヒスイはまだ戦える! ゼウスたちをやっつけたからって、調子に乗るなっ!
ドラゴヒスイは
深手を負いつつも生きている!
足場が十全であったこと
そして全球タイヤの自在機動!
これらによって
サンダースワンのように
横転せずには済んだのだ!
Fick dich! Heilige Scheiße! Fick deine Arschloch! Du bist Ficker! Fick!
しつこいな、小僧。お前一人で、我らゲルマニア帝国騎士二人を倒せると思うのか? もはやチャンピオンとやらの助けはないのだぞ?
……すまんかった、カケト。……逃げるんや。別に恥やない、トイファイトのデビュー戦で、しかも途中から二対一なんて、勝てるわけあらへん。
デビュー戦だと? お笑いだ! とんだ愉快さんだな、小僧。
ふーん♡ 初めてと最後が私たちでよかったね、ボク♡
いやだ! まだ勝負はついちゃいないんだ!
何言うとるんや! もうトイファイトどころやない、ワイが時間を稼ぐさかい、頑張って自分の家を、目を覚ますところを思い浮かべるんや……!
いやだ! 負けてもいないのに! 間違ってもいないのに! どうしてやめなくちゃいけないんだ! それにおれが逃げたって、ゼウスはどうするんだ!? アルテュールは!? それに、えっと、オスカル? だっけ? は!?
わ、ぼくもおともだちのつもりでいてくれたんですね! でしたらおぼえてください、ぼくはオスカーです。つづりはおなじですが、今のゲルマニアでは、そのようにはつおんするのです。
あと、ぼくはゲルマニア帝国の皇子です。いかにそこの騎士たちが暴虐といえど、むやみにころされたりはしないかと。ごしんぱい、いたみいります。
そうなのか! よろしく、オスカー! じゃあ、おれはこのままトイファイトするからな! 止めたってきかないぜ、お前が自分ちの子分が心配なのはわかるけど。おれは勝っても別にあいつらを殺すなんてぶっそうなことするつもりはないから安心しろ!
本気で勝つつもりなのか……? 本物の馬鹿はまったく測りがたい……!
まっすぐねえ。私、そういう子を苦しめて泣かして命乞いさせてから殺すの、結構好きです♡
カケト君、君はよくやった。僕のことさえ考えて戦おうとしてくれるとは! 僕は君の高潔に心を打たれた。僕は君に知り合えたことを誇りに思う。十分だ。下がってくれたまえ。
やめるんや、逃げろ! って言いたいけど……もうあんさんがそんなん聞かんっちゅうのはわかってしもたからな……
そういうことだ! だからアルテュール、しばらく見てろって。
仮面の兄ちゃん! なんか、しゃべっててだいぶ中断されちゃったけど、ファイト再開ってことでいいよな?
もちろん。
私はファイトオーバーを宣言していない。トイファイトをそっちのけで喋る君たちを注意しようか、とも思っていた。なかなか熱い展開だが、あまり長引くなら中継のチャンネルを変えられてしまかねない。
別にかまやしないが、今夜の放送局がちょっぴりかわいそうなのも確かだから。
やった! よし、やっつけてやるぜ! 俺をおもちゃのおまけのラムネみたいにあつかったこと、後悔させてやる!
ああ! ああ! 意気軒昂!
いとも輝かしき意志!
夜よ!
我は答えぞ受けにける!
善なるものは不滅なり!
絶対神が滅ぶとも!
意志ある者のある限り!
悪は仮初に過ぎぬのだ!
今のうちに吠えておけ、小僧! お前が我らに勝つ可能性は、贔屓目に計算しても0%だ!
うふふ……かわいい子。泣きながらお漏らしして、血と内臓をまき散らしてボクが死んでいくところ、私見たぁい♡