ミューリエは僕のご先祖様と友人同士だった。
つまりご先祖様と旅をしていたタックなら
当然そのことを知っているはずだ。
僕の知らないところで
様々な縁が複雑に絡み合っていたとは……。
ミューリエは僕のご先祖様と友人同士だった。
つまりご先祖様と旅をしていたタックなら
当然そのことを知っているはずだ。
僕の知らないところで
様々な縁が複雑に絡み合っていたとは……。
私はアレクに大きな恩がある。
だから何があってもヤツの遺言は
守らねばならぬ。
ただし、ヤツはこうも言っていた。
もしその子孫が
勇者に値しない人間だと
私自身が判断した時は、
遠慮なく見捨てて構わないと。
そんな……。
もっとも、
何の根拠があったのかは知らんが、
そうはならないだろうと
笑って言っていたがな。
事実、
その通りになっているのだから
面白いものだ。
うん。こうして一緒に旅を
続けているわけだしね……。
アレクはアレスと同じように
心の優しいヤツだった。
相手が誰であろうとも
無益な殺生を嫌った。
奇しくもアレスと考え方が同じだ。
私がここにいるのは、
その理念があればこそ。
アレスの力を目の当たりにした時、
コイツならば
アレクの目指していた世界を
実現してくれると感じた。
命を奪わず戦意を喪失させるという
あの素晴らしい力に
希望の光を見たのだ!
そっか、
だから僕がモンスターの命と
動物の命を差別しようとした時、
ミューリエは僕から
離れようとしたんだね?
そういうことだ。
私は今、
アレクとの約束を抜きにして
アレスのために
力になりたいと思った。
お前の目指すところへ
私もついていく!
ふふっ、何を今さら。
ミューリエはずっと一緒に
来てくれてるじゃないか。
僕とミューリエは顔を見合わせ、
思わず大笑いした。
久しぶりにすごく楽しい気分だ。
でも僕にはまだ知らないことがたくさんある。
ミューリエやタックからそれを聞いて、
受け止めていかないと。
ミューリエ、
ご先祖様の時代から
生きているということは
人間じゃない種族なんだよね?
その通りだ。
私はこの世のどの種族にも属さない
自然の摂理に逆らった存在。
それってどういう――
突然、洞窟全体が大きく揺れた。
細かい砂粒が天井から降り注いできて、
空気が埃っぽくなる。
なんだ、
今の音とこの大きな揺れはっ?
急いで外に出ましょう。
もし洞窟が崩れたら大変です。
最短ルートを案内するわ!
私についてきて!
僕たちはエレノアさんの後に続き、
試練の洞窟を駆け抜けていった。
モンスターは本能的に危機を察して
逃げ出したのか、
すでにどこにも見当たらない。
おかげで戦闘をせずに済み、
さらに途中には
短絡できる隠し通路なんかもあって、
地上にはあっという間に到着した。
なっ!
ひどい……。
洞窟の周りにある草原には
火の手が上がっていた。
地面のところどころには、
爆発か何かによってえぐられたような跡も
見られる。
見て、ルナトピアがっ!
遠くに見えるルナトピアの方では
あちこちから黒い煙が上がっていた。
さらに断続的に爆発音も聞こえてくる。
いったい、何がどうなっているん――っ!?
こ、この気配は……。
魔族の仕業かっ!
チッ……。
早くルナトピアに戻ろう!
タックやビセットさんの安否も
気になるし!
……他人の心配より
自分の心配をしたらどう?
えっ?
声のした方を見上げると、
そこには見覚えのある顔――
シャイン!?
あーらっ、覚えててくれたのね、
アレスお兄ちゃんっ♪
……嬉しいから、
真っ先に殺してあげたいわ。
下がれ、アレス!
う、うん……。
アレス様は私が守るわっ!
エレノアさんは腰に差していた
ショートソードを抜いた。
僕もシーラを庇うように立って
勇者の剣を構え、
周囲を警戒する。
シャインよ、
自らやられに来たのか?
手負いの貴様に私が倒せるか?
ふふふっ。
私だけなら無理だってことくらい、
分かってるわよ。
だから今回は
助っ人を連れてきたの。
なんだとっ?
シャインのすぐそばの空間が光った。
直後、その光の中から
シャインによく似た女の子が現れる。
――この気配、あの子も魔族か。
くっ!
ご無沙汰しております、
ミューリエさん。
先日は妹がお世話になりました。
スカートの裾を手で持ち、
丁寧な感じに会釈をした。
そのあと、
僕の方へ視線を向けて同じように
挨拶をしてくる。
勇者様、お初にお目にかかります。
魔王様の四天王の1人、
クロイスです。
皆様をあの世へ
ご案内させていただきます。
短い間となりますが、
なにとぞ
よろしくお願いいたします。
邪悪な気配を身にまとわせ、
クロイスは黒い刀身を持った双剣を構えた。
シャインも空間から大鎌を取り出し、
豪快に振り回す。
私とお姉様が力を合わせれば、
あなたを葬ることも可能でしょ?
正直、貴様らが連携すると厄介だ。
だが、シャインが手負いな分、
私にも勝機はある。
ふふっ、強がっちゃって。
そういうところは
昔と変わらないのね。
あなたのその性格、
今でも嫌いじゃないわ。
どうです、ミューリエさん。
降伏しませんか?
そうすれば勇者たちの命も
お助けしましょう。
断る!
それはプライドが
許さないからかしら?
……私たちが勝つからだ!
そう言うなり、
ミューリエはクロイスに剣による
先制攻撃を仕掛けた。
でもクロイスは
それが分かっていたかのように、
余裕の表情で一撃を受け止める。
お互いの剣がぶつかったまま押し合い、
金属のこすれる音がその場に響く。
2人はそのまま間近で睨み合ってから、
剣を弾いて一定の距離を保った。
ミューリエさん、
こんなにも力が残っているのね。
シャインから聞いてはいたけど、
想像していた以上だわ。
惜しいわ。
あなたを殺さなければ
ならないなんて。
ふっ、私は死なん。
随分と余裕ね。
何か根拠があるのかしら?
――アレス!
ミューリエは視線をクロイスに向けたまま、
僕の名前を呼んだ。
どうしたの、ミューリエ!
お前の力を貸してくれ。
さすがに私だけでは対処が難しい。
だが、私たちが力を合わせれば
必ず勝てる!
分かった。
僕はどうすればいい?
お前の力でシャインを
足止めしてくれ。
シーラと協力すれば
負担も少ないはずだ。
お任せください!
それでも余力があれば、
クロイスの足止めも頼む!
それじゃ、
私はアレス様たちの
護衛をするわね!
ふ……ふふふ……
あーっはっはっは!
突然、シャインが腹を抱えて大笑いした。
そのあと、ニヤニヤと口元を緩める。
――なんだろう、この嫌な感じは?
勇者に不思議な力が
あることを知って、
私が何も準備していないとでも
思った?
勇者に私たちの邪魔はさせないわ。
出てきなさい!
その掛け声とともに、
シャインの横の空間が揺らいだ。
そしてそこから何者かの影が現れ始める。
――こ、こいつはっ!
次回へ続く!