ミューリエは僕のご先祖様と友人同士だった。
つまりご先祖様と旅をしていたタックなら
当然そのことを知っているはずだ。

僕の知らないところで
様々な縁が複雑に絡み合っていたとは……。
 
 

ミューリエ

私はアレクに大きな恩がある。
だから何があってもヤツの遺言は
守らねばならぬ。

ミューリエ

ただし、ヤツはこうも言っていた。
もしその子孫が
勇者に値しない人間だと
私自身が判断した時は、
遠慮なく見捨てて構わないと。

アレス

そんな……。

ミューリエ

もっとも、
何の根拠があったのかは知らんが、
そうはならないだろうと
笑って言っていたがな。

ミューリエ

事実、
その通りになっているのだから
面白いものだ。

アレス

うん。こうして一緒に旅を
続けているわけだしね……。

ミューリエ

アレクはアレスと同じように
心の優しいヤツだった。
相手が誰であろうとも
無益な殺生を嫌った。
奇しくもアレスと考え方が同じだ。

ミューリエ

私がここにいるのは、
その理念があればこそ。
アレスの力を目の当たりにした時、
コイツならば
アレクの目指していた世界を
実現してくれると感じた。

ミューリエ

命を奪わず戦意を喪失させるという
あの素晴らしい力に
希望の光を見たのだ!

アレス

そっか、
だから僕がモンスターの命と
動物の命を差別しようとした時、
ミューリエは僕から
離れようとしたんだね?

ミューリエ

そういうことだ。

ミューリエ

私は今、
アレクとの約束を抜きにして
アレスのために
力になりたいと思った。
お前の目指すところへ
私もついていく!

アレス

ふふっ、何を今さら。
ミューリエはずっと一緒に
来てくれてるじゃないか。

 
僕とミューリエは顔を見合わせ、
思わず大笑いした。
久しぶりにすごく楽しい気分だ。

でも僕にはまだ知らないことがたくさんある。
ミューリエやタックからそれを聞いて、
受け止めていかないと。
 
 

アレス

ミューリエ、
ご先祖様の時代から
生きているということは
人間じゃない種族なんだよね?

ミューリエ

その通りだ。
私はこの世のどの種族にも属さない
自然の摂理に逆らった存在。

アレス

それってどういう――

 
 
 

 
 
 
突然、洞窟全体が大きく揺れた。

細かい砂粒が天井から降り注いできて、
空気が埃っぽくなる。
 
 

アレス

なんだ、
今の音とこの大きな揺れはっ?

シーラ

急いで外に出ましょう。
もし洞窟が崩れたら大変です。

エレノア

最短ルートを案内するわ!
私についてきて!

 
僕たちはエレノアさんの後に続き、
試練の洞窟を駆け抜けていった。
モンスターは本能的に危機を察して
逃げ出したのか、
すでにどこにも見当たらない。

おかげで戦闘をせずに済み、
さらに途中には
短絡できる隠し通路なんかもあって、
地上にはあっという間に到着した。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アレス

なっ!

シーラ

ひどい……。

 
洞窟の周りにある草原には
火の手が上がっていた。

地面のところどころには、
爆発か何かによってえぐられたような跡も
見られる。
 
 

エレノア

見て、ルナトピアがっ!

 
遠くに見えるルナトピアの方では
あちこちから黒い煙が上がっていた。

さらに断続的に爆発音も聞こえてくる。
いったい、何がどうなっているん――っ!?

こ、この気配は……。
 
 

アレス

魔族の仕業かっ!

ミューリエ

チッ……。

アレス

早くルナトピアに戻ろう!
タックやビセットさんの安否も
気になるし!

……他人の心配より
自分の心配をしたらどう?

アレス

えっ?

 
声のした方を見上げると、
そこには見覚えのある顔――
 
 

アレス

シャイン!?

シャイン

あーらっ、覚えててくれたのね、
アレスお兄ちゃんっ♪

シャイン

……嬉しいから、
真っ先に殺してあげたいわ。

ミューリエ

下がれ、アレス!

アレス

う、うん……。

エレノア

アレス様は私が守るわっ!

 
エレノアさんは腰に差していた
ショートソードを抜いた。

僕もシーラを庇うように立って
勇者の剣を構え、
周囲を警戒する。
 
 

ミューリエ

シャインよ、
自らやられに来たのか?
手負いの貴様に私が倒せるか?

シャイン

ふふふっ。
私だけなら無理だってことくらい、
分かってるわよ。
だから今回は
助っ人を連れてきたの。

ミューリエ

なんだとっ?

 
 
 



シャインのすぐそばの空間が光った。

直後、その光の中から
シャインによく似た女の子が現れる。


――この気配、あの子も魔族か。
 
 

ミューリエ

くっ!

クロイス

ご無沙汰しております、
ミューリエさん。
先日は妹がお世話になりました。

 
スカートの裾を手で持ち、
丁寧な感じに会釈をした。

そのあと、
僕の方へ視線を向けて同じように
挨拶をしてくる。
 
 

クロイス

勇者様、お初にお目にかかります。
魔王様の四天王の1人、
クロイスです。

クロイス

皆様をあの世へ
ご案内させていただきます。
短い間となりますが、
なにとぞ
よろしくお願いいたします。

 
邪悪な気配を身にまとわせ、
クロイスは黒い刀身を持った双剣を構えた。

シャインも空間から大鎌を取り出し、
豪快に振り回す。
 
 

シャイン

私とお姉様が力を合わせれば、
あなたを葬ることも可能でしょ?

ミューリエ

正直、貴様らが連携すると厄介だ。
だが、シャインが手負いな分、
私にも勝機はある。

シャイン

ふふっ、強がっちゃって。
そういうところは
昔と変わらないのね。
あなたのその性格、
今でも嫌いじゃないわ。

クロイス

どうです、ミューリエさん。
降伏しませんか?
そうすれば勇者たちの命も
お助けしましょう。

ミューリエ

断る!

クロイス

それはプライドが
許さないからかしら?

ミューリエ

……私たちが勝つからだ!

 
そう言うなり、
ミューリエはクロイスに剣による
先制攻撃を仕掛けた。

でもクロイスは
それが分かっていたかのように、
余裕の表情で一撃を受け止める。

お互いの剣がぶつかったまま押し合い、
金属のこすれる音がその場に響く。
2人はそのまま間近で睨み合ってから、
剣を弾いて一定の距離を保った。
 
 

クロイス

ミューリエさん、
こんなにも力が残っているのね。
シャインから聞いてはいたけど、
想像していた以上だわ。

クロイス

惜しいわ。
あなたを殺さなければ
ならないなんて。

ミューリエ

ふっ、私は死なん。

クロイス

随分と余裕ね。
何か根拠があるのかしら?

ミューリエ

――アレス!

 
ミューリエは視線をクロイスに向けたまま、
僕の名前を呼んだ。
 
 

アレス

どうしたの、ミューリエ!

ミューリエ

お前の力を貸してくれ。
さすがに私だけでは対処が難しい。
だが、私たちが力を合わせれば
必ず勝てる!

アレス

分かった。
僕はどうすればいい?

ミューリエ

お前の力でシャインを
足止めしてくれ。
シーラと協力すれば
負担も少ないはずだ。

シーラ

お任せください!

ミューリエ

それでも余力があれば、
クロイスの足止めも頼む!

エレノア

それじゃ、
私はアレス様たちの
護衛をするわね!

シャイン

ふ……ふふふ……
あーっはっはっは!

 
突然、シャインが腹を抱えて大笑いした。
そのあと、ニヤニヤと口元を緩める。

――なんだろう、この嫌な感じは?
 
 

シャイン

勇者に不思議な力が
あることを知って、
私が何も準備していないとでも
思った?
勇者に私たちの邪魔はさせないわ。

シャイン

出てきなさい!

 
その掛け声とともに、
シャインの横の空間が揺らいだ。
そしてそこから何者かの影が現れ始める。


――こ、こいつはっ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第66幕 急戦! ルナトピア炎上!!

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