Ⅲ 骨董市で手に入れた小箱
 M先輩がその異変に気づいたのは、恋人と別れてすぐの頃だった。

カタン、カタン

夜中、M先輩が眠っていると、どこからともなくカタンカタン、という音がする。鉛筆が机を転がり床へ落ちた時のような、硬質な音だ。

ああ、もう!目覚めちゃったじゃない!!せっかく良い夢を見ていたのにー。こんな夜中に何?何かが落ちたのかしら?起きたら確認しないと

 けれど朝になって確かめても、音の原因は特定出来なかった。
机や引き出しから落ちたものや壊れた物など、どこにも見当たらない。
部屋はM先輩が眠りについた時と、少しも変化がなかったのだ。
 そこでM先輩は、これはただの気のせいか、あるいは家鳴りだと思うことにした。

 けれど不思議なことに、音は止まなかった。

カタン、カタン

不思議なその音は、週に何度も続く。
それも決まってM先輩が眠りに落ち、心地よい夢の世界に羽ばたいている頃。
M先輩は音のせいで目覚めてしまい、その後に眠れなくなることがしばしばあった。

一体、あの音の正体は何――?

いつも同じ方向から、音は鳴っている。
不思議に思ったM先輩は、その音のする方向――化粧台の引き出しを開けた。
 中には別れた彼氏の置いていった小箱がある。
地元の骨董位置で買ってきたそれは、黒塗りで六角形をしている。
つやつやとした蓋の部分に繊細な白蝶貝の細工が施されていて、たいそう美しい。
どことなく、昔の中国の伝統工芸品のような雰囲気を纏っている。
 M先輩は何気なく、その箱の蓋を取った。

 その瞬間、目の前に現れた物に瞠目する。

何っ?これは何なの?気持ち悪い……。

M先輩が驚くのも無理はない。
中には大量の毛が入っていたのだ。

あいつ、なんて物を残してくれたの……!


怒りに震えたM先輩は、翌朝コンビニへ駆け込むと、宅急便でその小箱を別れた恋人へ送った。

出来るだけ早く、出来れば速達で。

きっぱりと言い切るM先輩に、コンビニの店員は面食らっていたという。

以来、部屋では不思議な物音がしなくなり、M先輩も快眠を貪っている。

ホント、別れて正解だったわ。私の夢を邪魔する、気持ちの悪い男なんて。

Ⅲ 骨董市で低に入れた小箱

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