Ⅰ 白い手袋をした少女

またいるね、あの子。

並んで歩く帰り道。私の隣りにいる依絵はそんなことを言いだした。

えっ?また、って……どの子が?どこに?

話の要領を得ない私は、きょろきょろと挙動不審なままあたりを見回し、依絵に尋ねる。

だから……あの子だってば。ほら、あの信号の横。ぼうっと立っているでしょ?あの子、いつもああしているの。決まって白い布手袋をして。

依絵に促され、交差点の方へ目をやる。
信号機の脇に、一人の少女が佇んでいる。
だが、わたしは寒気に襲われて、とっさに目を逸らしてしまった。

たしかに、私も前にも見たような気がする。気持ち悪いねえ……早く行こう。

もう見るのは止めたはずなのに、動悸が止まらない。
ふと依絵を見る。
彼女もすっかり青ざめた表情になっている。
私たちは足早に、その場所を後にした。

っていう話があったわけ。気持ち悪いと思わない?

たしかにまあ、怖いけど……思い込みじゃない?何か事情があるのかもしれないし。ってかさ、見ず知らずの女子に気持ち悪いとかいうの、感じ悪いなあ、あんたら。下品って言うかさー。

まあ……そだね。

あれから一週間。帰宅途中に遭遇した奇妙な少女の話を、私はクラスメイトの夕子にも話していた。

悪かったわね、下品で……あっ。

 その瞬間、私は言葉を失った。
あの白い手袋の少女の姿を、目の前に発見したのだ。
目の前と言っても、五十メートルほど先。けれど確実に、彼女は私たちに気づいている。
平凡な紺色のブレザーを着て、なぜか両手には白い手袋をしている。テレビドラマに出てくる警察の鑑識の人がしているような、あるいはお金持ちの専属運転手がしているような、薄手の白い手袋だ。
ブレザーと手袋の組み合わせがあまりにも異様なので、私たちの目は釘付けになる。
 その視線に気づいているのだろうか、少女はなおも俯いたままだ。多分、上目遣いにこちらの様子を伺っているのだろう。
それに気付くと、背筋が自然と冷えてくる。

や、やばい……あいつやっぱり幽霊なのかも。早く逃げよう。

私は夕子の手を引いて、足早にその場所を後にした。

 それから数ヶ月。部活動の夏合宿で、私たちは湖の畔を訪れていた。
夜のお楽しみといえば、もちろん百物語。

じゃ、次は四季乃の番。はいどうぞー

私は促されて、手袋の少女の話を始めた。

でね、依絵とその女に会ってからしばらくして、今度は夕子と一緒に帰っていたってわけ。その帰り道にさ、何気なくその話をしたら、また目の前にその女が現れて……

 私は得意気に話した。きっとみんなは、きゃー!とか、わー!とか、叫び声を上げて喜んでくれるはず。
けれど予想に反して、みんなは押し黙ったままだった。

どうしたのだろう?

不思議に思った私は、顔を上げる。
目の前には、あんぐりと口を開け、真っ青になったみんなの顔が並んでいる。

はあっ……!?

四季乃、やばいよ……うしろ……。

朝美が、唇をガタガタと震わせながら言った。

へ?

何事か把握できないまま、後ろを振り返る。

……。

白い手袋が口をふさいだのは、それから一瞬、後のことだった。

Ⅰ 白い手袋をした少女

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