Ⅴ エピローグ
わたしは命からがら逃げ出して、なんとか助かることができた。
けれどそれ以来、いついかなる時にも、あの夜の彼の断末魔の叫びが耳から離れなかった。
白い壁に頭を打ちつけているときだけ、禍々しい幻影から逃れられた。

精神病院の閉鎖病棟で”彼”がその短い生涯に幕を下ろしたのは、それから三年後のことである。
噂によれば、”彼”はある夜、墓場で恐ろしいものを見て、そのために精神の均衡を崩してしまったのだという。
意識のある限り、”彼”は病室の壁に頭を打ち続けた。
彼を支配しているのは、あの夜に目撃した、ジョンとレイラの血と狂気の幻影だろう。

助けてくれ、命だけは……。

最後の瞬間まで、”彼”は譫言のように命乞いの言葉をわめき散らしていたという。

End.

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